38.協力2
私は、自分の左手を見る。
薬指に婚約指輪が輝いている。
そこに、ローランが左手を重ねてきた。
お揃いのエメラルドが光る。
お互いの目の色に合わせ、同じ石で作った2人だけの指輪。
見れば見るほど、緑の宝石はローランの目の色に見える。とても綺麗だ。
「リジーの瞳の色と一緒でとても綺麗だね」
ローランも同じことを思ってくれたみたいで、うれしい。
2人が同じ瞳の色でよかった。
私がうっとりとローランを見つめていると、ローランが2つ並んだエメラルドを眺めながら言った。
「この婚約指輪には、どちらも僕の魔力が込められている。ここに、リジーの魔力も込めてほしい」
魔力を込めるというのは、どうすればいいんだろう。
私も、エメラルドをじっと眺める。
「どんな風にすればいいの?」
2つの指輪を見ていた視線を上に向け、ローランの目を見て訊いた。
「そうだな、僕たちの婚約指輪に2人のことを守ってくれるよう念じてくれる?」
「うん、わかった」
それなら、普段魔法を使うときと同じだから問題ない。
ローランと私のことを守ってくれるように、2つの指輪に向かって強く念じる。
2つの指輪の上に、右手もかざした。
「え!?」
突然、2つの指輪が眩しいほどの激しい光を放った。
びっくりして、慌てて右手を外す。
ローランは満足そうに、2つの指輪を撫でながら言った。
「リジー、ありがとう。今の強い光がリジーの魔力だよ!ね、凄いでしょ。僕の魔力量も多いほうだと思っていたけど、リジーには適わないよ。これで、この指輪には僕たち2人の魔力が込められたから、この指輪が僕たちを守ってくれる」
私はローランの言葉を聞きながら思った。
へぇ、私の魔力量は多いんだ。
ロジェより多いのは分かっていたけど、ローランよりも多いなんて……。
そして、指輪が守ってくれるって言ったけど、どういう場面で守ってくれるのだろう。
これから、たとえば魔女と戦ったりするのかな……。
私がまだ見ぬ魔女のことを考え身震いしていると、ローランが笑顔で言った。
「リジー、怖い顔をして何を考えているの? そんな怖い話じゃないよ。そうだな。この指輪を婚約式で塡めた時から、2人は繋がったような気がしなかった?」
「した!」
婚約式でローランに婚約指輪を填めてもらったときに、2人が結ばれた気がして感動したことを思い出した。
「それは決して気のせいではないんだ。実は、この指輪でお互いの居場所が分かるんだよ。これは、リジーの魔力を込めてもらう前から出来たことなんだ。でも、リジーが魔力を込めてくれたから、さらに性能がアップしたんじゃないかな」
「お互いの居場所がわかる?」
「うん、そうだよ。今は一緒にいるから使えないけど、2人が離れている時に指輪に向かって、僕がどこにいるのか強く念じてみて。きっと僕の居場所が分かるよ」
「へぇ、凄い!」
どこにいても居場所が分かっちゃうんだ。GPSみたい。
拘束されるのが嫌なカップルには向いていない指輪だな。
私はどうせ王宮の中にしかいないから、いつ探してもらっても全然問題ないけど。
確かに、この世界には携帯電話が無いから、居場所が分かるのは役立つ時がくるかもしれない。
ローランはすぐどこかに行っちゃうから。
私はそんなことを考えながら、後でローランが出かけた時に、この指輪でローランの居場所を探してみたい、とワクワクしていた。
◇◇◇
その時はすぐにやって来た。
ローランの侍従が、私の部屋にローランを迎えに来たのだ。
「何の用だろ? リジー、父上に呼ばれているみたいだから、ちょっと行ってくるね」
「いってらっしゃい」
私はローランを気もそぞろに見送った。
さっそく指輪を試せる、というワクワクで心がいっぱいだった。
今はまだローランは回廊を歩いているくらいだろうから、もう少し時間が経ってから試そうかな。
そんなことを考えていると、また、誰かが扉をノックした。
次々と誰だろう。
「リジー、いる? エリックだけど、いいかな?」
エリック様?
「どうぞ」
扉を開けると、目の前にはエリック第六王子殿下がいた。
「リジー、昨日は本当にありがとう。リジーのおかげで助かったよ。リジーと少し話がしたいんだけど、いいかな?」
エリック王子殿下は、昨日みたときとは打って変わって、すっかり元気そうに見えた。
顔色もよく、熱は下がってそうだ。
「はい、大丈夫です。……エリック王子殿下の体調はもういいのですか?」
エリック王子殿下は笑顔を見せた。
「おかげでもうすっかり熱が下がって、体も楽になったよ。こうして、動くこともできるし。ありがとう」
「それはよかったです」
どうぞ、と私が部屋の中に案内しようとしたが、エリック王子殿下は断った。
「いや、リジーの部屋で話すのはやめておくよ。僕はまだ病み上がりで、部屋中に病気をばら撒いたら大変だ。それに、ローランにも悪いしね。もし、リジーがよければ、王家の薔薇園で話したいんだけど、かまわないかな?」
王家の薔薇園。前にローランに連れて行ってもらったところだ。
「はい、大丈夫です」
エリック王子殿下はローランや私より2歳年上の17歳。
金髪の髪が肩まで伸び、青い目をしている。
ローランとはまた違う美形だ。
確か、昨日見た時、ローランと同じ刻印が胸の真ん中にあった。
その話をローランとしたいと思っていたが、すっかり忘れていた。
「よかった。それなら馬車で行こう。一緒に来て」
私はエリック王子殿下に連れられて、王家の薔薇園に向かうことになった。
私はイザベルたちに薔薇園に行くと声をかける。
イザベルたちはエリック王子殿下の顔を見て驚いていた。
「私たちも付いて行こうか?」
そう訊かれたが、昨日の治療魔法の話になることが予想できたので、断った。
魔導士様の教えのとおり、イザベルたちに魔法の話はしないようにしている。
私たちに随従しているのは、エリック王子殿下の護衛の騎士が2名だけ。
エリック王子殿下と私が馬車に乗り、騎士たちは馬で向かう。
馬車の中ではエリック王子殿下は何も話さず、外の景色を眺めていた。
仕方なく私も外の景色をぼんやり眺める。
程なくして、馬車は薔薇園に着いた。
ありがとうございました。