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27.告白

「リジーには言わないといけないことがある…」


 ローランの部屋に入った途端、厳しい顔でローランが言った。


「何のこと?」


 そんなに心配しなくてもいいよ、と思いながら、微笑んでみせた。


 先ほど宰相と司教の前で「教会がどう判断しようとも、私はリジーと婚約を続ける」とローランが宣言したことが私は本当にうれしくて、ローランに関することなら、どんな難題でも引き受けてやる、という気分だった。


 ローランは言いづらそうに、口をパクパクさせている。

 思わず、私はローランの手を握った。

 ローランはびっくりして私を見て、そして、一つ大きく息を吐いてから話し始めた。


「リジーは、僕と一緒にいると嫌な目に遭うことがたくさんあると思う。さっきの婚約の異議申し立てだってそうだ。それでも一緒にいてくれる?」


 なぁんだ、そんなことか。

 考えるより先に言葉が出た。


「ローラン、私はどんなに嫌な目に遭ったって、ずっとローランと一緒にいる。ううん。ローランと一緒にいたい。ローランがいい。ローランじゃなきゃ嫌だ!」


 気がついたときには、ローランに抱きついていた。気にせず、そのまま話し続ける。


「でも、さっきの婚約の異議申し立ては、ローランのせいじゃなくて私のせいだと思うよ。…というか我が家の家柄のせいというか。父が子爵だから王族のローランとは釣り合わない、という申し立てだったから。だから嫌な思いをさせちゃったのは私のせいだね。ごめんね。ローラン」


 ローランがじっと私の顔を見る。

 自分で抱きついたくせに、顔が近いので恥ずかしくなって思わず目をそらしてしまう。

 ローランは私の顔をじっと見たまま、真剣な顔で言った。


「実は…僕、魔女の呪いがかかっているんだ…」

「魔女の呪い?」

「そう、魔女の呪い…。父上が魔女を迫害して、怒った魔女が僕たちに呪いをかけたんだ」


 ローランはそこまで話すと、視線を外し、遠くを見つめた。

 しばらく黙った後、また私の顔を見て言った。


「リジーは妹の呪いを解いたでしょ。それで、もう僕にはリジーしかいないと思って、父上に婚約させてほしいと直訴したんだ。僕にかかっている呪いは、18歳の誕生日に死ぬ呪いなんだ…」

「ローランが18歳の誕生日に死ぬ…?」

 

 ローランは黙って頷いた。

 また沈黙が流れる。

 私はずっとローランに抱きついたままだ。

 ローランの体が小刻みに震えている。

 ローランは泣いていた。「怖い」「死にたくない」と言いながら。

 私はなんとかローランを慰めようと、抱きしめる腕に力を込めて必死で言った。


「ローラン、まだあと3年あるよ。今は話を聞いたばかりで、どうしたらいいのか分からないけど、絶対にその呪いを解くことができるはず。私がローランを死なせたりはしない」


 いつの間にか、そう泣き叫んでいた。

 それから、2人で小一時間、声を出して泣き続けた。


 涙が枯れるまで泣いて泣いて、2人で顔を見合わせる。涙が枯れたら、自然と笑顔になった。

 

「リジー、ひどい顔だよ」

「もう。恥ずかしいから見ないで。ローランだって、ひどい顔じゃない…」

「うん、そうだね。僕もひどい顔だ。声を出して泣いたのなんて、何年ぶりだろう。…でも、リジーは泣いた顔もかわいいね。リジーはどんな顔でも可愛い」


 ローランはさっきまであんなに泣いていたはずなのに、泣き止んだらこの甘いセリフ。ギャップについていけない。

 こういう場合はどう対応したらいいのだろう。


 私は、強引に話を元に戻した。

「あの、ローラン。…さっきの話をもう少し詳しく教えてほしいんだけど、いい?嫌なら言わなくていいんだけど」

「呪いのこと?分かる範囲ならいいよ。別に嫌なことは何もないから」

「そう?それなら…」


 そう言って、再びローランの手を握った。ずっとローランの身体のどこかに触れていないと、ローランが消えてなくなってしまいそうで怖かった。

 そして、質問を続ける。


「魔女を迫害って何をしたのか知ってる?」

「父上が魔女のことを嫌っていて、魔女を攻撃したんだよ。でも、相手は魔女なんだ。父上の攻撃を受けたところで何でもないんだろう。逆に呪いをかけられたんだ」

「でも、国王陛下が、勝ち目が無いと分かっている攻撃をするのかしら?」

「父上のお考えはよく分からないよ。ただ、父上は、子供がたくさんいるから、一人や二人魔女に呪われたところで、どうってこと無いのさ。何人でもくれてやる、と思っていたんじゃないのか」

「え?」

私が目を丸くしたのを見て、ローランが語気を強める。


「実際、父上は僕のことを捨て駒だと思っている。僕は七男で、上に6人も兄がいるし、末っ子でもない。父に必要なのは、国を継ぐ王太子1人だけだ。王太子は長男が継ぐだろうから、僕が18歳で死んだところで何の影響もないんだ」


 そうなんだろうか。

 私が見た限りは、国王陛下はとても子供たちを大切にしているように思えたし、ローランのことだって大切にしているように感じたが。


 でも、まだよく分からないので、これ以上は何も言わない。


 ただ、ローランに一言だけ伝える。

「ローラン、婚約式の時の宣誓の言葉を覚えている?」


 ローランが「うん、覚えているよ」と言ってくれたのを見て、話を続けた。


「『お互いを信頼し、より一層の愛を育んでいくことをここに誓います』と二人で誓ったでしょう?あの言葉のとおり、私はローランのことを心の底から信頼しているから。どんなことがあったって、いつだって、ローランを信頼する!だから、頼りないかもしれないけど、ローランも私を信頼してくれるとうれしい」


 そう言って私はにっこりと微笑んでみせた。

 ローランは私が握った手を両手で包み、私の目をまっすぐ見つめて言った。


「わかった。僕はリジーを信頼する。リジー大好きだよ。リジーだけが僕の味方だ」


 その言葉にうれしくなって、我慢ができず、私はローランに飛びついた。

「ありがとう、ローラン。私もローランのことが大好き」

ありがとうございました

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