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25.領地3

 翌日、また愛馬に跨って、湖にやって来た。

 馬を繋ぎ、湖畔にしばらく佇んでいると、いつの間にかウンディーネ様が横に立っていた。


「おはようございます。ウンディーネ様」

「おはよう、リジー。今日も元気ね」


 ウンディーネ様の微笑みに身も心も癒され、一瞬にして、得も言われぬ幸福感に包まれた。


 そうだ。今日はウンディーネ様に訊きたいことを整理してきたのだ。

 いろいろ教えてもらわなくては。


「あの、ウンディーネ様。今日はいろいろと教えていただきたいことがあるのですが、訊いてもいいですか?」


「いいわよ」

 たった一言なのに、とてもうれしくなる。


「私、王宮で女官の勉強をしていたときに、たまたま黒猫を見つけて、頭を撫でたら王女殿下に変身したということがあったんです。


 魔導士様がおっしゃるには、黒猫の呪いを私が魔法を使って解いたらしいのですが…」


 私はそこまで話して、ウンディーネ様の顔を見る。

 ウンディーネ様は微笑みを絶やさず、優しく諭すように語りかけた。


「私がリジーに魔力を授けたのはその通りよ。リジーが湖に落ちた時、私が魔力を授けたの。


 あなたの魔力は、治療、回復に強さを発揮する。人を癒すことが、今、生きていることの使命だということを心に刻んでおいて」


「人を癒す、ですか?」


「そうよ。あなたは、前の人生から、その使命を受け継いでいるの。……人を癒すには何が必要だと思う?」


「!!」

 ーーウンディーネ様は、私が転生者だと知っている?!


 水の妖精なんだから、もしかしたら、全てお見通しなのかもしれない。


 いろいろ深読みしてしまった…。

 私の悪い癖ですぐ余計な事を考えてしまうのだが、今はウンディーネ様と会話しているのだ。

 悪い癖を封印し、ウンディーネ様からの質問に答える。


「人を癒すのに必要なことは、その人の話をよく聞くことでしょうか?」


「うーん、そうね。少しは当たっているかしら。…正解を教えると……人を癒すのに必要なことは、自分が癒されることよ。今はちょっと難しいかもしれないけど、この意味は、またそのうちにわかるでしょう。


 人は癒されることで、この世界に生まれたことの意味を知って、満ち足りた人生を生き始めることが出来るの。リジーには、この意味が分かると思うんだけど…」


 ウンディーネ様が伝えようとしてくださっていることを真剣に考える。

 いま、とても大切なことを私に伝えようとしてくださっている。


 私の前世は、不満しかなかった。

 でも、今の人生は、不満もあるけど幸せだと思う。結構、満足している。

 それは、自分が癒されているから?


 ウンディーネ様は、自分が癒されれば満ち足りた人生を送ることができる、と仰った。


 私が、今、この世を生きている意味とは何だろう。


 私の今の人生の使命は、人を癒すこと…。人を癒すために生きているということ?


 分かったような気もするし、でも分かっていない気もする…。


「あの……」


 私が質問をしようとすると、ウンディーネ様はにっこり微笑んで、人差し指を私の唇に当てながら言った。

「この話は、これで終わり」


 きっと自分で考えろ、ということなんだろう。


 婚約公示期間はまだ始まったばかりで、ここでは特にやることもない。

 時間はたっぷりあるから、ゆっくりと考えることにしよう。


 そう自分で結論づけて、話を切り替えた。


「ウンディーネ様、では次の質問いいでしょうか。王女殿下を黒猫に変えたのは魔女の呪いだというのは本当なのでしょうか?」


「うーん…」

 ウンディーネ様はしばらく遠くを見つめてから、ゆっくりと口を開いた。

「魔女のことは、私からは何も教えてあげられない。…リジー、運命も人生も自分で切り開くのよ。他人のせいにするのはダメ。ひとりで出来ることは限られるけど、自分が何をできるかしっかり考えて、そして思いを行動に移すこと。そうすれば切り開かれていく」


「分かりました!」

 私はウンディーネ様の目を見て頷いた。


 私の真剣な顔を見て、ウンディーネ様も満足そうに頷いた。

「リジー、今日の私はいっぱい話しすぎたかもしれないわ。でも、あともう一つだけ。これだけは覚えておいてほしいの。


 いつだって、私はリジーの側で見守っている。だから心配しないで。今日話したことをしっかり覚えていてね」


 私が「はい」と返事をすると、ウンディーネ様はいつもの優しい微笑みを浮かべ、そのまま泡のように消えてしまった。


「え?ウンディーネ様?」


 周りを見回しても、もうウンディーネ様の姿は見えない。

 もうこれ以上は、私と話すことができない、ということなのだろう。


 でも、不思議と寂しくはなかった。

 先ほど、ウンディーネ様が「いつだって側で見守っている」と仰ってくれたからかもしれない。

 ウンディーネ様が、そばにいてくださっている安心感に包まれている。


 もともと考えていた、ウンディーネ様に訊きたかった質問の回答はほとんど得られなかったが、今日はそれ以上に大切なことをいっぱい教えてもらえた。


 私が今、この人生を生きている意味を考える。

 私の使命は、人を癒すことだと仰った。ということは、この人生を生きている意味は、人を癒すことで得られるはずだ。


 前世が無意味だと感じたのは、きっと私が他人の顔色を窺いながら「いい人」を演じ続けたからだと思う。


 だとすると、相手にどう思われようとも、自分を信じて人を癒すことに邁進すればいいはずだ。


 人を癒すのに必要なことは自分を癒すこと。

 自分を癒すのに必要なことは、自分が心地よい時間を過ごすことだ。

 それは、この大自然の中で過ごすことでもあるし、イザベルやステイシーと他愛もないお喋りをするときでもあるし、家族やローランと一緒に過ごすことでもある。


 特に、これからは、家族よりもローランと共に過ごすほうが長くなるはずだ。

 ローランと一緒に過ごすことで、自分が癒されれば、それで、人を癒すこともできるはずだ。


 そこまで考えて、ふとローランと婚約式に宣誓した言葉を思い出した。

「お互いを信頼し、より一層の愛を育んでいくことをここに誓います」


 前世の私は、人を信頼することがなかったかもしれない。

 まずは、どんなに自分が傷ついてもいいから、ローランを信頼することから始めてみよう。

 そう、強く決意した。

ありがとうございました。

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