22.婚約式2
「兄さんたち、それからノア。こちらが、僕の婚約者のリジー」
ローランが兄弟たちに、私を紹介してくれた。7人の兄弟が一斉に私を見る。
「はじめまして。リジーです。どうぞよろしくお願いします」
8人のイケメンに囲まれるというのは、こんなにもこそばゆいものなのか。ただ挨拶をするだけなのに、恥ずかしい。声が小さく震えてしまう。
7人の兄弟たちが順に挨拶をする。
「長男のケヴィンです」
「次男のジョゼフです」
「三男のフィリップです」
「四男のラウルです」
「五男のアランです」
「六男のエリックです」
「八男のノアです」
息ピッタリの流れるような挨拶に、やっぱりアイドルグループだと思った。前世の男性アイドルグループもこんな風に挨拶していた。
ここに、ローランも入ったら完璧だったな。
うん、やっぱり箱推しできる!とひとり悦に入っていると、ローランが私に声を掛けた。
「さ、リジー、パーティーが始まるから皆に挨拶しないといけないよ」
「わかった」
程なくして、パーティーの開会が告げられた。
まずは、国王陛下より参加者に向けて、皆から寄せられたお祝いに対する感謝の言葉と、この場を楽しんでほしい、といったお話があった。
陛下に続けて、今度はローランが挨拶をする。このパーティーは、婚約者である私のお披露目の場でもあるので、ローランの隣りに私も並ぶ。
ローランは話がうまい。さすが王族というべきか。まだ私と同じ15歳だというのに、堂々としているうえ、抑揚や強弱のつけ方が程よく、聞き入ってしまう。隣に並ぶのも鼻高々だ。
ローランの立派な挨拶が終わると、次は今日のパーティーのもう一人の主役であるマルゴット王女殿下が挨拶した。
マルゴット王女殿下もさすがだった。国王陛下や王族、王宮で働く者そして国民皆にお礼を伝え、外国で頑張って幸せになる、と高らかに宣言され、皆の感動を誘っていた。
そして、乾杯の後、食事が提供され歓談が始まる。
15人の美形の王子王女は集まって行動するので、常にそこだけスポットライトを浴びているように、目立っていた。
会場中が、王子王女たちの一挙一動に注目している中、その中の一人であるローランが常に私に気を配りエスコートしてくれるので、私もスポットライトの中に入れてもらえた気がして、ありがたいけど恥ずかしい。
皆は堂々としている中、私は人に注目される経験が初めてで、一人いたたまれずソワソワしていると、今度は王女たちが私に声をかけてくれた。
先程の王子たちは、末っ子の八男ノアがローランの1歳年下の14歳なので、皆それほど年の差は感じなかったが、王女たちの場合、末っ子のエミリーは6歳なので年の差を感じる。
まず、マルゴット王女が声を掛けてくれた。
「リジー、久しぶり。今日はおめでとう。とてもきれいよ」
「お久しぶりです。マルゴット王女殿下もとても美しいです。本当にいろいろとお世話になり、ありがとうございました」
「私は次女のベラよ。はじめまして。マルゴット姉さんみたいに仲良くしてもらえると、うれしいわ」
「三女のローズです。リジーより1歳年上かな。年が近いし、分からないことがあれば何でも聞いて。仲良くできたらうれしいわ」
「四女のオレリアです」
「五女のブリジットです」
「そして、こちらが六女のジゼルと七女のエミリーよ」
オレリア王女が紹介してくれた。
王女の場合は、長女から三女がお姉さん組、四女から七女が子供組という印象だ。
「あ、私は会ったことあるわ。あの時はありがとう。ドレスだから、わからなかった」
七女のエミリー王女が私に気づいたらしく、話しかけてくれた。
先日、黒猫に変えられていたところを偶然私が元に戻せたことを覚えていてくれたのだ。
あの時はほとんど話さなかったし、私は女官の格好をしていたから、私を同一人物だと見分けるのは難しいと思うのだが、子供の洞察力はさすがである。
「覚えていてくれたんですね。もう大丈夫ですか?」
私は膝を折って、エミリー王女殿下と視線を合わせ、にっこり微笑んだ。
それを見て「うん、もう大丈夫」と微笑み返してくれた顔が天使の笑顔のようで、お助けすることができて本当によかったと、心から思った。
そして、考える。
あの時、偶然とはいえ、目の前のエミリー王女殿下をお助けできたことが、今日のローランとの婚約に繋がったのだ。
感謝するのは、私のほうだ。
ローランのような素敵な婚約者と出会うきっかけとなったエミリー王女殿下に、心よりお礼申し上げた。
「疲れてない?大丈夫?」
私がエミリー王女殿下を見つめていると、ローランが私に声をかけてきた。
ローラン、優しい!!
こんな優しい心遣いができる人なんです!私のローランは。
本当に、前世の皆に声を大にして言ってやりたい。
まだ弱冠15歳の少年が、こんなに相手を思いやれるんだぞ!
前世では、こんな経験がなかった。
夫にも子供たちにも。
二度目の人生が幸せすぎる。
前世を不憫に思った神様が、幸せな転生をさせてくれたに違いない。
優しさに慣れてなくて時々どうしたらいいのか戸惑うが、でも、ここまで思ってもらえるなら、私もちゃんと想いを返さないと。
私も負けないくらい、相手を思いやれる人になりたいと思う。
「ローラン、ありがとう。…確かにちょっと疲れちゃったけど、でも大丈夫!この後、ダンス踊るんだよね?」
「うん、相手をよろしく」
「私こそ」
照明が変わり、音楽が変わった。
私はローランのエスコートで、ワルツを踊る。
踊っているのは私たちだけ。
皆、私たちに注目している。
私のことを羨望の眼差しで見ている令嬢たちの視線を感じる。私も逆の立場なら、きっと同じような眼差しで見ていたに違いない。
本当にローランは素敵な王子様だから。
私は、踊りながらローランの耳元で心からお礼を言った。
「私、ローランの婚約者になれて、本当によかった。ありがとう。そして、これからよろしくね」
ローランはひどく驚いた顔をして、そして言った。
「僕もだよ。リジー。リジーがそんなことを言ってくれるなんて思わなかった。これから、2人で幸せになろう!」
ありがとうございました。