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34.手当

 ローランは少し逡巡してから、話し始めた。

「父上が急に会えなくなったのは、多分、兄上たちが高熱を出して倒れたからだと思う……」


 え?どういうこと?


「ラウル兄さん、アラン兄さん、エリック兄さんの3人が、立て続けに熱を出したんだ。ひどく咳き込んでいるとも聞いている……」


 ラウル第四王子殿下、アラン第五王子殿下、エリック第六王子殿下の3人が熱を出した……。

 それは、ただごとではない!

 

 でも、ローランは大丈夫なの?

 思わず、目の前のローランの様子を観察する。


 今のところ、ローランの体調は問題なさそうだということを確認して、ローランの話を促す。


「そうなんだ……」


「何の病気かわからなくて、侍医が処方した薬剤が一向に効果が無いと言っていた。ますます熱が上がるばかりだと……」


 そこまで話して、ローランは何かに気づいたような顔をする。

 そして、顔を近づけて、周囲に声が漏れないように小声になった。


「リジー、リジーは水属性だから、もしかしたら、リジーなら何とかできるかも……」


「え?そうかな?」


 うーん。ローランはいつも私を高く買ってくれてるけど、本当にできるのかな?

 まぁ、やってはみるけど……。

 魔導士様にもそういうのは習ってないからな……。


 ◇◇◇


 食事を終えると、ローランは、私に王子殿下たちの病状を診せるように話してくる、と言って、どこかに行ってしまった。

 私はとりあえず部屋に戻る。


 ローランの行動力の高さは、十分すぎるほど理解している。

 だからきっと、王子殿下たちの病状を私が診察する権利を勝ち得て帰ってくるに違いない。


 本音を言わせてもらえれば、私は医者じゃないから、診察して何かできるとは思わない。


 ただ、もしかしたら、前世の知識が役立つかもしれない。

 前世のほうが、はるかに医学は発達していたから。


 それでも、たとえ病名が判明したとしても、この世界に薬が存在しなければ治療ができない。


 うーん……。


 でも。

 期待されているから、何か応えたいな。

 前世の知識を思い出そう!


 3人立て続けに高熱が出たということは、きっと何らかの感染症かも。


 風邪とかインフルエンザとかだと仮定して、さっきミック爺さんに分けてもらったハーブで、ハーブティーの準備をしてみようかな。

 

 うん、そうしよう。

 それが最善の考えだと思った。


 さっき、いろいろ摘みたてのハーブを分けてもらったところだ。

 たとえ違う病気だとしても、毒にはならないはずだから、どっちにしろ飲んでもらおう。


 私は、先程分けてもらったハーブを数種類選んで洗い、水を切った。

 同時にお湯を沸かす。

 水を切ったハーブを手のひらにのせ、軽く叩いて、ティーポットに入れ、お湯をそこに注いだ。


 あとは、これ以上の感染を防ぐために、マスクをつくる。

 半分に畳んだハンカチをさらに半分に折ってリボンを通しただけの簡易なものだが、無いよりはマシなはずだ。

 取り急ぎ5つ。

 病気の3人分と私とローランの分。


 ちょうど、ハンカチマスクが5つ出来たタイミングで、ローランが部屋に戻ってきた。


「リジー、父上の許可がおりたので、兄上たちの様子を見に行こう」


「分かったわ」


 私は今用意したマスクと、ハーブティーをイザベルたちに運んでもらうようお願いして、ローランについていく。


 最初は、ラウル第四王子殿下の部屋だ。

 部屋に入る前に、ローランにお手製のマスクを付ける。もちろん私も付ける。

 

 イザベルとステイシーとシモーヌには、部屋の前でハーブティーをカップに注いでもらう。


「ローラン、こちらのお茶はさっき私がつくったものなんだけど、お薬だと思ってラウル様に飲んでいただきたいの」


 私がそう言うと、ローランは黙って頷いた。

 私のことを全面的に信頼してくれているのがわかった。

 ローランは毒見を頼まなかった。


 私とローランの2人で部屋に入る。

 イザベルたちには部屋の前で待機してもらった。


 ラウル様の部屋では、ベッドの側に数人の侍従がいて、心配そうに様子を見ている。

 侍従たちはローランの顔を見ると、お辞儀をして、ベッドの側から離れた。

 私とローランは、侍従たちが離れたことを確認して、ベッド脇に置かれた椅子に座る。

 ベッドの上のラウル様は、苦しそうな顔をしていた。


「ラウル兄さん、分かりますか?ローランです。婚約者のリジーを連れてきました。ご存知のとおり、リジーは水属性です。リジーが処方した、こちらのお薬をまずはお飲みください」


 ローランは静かにラウル様に語りかけながら、ラウル様を起こし、ハーブティーを飲ませた。


 全てのハーブティーをラウル様が飲み終えたのを確認した後、

「さ、リジー、お願い」

とローランが私に声をかけた。


 私は「うん」と頷き、ラウル様にお手製マスクを付け、まずはおでこに手をあてて、熱を確認する。

「熱い」

 かなり熱が高い。

 少し咳き込む様子も見られる。


「なんとか熱が下がって欲しい」という想いを込めて、おでこに当てた手を外し、今度はラウル様の胸に手を当てる。


「神様、仏様、どうかラウル様の熱を下げてください」


 そう無意識につぶやいていた私は、もはや魔法使いでもなんでもない。ただの神頼みだ。

 この国には仏様がいらっしゃらないようだけど、縋れるものなら、仏様にもお願いするのでいいよね。

 そう自分に言い訳しながらも、必死に念じる。


 魔法を使うときと同様に、魔力を感じながら、熱が下がることを強く念じたが、手のひらが光る、とか、劇的に熱が下がる、とか、そういう現象は起こらなかった。


 これ以上、ラウル様のところに長居しても、もう私にやれることはないので、ローランに「終わったよ」と告げて、ラウル様の部屋を出た。


 次はアラン様だ。

 アラン様の部屋でも、ラウル様と同じことをする。

 病状も、見た限りはラウル様と同じようだった。


 最後は、エリック様だ。

 エリック様にも同じようにする。

 ハーブティーを飲ませて、マスクを付けた。

 そして、エリック様の胸に手を当てようとして、思わずローランの顔を見てしまった。


 エリック様の胸には、ローランの胸にあるのと同じ刻印が刻まれていたのだ。

ありがとうございました。

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