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24.領地2

「正解。思い出したのね?」

 ウンディーネ様は私に向かって、にっこりと微笑みかけた。


 私は当時の記憶を取り戻していた。

 まだ5~6歳だった頃、湖畔で兄と遊んでいたらこの湖に落ちてしまったのだ。その時に、私を助けてくれたのが、目の前にいるウンディーネ様だ。


 助けてもらってからも何度かお会いして遊んだような気がするが、それは5~6歳の年だけだ。その年以降お会いしていなかったので、約10年ぶりの再会だった。


「ウンディーネ様は妖精だったんですね?」

 魔導士様に教えてもらったことを確認する。

「そうよ」


「私に御加護を授けてくださったんですか?」

「そうね、たくさんいいことがありますように、って願ったけど、いいことがあった?」

「ありました!とびきりいいことがありました!!ありがとうございます」


 今の幸せは、ウンディーネ様の御加護があったからなんだ。

 私の胸にストンと落ちた。


 ウンディーネ様は私の様子を見て、「そう、よかったわね」と優しく微笑んでいる。

 そのきらきらと輝く笑顔を見るだけで、心が浄化され癒される。


「あの、私、この国の王子様と婚約したんです。本当に素敵な王子様です!ウンディーネ様にも、一度会っていただきたいです」

「そう。それは良かったわね。どんな人なの?」


 私は、今感じているローランの素敵なところをウンディーネ様に話し始めた。

 最初はポツポツと話していたのだが、ウンディーネ様はにこにこしながら私の話を聞いてくれる。それで、どんどん話した。


 自分でも熱く語っていることが分かった。ローランについて語るとき、言葉がどんどん溢れてくることを知った。

 出会ってまだ1ヶ月くらいなのに、ローランについてはいつまでも話すことができそうだ。


 どれくらい熱く語っていただろう。

 時が経つのも忘れるほど熱弁していた私に、ウンディーネ様が優しく語りかけた。


「ねぇ、リジー。あなたの婚約者が素敵な人だということは分かったわ。もっとお話をきかせてほしいけど、でも、もう戻らなくていいの?そんなに長居できないんじゃない?」


 その言葉に、はたと思い出した。午餐までに家に帰る約束をしていたことを。


「大変!ウンディーネ様、今日はいっぱい話を聞いていただき、ありがとうございました。家族と午餐までに帰る約束をしていたので、帰ります。…あの、明日も来てもいいですか?」


「いいよ、リジー。明日も待ってるね」

 ウンディーネ様は優しく私の頭を撫でてくれた。


 私は再度お礼を言って、愛馬に跨り、家に急いだ。


 ◇◇◇


 家に帰ると、午餐の準備が整っていた。

 領地は新鮮な野菜や果物が豊富で、肉も魚も美味しい。領地での一番の楽しみが食事だといっても過言ではない。


 食事の時に話すのは専ら母だ。今日も例に漏れず、母が私に話しかけてきた。


「リジー、お帰り。湖はどうでした?」

 私は今見てきた光景を話す。

「お母様、久しぶりに見た湖は、エメラルド色に輝いていて幻想的で本当に美しかったです。心が洗われました。もう何時間でも眺めていられます」


「そう、それはよかったわね」

「明日も見に行ってもいいですか?」


「お前、明日も行くのか?飽きないのか?」

 兄が口を挟んでくる。私はムッとして兄に反論した。

「全然、飽きないわよ。あんなに素敵な景色、飽きるわけがない。ずっと、できることなら毎日眺めていたい。ああ、私に絵の才能があれば、あの美しい光景を絵にすることができるのに…。イザベルやステイシーたちにも見せてあげたい」


 私の言葉を聞いて、兄がくくくと笑ったことに腹が立ち、顔色を変えずに机の下で兄の足を蹴った。両親たちにはバレていない。

 兄は小さく「痛・・・」と言いながら、私のことを睨んでいる。


 私はすました顔のまま、兄にきいた。

「そう言えば、兄さん覚えてる?私が5~6歳の頃、兄さんと湖に行って、湖に落ちちゃったときのこと?」


 突然の話題転換だったが、兄も気にすることなく私に話を合わせた。

「ああ、あの時のことはよく覚えてる。…あれは、焦ったぞ。お前が溺れて死んじゃうんじゃないかと思ったからな…。よく助かったよな」


「そう…。あの時、若い女の人に助けてもらったんだけど、兄さんは会った?」


 兄は少しの間黙って考えた後、言った。

「…確か、あの時もお前はそんなことを言ってたな…。でも俺は会ってない」


 兄さんはウンディーネ様に会ってないんだ…。

 出会ったのは私だけなんだ。


「ねぇ、溺れた時のこと、兄さんの覚えている範囲でいいから、何があったのか教えて」

 お願いしてみると、兄は一つ頷いてから、話し始めた。


「あの時のことは、いつか、ちゃんとお前に話したいと思ってたんだ。…あの時は、俺とお前が2人でカヌーに乗って遊んでいたんだ。そしたら、穏やかだった水面が突然大きく揺れ出して……カヌーがバランスを崩して2人とも湖に落とされてしまった。


 俺はなんとか湖岸まで自力で泳いで辿り着いたんだけど、お前の姿が見つからないんだ。お前が湖に落ちていくところを俺はこの目でしっかり見ている。もうお前が湖の底に沈んでしまったんだと思って、お前が死んだと泣き喚いていたら、なぜか目の前の草の上で、びしょぬれのお前が倒れていたんだ…」


「…」


「急いで家に連れて帰ったけど、お前はひどい熱が出ていて、しばらく家でうなされていたぞ。本当に、あれは怖い思い出だった。もう二度とカヌーには乗らない。お前も乗るなよ」


「カヌーになんて乗らないわよ。もう溺れたくないもん。……でも、そんなことがあったんだ。助けてくれてありがとう」

 私は兄にお礼を言って、そして考えた。


 ふうん。

 あの時、湖畔で兄と遊んでいて誤って湖に落ちたのだと思っていたが、本当は2人でカヌーに乗っていたのか。

 しかも、私だけが湖に落ちたのではなく、兄も一緒に落ちたと言っていた。


 だけど、穏やかだった水面が突然大きく揺れ出して、と言ったのが気になる。

 今まであの湖の湖面が大きく揺れたところなど見たことがない。いったい何があったのだろう。

 ウンディーネ様に訊けば、何か分かるかな。


 そういえば、今日は時間がなくて訊けなかったが、魔法のことや呪いのことも気になるし。

 ウンディーネ様は明日も待ってる、と言ってくれたから、明日訊いてみよう。

ありがとうございました。

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