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45.呪い

サブタイトルは怖いですが、怖くありません……。

 しばらくすると、ローランが私の部屋に戻ってきた。

「ああ、リジーがいた!よかった!」

 私を見るなり、そう言ってぎゅっと抱きしめた。


「もう、大袈裟なんだから! いるに決まってるよ。約束したんだし」

 私は、ローランの背中をポンポンと叩いた。


「そうだね。……リジー、お待たせ。それじゃ、行こうか」

 ローランは私を抱きしめた腕を解き、私の手を取って部屋を出た。


 王宮の回廊を2人で手を繋いで歩く。

 廊下に等間隔で立っている衛兵たちの驚いたような視線がつらい。


 そりゃ驚くよね。

 普段、廊下を手を繋いで歩いている王族はいない。

 恥ずかしいので何度か手を離そうとしたが、ローランは離してくれなかった。


 すれ違う女官たちも、私たちが手を繋いでいることに気づくと、驚いた顔を見せる。でも、皆すぐににこやかな微笑みを浮かべ、お辞儀をして去っていく。


 あー、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。


 手を繋ぐというのは、人が見ていない場所でするものではないのか……。

 これは、ローランと一度しっかり話し合わないといけない。


 そう思って、隣りのローランを見ると、何事もない顔をしている。


 ローランは恥ずかしいという感情をどこかに置き忘れてきたのかもしれない。

 衛兵たちや女官の視線を何とも思っていないようだ。


 これでは話が通じないかもしれないな……と、がっくり項垂れながら歩く。


 あぁ、魔導士様の部屋は遠いな……。


 見世物にされている気分だった。


 ◇◇◇


 やっとの思いで、魔導士様の部屋に着いた。

 今日はローランも一緒なので、いつもの勉強机ではなく、手前のソファに案内された。


「ローラン王子殿下もご一緒とは、何かありましたか?」

 魔導士様がローランに尋ねた。


「うん、僕にかけられた魔女の呪いの解き方をリジーに教えて欲しいんだ」


「あぁ、そういうことですか」


 そう言うと、魔導士様はローランの胸の刻印のあたりに右手をかざした。


「リジー、よく見ていなさい。これがローラン王子殿下の呪いの正体だから」


 魔導士様が何か呪文のようなものを唱える。

 すると、ローランの胸の真ん中から、細い鎖がぐるぐると巻き付いた物体が浮かび上がった。

 ローランは意識を失っているようだった。


「これはローラン王子殿下の心臓で、巻きついている鎖が呪いの正体だ」


 これが呪いの正体ーー。


「こんな鎖、消えて無くなってしまえばいいのに」

 そう言いながら、鎖に触れる。


 すると、ピキッと音がして、私が触れた場所の鎖が切れた。でも、切れたまま心臓に巻き付いている。


 もしかして、念じながら鎖に触ると切れるのかも!?


 私は次々に鎖を触ってみたが、結局鎖が切れたのは最初に触った場所だけだった。


 私がひととおり鎖に触れたのを確認し、魔導士様が「もういいか?」と訊いてきた。


 私が「はい」と返事をすると、魔導士様はまた呪文を唱えて、浮かび上がっていた鎖付きの心臓をローランの身体に戻した。


 まだローランは目を瞑っている。


 あんな心臓がローランの中にあるなんて……。


「ローラン……」


 私はローランの頬を何度も撫でる。


 そんな私に向かって、魔導士様は冷静に言った。


「ローラン王子殿下は、少し気を失っているだけだ。そのうちに目が覚める」


「魔導士様、先ほどの鎖をきれいに消し去るにはどうしたらいいのですか?」

 私は縋るようにして、尋ねた。


「水属性のリジーが、毎日、刻印の上に手を当てていれば、そのうち消えるはずだ」


 その言葉に、ふと、エリック様のことを思い出した。


「エリック様も同じですか?」


「多分同じだろう」


「どれくらいの期間、手を当てていたら消えますか?」


「分からない。ただ、リジーと会ってからローラン王子殿下にかかっている呪いの力が弱まっているのは確かだ。リジーの魔力も上がっているし、案外早く解けるかもしれないな」


 その時、ローランの瞼が小刻みに震えた。

 そして、ローランが目を覚ます。


「ローラン、大丈夫?」


 私はローランに抱きついた。

 ローランは私の背中に腕を回しながら言った。


「リジー、大丈夫だよ。呪いの解き方、分かった?」


 うんうんと何度も頷いた後、ローランの胸の刻印が気になった。


「ローラン、胸の刻印を見せてくれない?」


「いいよ」


 ローランはシャツのボタンを外し、胸の真ん中にある魔女の呪いの刻印を見せてくれた。


 私はその刻印の上に手を当てようとして、ふと自分の右手に目をやった。


 さっき心臓に巻き付く呪いの鎖をこの手でペタペタ触ったばかりだ。

 なんとなく、この手は汚れている気がする。


 慌てて、ドレスのポケットに入れていたハンカチで、きれいに手を拭く。


 そして、改めてローランの胸の刻印に手を当てた。

「魔女の呪いなんて消えてしまえ」と強く念じながら。


 すると、手を刻印に当てた瞬間に、右手が水色の光に包まれた。


「リジー、それは何だ?」


 魔導士様が鋭い声で訊いてきた。


「え?!」


 魔導士様の声に驚いて手を刻印から離すと、手のひらから薔薇の花びらがヒラヒラと落ちた。


「薔薇?」


 ビックリしてポケットを探ると、数枚の薔薇の花びらが入っている。


 どうやら、薔薇園で花びらが少しポケットに入ったようだ。薔薇の小道を通ったときにドレスが引っかかったので、その時に入ったのかもしれない。


 そのうちの一枚が、ハンカチで手を拭いた時に、手のひらについてしまったようだ。


「その薔薇はどこの薔薇だ?」


 魔導士様が訊いてきた。


「これは、王家の薔薇園の薔薇です」


 私がそう答えたとき、突然ローランが大声で叫んだ。


「うわ、リジー、凄い!呪いの刻印が消えてる!」


 え?


 ローランの胸の真ん中を見ると、呪いの刻印はしっかりと存在している。


「残念ながら消えてないよ」と言おうとして、もう一度よく見ると、少しだけ刻印が欠けていた。


 だいたい6分の1くらいだろうか。

 確かに刻印の一部が消えている。


 とはいえ、まだ刻印の大半は存在しているのに、ローランは大はしゃぎだ。


 魔導士様は言った。


「おそらく、リジーの魔力とその薔薇が呼応して、呪いを一部消すことができたのだと思う。これからも、いろいろと試してみる価値はありそうだ」

ありがとうございました。

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