表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/134

3.初日3

初日が終わったかのように書いていましたが、まだ終わっていませんでした・・・。なかなか進まず、すみません。。。

 迎えの馬車に乗り込んで、自分の屋敷に戻る。

 屋敷では、家族と一緒にいつものように夕食をとった。疲れ切っていた私は何も話す気になれず、その様子を見て、両親も私に話題を振ることはなく、母を中心に他愛もない会話が行われた。

 私は、時々愛想よく頷くぐらいで、結局食事を終えるまで一言も話さなかった。


 夕食を終えて全員で応接室に移動し、お茶をする。

 そこで、我慢ができなくなったのだろう、母が私に訊いてきた。

「リジー、今日はどうでした?うまくやれましたか?」


 私も夕食をとったことで、だいぶ疲れが取れ、元気が回復していた。

「一緒に女官教育を受けた2人の令嬢と友達になれそうです。女官長は少し怖いですけど、まぁなんとか……」

 そこまで話して、口を噤む。

「お母様のご心配には及びません」と言おうとして……考える。


 待てよ。これではいけない。これでは、昨日までの何も言えない私と同じだ。前世の二の舞だ。

 私は、人生をやり直す機会をもらっているんだった。二度目の人生を生きているんだ。

 言いたいことを言える人になるんだった。


 今朝そのように決意したはずなのに、長年培われた性格はなかなか変わらないようで、気を抜くと元の何も言えない自分になってしまう。


 母に心配をかけるのは本意ではないけど、ここは正直に話してしまおう。

 心の中でひとつ大きく深呼吸をして、思い切って今の悩みを打ち明けた。


「あの……実はひとつ困ったことがありまして……王宮の中がまったく覚えられないのです。テストもあったのですが、断トツの最下位でした……」


「まぁ」

 予想通り、お母様が口を押えて驚いている。

 いつも何も言わない迷惑をかけない娘が、最下位だなどと聞かされて、とまどっているのだろう。

 この反応が嫌だったから、今まで何も言えなかったのだ。


 母の反応を見て、黙って項垂れた。


「それなら私が教えてあげるよ。王宮の中はひととおり分かっているから」

「お父様……」

 珍しく父が私に助け舟を出してきた。本当にありがたい。


 メモを取らせてもらえないし、資料がもらえるわけでもないので、もうどうやって覚えたらいいのか、ほとほと困っていた。テキストとかマニュアルとかそういうものでももらえたら自宅で復習も可能だが、覚えていないものは復習できない。


 王宮の内部はナディエディータ王国の最重要機密なので一切文字にして残されていない。当然のことなのだが、記憶力が絶賛低下中の私にとってこれほど辛いことはなかった。


「私も教えることができるよ」

 私より5歳年上の兄は、現在王宮で騎士として仕えていて、父と同様に王宮内には詳しい。

「兄さんまで!ありがとう。それなら、さっそく教えてほしいです。また、明日テストされるって言われたので……」


「リジーが覚えているのはどの部屋?」

「私が覚えているのは、馬の目部屋と王妃の衛兵の間。あとは、大広間だけ……」


 父と兄が同時に額を押さえる。

「え?それだけ?もう少し覚えてない?ほら、例えば謁見の間とか?」


 兄にきかれて、私はぶんぶんと首を横に振る。

「残念ながら、そういう部屋があるのは知っているけど、どこにあるのか分からない」


 40以上も部屋がある王宮の、たった3部屋しか私が覚えていないときいて、父は首をかしげながら「リジーはいったい今日一日何をやっていたのか」とブツブツ呟いている。


 お父様、心の声が駄々洩れですよ……。


「しようがない。今からしっかりと教えてやるから、頑張って覚えなさい!」

 そう言うと、父が大きい紙に王宮の見取り図を慣れた手つきで描きだした。


「え?王宮の地図を描いていいの?処刑されない?」

「何を言っているんだ。リジーが覚えられないから描いているんじゃないか。覚えたら、この紙は燃やすんだから何も問題ない」

「……そうなんだ」


 喋りながらも父は手を止めない。私は興味深く父が描く様子を観察させてもらった。

 今まで知らなかったが父は意外と上手に描く。40以上も部屋があるので、見取り図を描くのも一苦労なはずだが、迷路のような王宮を迷いなく父が描いていく様子を見て

「すごい、お父様!」

と思わず感嘆の声が漏れた。父は一瞬手を止め、満足そうに頷いてから、また描き始める。そうして、出来上がった見取り図に、父と兄が部屋の名前を書き込んでいく。素晴らしい共同作業だ。


「お父様、お兄様、ありがとうございます。これがあれば、私、覚えられます!」

「リジー、頑張りなさい!」

 父に優しく肩をポンと叩かれ、今世の私は素敵な家族に囲まれて幸せだな、と改めて思う。今のこの幸せを大事にしたい。そのためにできることは、今は目の前の女官教育を頑張ることだ。


 父と兄が描いてくれた王宮の見取り図を手にそう決意して、父と兄にお礼を伝え自室に戻った。

 結局それから朝日が昇るまで、見取り図を片手に王宮の暗記に没頭し、今世では初めて徹夜した。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ