21.婚約式
「マルゴット王女殿下、アリス様、短い間でしたが、本当にありがとうございました」
「リジー、これから頑張ってね」
バルドー女官長と女官教育について改めて話し合った結果、午前中のOJT形式での女官見習いは、今日が最後になった。
マルゴット王女殿下が嫁がれるまでは見学させていただきたいと伝えたが、私を受け入れてくださっている女官のお姉様方の負担が大きいということだった。
どうせ女官にならないのであれば、無用な負担は強いるべきではない。
残念ではあるが、私は素直に終了を受け入れた。
その代わり、バルドー女官長に教えていただく分については、1人増えたり減ったりしたところで、女官長の負担が変わらないということで、引き続き私を受け入れてくださることになった。
バルドー女官長は、厳しいけれど、優しい方だ。
◇◇◇
それから、女官教育と魔法の練習、そして同期たちとのおしゃべりに日々明け暮れているうちに、婚約式当日を迎えた。
この日のために、事前の打ち合わせや採寸、衣装合わせが何度も行われた。
私には前世の記憶のほうが強く残っているせいもあって、婚約を結婚よりも軽く考えていたのだが、事前の打ち合わせによって、自分の考えが甘かったことを思い知った。
今、私が生きているナディエディータ王国では、離婚が禁じられている。一度結婚すると、死別しない限りはどんなことがあっても、離婚することができない。
そこで、婚約が重要になる。
婚約者同士が一緒に生活をし、結婚前に2人の相性を確認するのだ。
もし、相性が合わなければ、婚約中に婚約破棄をすることで、結婚後の離婚を回避することができる。
ただし、婚約式から40日間は「婚約公示期間」となるので、婚約者は一緒に生活することができない。
婚約公示期間中の婚約者の名前は、国の掲示板や教会に掲示されるので、婚約に対し異議申し立てがある場合は、その期間に近くの教会に申し立てることができる。
とはいえ、婚約に対する異議申し立ては何でも認められるわけではなく、皆が納得する理由が必要となる。
最近の例だと、以前の婚約破棄が成立していない男性が、黙って次の婚約をしたことが分かり、異議申し立てが認められていた。
だが、現王族だけは例外的に一夫多妻制が認められているため、複数の婚約が可能である。
ローランは初めての婚約だときいているが、実際、ケヴィン王子殿下は、2人の令嬢と婚約中で、一緒に王宮で暮らしているということだった。
少し話がそれてしまったが、そういう理由で、私も婚約公示期間が明けると、王宮で暮らすことになる。
そして、婚約公示期間中は、王都を離れ、家族と一緒に領地で過ごすことになった。明日には出発するということだった。
これから、慌ただしくなりそうだ。
でも、まずは今から行われる婚約式に集中する。
今日の手順は何度も打ち合わせして、頭に叩き込んだ。
◇◇◇
婚約式は、王宮の礼拝堂で行われる。
今日は特別に王宮内の一室を借り、準備をした。女官のお姉様方が着替えやヘアメイクを手伝ってくれる。
私の衣装は、細かい刺繍が施されたプリンセスラインの薄いエメラルドグリーンのドレスだ。花のカチューシャを頭につける。
ちなみに、今日のドレスの色は、未成年者同士の婚約ということもあり、フレッシュなイメージを表しているのだが、実は私とローランの瞳の色でもある。
コンコンと、扉がノックされた。
ローランが私を迎えにきてくれた。
「行こう、リジー」
2人で礼拝堂へ向かう。
礼拝堂の入り口には、今日の立会人である司祭が私たちを待っていた。
司祭に導かれ、ローランと私は腕を組んで祭壇に向かう通路を歩く。
通路を挟んで設置されたベンチには、王族の皆様、国の重臣、私の家族など多くの方がいて、拍手で私たちを迎えてくれた。
司祭が婚約式の開会を宣言する。
その後、司祭に促され、2人で婚約宣誓書を読み上げる。
「私たち、ローラン・ナディエディータと、リジー・ハリスは婚約いたしました。お互いを信頼し、より一層の愛を育んでいくことをここに誓います」
そして、今読み上げた婚約宣誓書に2人順番に署名をした。
次に司祭が署名して、婚約宣誓書を皆に見せながら、婚約が成立したことを宣言する。
今度は、婚約指輪の交換をする。指輪もお互いの目の色に合わせ、エメラルドの指輪を用意した。
まず私からローランの左手薬指に指輪をはめた。次にローランが私の左手薬指に指輪をはめる。
指輪がはまった瞬間に、2人が結ばれた気がして感動した。これで、私も王家の一員に認められたような気がした。
最後に、ローランが参加者に向かって挨拶をした。
「今日は私たち2人のために集まっていただき、ありがとうございました。皆様の立会いのもと、無事に2人の婚約が成立したことをうれしく思っています。
これからも、私たち2人のことを引き続き温かく見守ってください」
礼拝堂が温かな拍手に包まれる中、司祭が閉会を宣言し、無事婚約式は終了した。
参加者は全員そのまま大広間に移動して、今度は婚約のお披露目パーティーが行われる。
また、マルゴット王女殿下が結婚に備えて外国に出発される日でもあるので、マルゴット王女殿下の送別パーティーも兼ねていた。
今日が、ナディエディータ王国の15人の見目麗しい王子王女が揃う最後の日となるため、その姿を一目みようと貴族の令息令嬢も多数参加している。
私とローランが挨拶のため準備をしていると、そこに7人の王子が揃ってやって来た。
「ローラン、おめでとう」
皆笑顔で口々にローランにお祝いを告げ、ローランの肩をポンと叩いたり、肩を抱いたりしている。
その様子を見て、なんとも言えない幸福感を感じた。
あ、そうだ!
これは、前世で若い男性アイドルグループが楽しそうにわちゃわちゃしていた感じだ。
兄弟みんな仲良しなんだな。
ナディエディータ王国の王子グループは、箱推しできる。
私は、一番近い場所で王子たちのわちゃわちゃを見れて眼福の極みだ、とひとりニヤニヤしていた。
ありがとうございました。