30.準備3
やっと30話まできました。
拙い文章を読んでいただいて、本当にありがとうございます。そして、ブックマークしていただいた方、評価をしていただいた方、本当にありがとうございます。こんなに嬉しいとは知りませんでした。いつも励みにしております。ありがとうございました。
イザベルたちはお茶の用意をすると、すぐに部屋を出て行った。
それを見届けると、ローランは部屋の鍵を閉めた。
「馬車の中でリジーが魔女の呪いの刻印を触ってくれてたでしょ?ちょっとリジー、見てみて」
そう言って、ローランはシャツのボタンを外し、胸の真ん中を見せた。
「どう?薄くなった?」
ローランに言われて、じっと呪いの刻印を見る。
うーん。馬車の中で見た時と色は変わっていないような……。
「特に、変化はないように見えるけど…」
正直にそう言うと、ローランは少し落ち込んだ素振りを見せた。
「……そっか。リジーに触ってもらっている時は、呪いの力が弱まってる気がしたんだけどな…」
でも、すぐに気を取り直したようで、ローランは笑って言った。
「そりゃそうか。もう、この呪いが刻まれてから10年近くなるし、そんな長い間体に染みついてるものはすぐには消えたりしないか…」
「10年近く?」
私は呪いの刻印に触れながら訊いた。
「うん、そうだよ。僕が6歳のときに刻まれたんだ…」
「そうなんだ…」
6歳の時、そんな小さな時にローランは怖い思いをしてたんだ…。
寂しそうな顔をして笑うローランを見て、辛くなった。
「ねぇ、この呪いの刻印は痛かったりするの?」
訊きながら、呪いの刻印をなぞる。
ローランの顔は真剣だ。思い詰めたような顔をしている。
「うん、時々ものすごく、締めつけられるように痛む時があるんだ。心臓を片手で握りつぶされているような痛みなんだ。じっと立ってなんていられない。
まるで、魔女の呪いのことを忘れるな、と僕に教えるかのような強い憎しみのこもった痛み……。でも、この刻印のせいで、僕は1日たりとも魔女の呪いのことなんて、忘れたことないのに」
ローラン…。そんな痛いんだ…。
痛みの強さを聞いただけで、私は思わず顔を顰めた。
私は続けて尋ねる。
「どういう時に痛くなるの?何かきっかけとかあるの?」
ローランは首を横に振った。
「ううん。痛くなるのは、いつも突然だよ。いつ痛くなるのか分からない。きっかけなんてない。さらに、ここ数年は痛みを感じる頻度が増えてきたんだ」
「そうなんだ」
痛くなる法則はないのか…。
せめて、いつ痛くなるか分かれば、前もって何か対処できるかも、と思ったのだが、それも難しい。
私が険しい顔で考えていると、ローランが私の眉間に指を当て、微笑みかけた。
「リジー、眉間が寄ってるよ。…僕のために、いろいろ考えてくれてるんだね。ありがとう。…でも、この痛みなんだけど、リジーと初めて謁見の間で出会った時以降、一度も痛くなっていないんだよ。リジーは凄いよ」
私はローランの言葉がうれしかったけれど、冷静に考えて、私とローランは知り合ってからまだ1ヶ月半くらいだ。
私が凄いのではなく、たまたまじゃないのだろうか。
「ローラン、そう言ってくれるのはうれしいけど、たまたまじゃないの?まだ、知り合って2ヶ月も経ってないから」
ローランは、私の両肩に手を置き、私の目を見て言った。
「 僕も最初はそう思ってたんだけど…。というか、最初は気づかなかったんだ。でも、最近気づいたんだよ!リジーと出会う前は10日に1回くらいは痛くなってたのに、それが、出会ってからは一度も痛くないんだ!」
ローランは私にそこまで言ってくれたけど、私はまだ半信半疑だった。
「ローラン、でも、私は1ヶ月領地に行ってたよ。ローランと離れてたのに、そんな効果あるのかしら?」
ローランも頷いた。
「うん、それはね、僕も思ってたことなんだ。リジーが王都にいなかった間も痛くならない効果が続くのか…。そこはよく分からないことだけど、事実は、リジーと知り合ってから一度も痛くないということなんだ。リジーが王都にいてもいなくても、リジー効果は続くということだと今は思っている」
リジー効果!?
虫除け効果みたいなイメージだろうか?!
虫除けがあれば虫が寄ってこないのと同じように、私がいれば痛くならない?!
そんなバカな…。
それはいくらなんでも、ローランが私のことを買いかぶり過ぎだ。
そんな能力は知らないし、魔導士様からも聞いていない。
まぁ、でもローランが私のことをそう思ってくれているのを否定するのも違うのかな?
だけど、今度一緒にいるときに、呪いの刻印が痛みだしたらどうする?
私の効果が切れた、と言われても、どうしたらいいのか分からない。
「うーん。ローラン…。残念だけど…私にそんなすごい能力があるようには思えないの。…ローランのことは大好きだし、なんとか呪いを解くつもりではいるんだけど…。もうちょっとちゃんと勉強するから、待ってて。ローラン!」
私は正直に自分の気持ちをローランに告げた。
大好きだけど、過度な期待をさせてもいけないし。
でも、この3年間でローランの呪いを解くつもりだ。
だけど、私の言葉にローランは納得しない。
「リジーが自分の凄さに気づいていないだけだよ!リジーには、僕にかかっている魔女の呪いを弱める効果があるんだから」
そう言うと、ローランは急にソファから立ち上がった。
「リジー、決めた!僕は今日から、この部屋でリジーと一緒に過ごす!どうせ日中は、リジーは妃教育があるし、僕とは離れ離れになるんだから、せめて夜くらいは一緒に過ごそう。父上に許可を取ってくる!」
「?!」
私はローランが突然何を言い出したのか分からなかった。
疑問が顔に出ていたのだろう。ローランが付け足した。
「出来る限り、リジーと一緒に過ごす時間を増やしたいんだ。それで、僕の仮説が裏付けられる。リジーが側にいることで魔女の呪いが弱まるのか、それとも関係なくまた痛みがやってくるのか、一緒に確認できるだろう?
……僕は、リジーの近くにいると、呪いの力が弱まっているのを感じるんだ。だから、僕は出来るだけリジーの近くにいたい!」
そして、ローランは私の部屋を出て行った。
ローランの後ろ姿を見て、考える。
ローランの私に対する執着は、私のことを好きなのではなく、魔女の呪いが弱まる気がするからだ。
死ぬかもしれない呪いだから、私のことは藁にもすがる思いなのだろう。
私はそれを知っても別に落胆しなかった。
誰かに必要とされるのは悪い気がしない。
相手がローランのような美しい王子様だったら尚更だ。
ローランのしたいようにさせてあげよう。願いは何でも叶えてあげよう、という気持ちになっていた。
ありがとうございました。
一応、ここまでが第1章となります。
次から第2章が始まります。よろしくお願いします。