20.マルゴット王女殿下3
やっと、20話まできました
「マルゴット王女殿下、いろいろありがとうございました。お陰で、ローラン王子殿下に今後の予定を教えていただきました」
私は、マルゴット王女殿下の部屋へ再び戻り、まずはマルゴット王女殿下にお礼を述べた。
次に、アリス様の元に駆け寄り、お詫びをする。
「アリス様、仕事中なのに持ち場を離れてしまって、すみませんでした」
「別に大丈夫よ。それより、リジーが来月には女官でなくなるのなら、もう私に付いて覚える必要がないと思うんだけど…バルドー女官長に話しておこうか?」
私は少し考える。
確かに、女官にならないのなら、この見習いも必要ない。
でも、女官のやり甲斐みたいなものも、さっき感じたところだったし。
それに、まだ始まったばかりなのに、こんなすぐに離脱するのもなぁ。
今の女官見習いの日々は、覚えることが多くて大変だけど、ヘアメイクやドレスを学ぶのは楽しい。
イザベルやステイシーとも毎日会えなくなると思うと、やっぱり寂しい。
「アリス様、急な話で、私もまだどうするのがいいのか分かりません。…明日は、まだアリス様に付かせていただいてもいいですか?バルドー女官長とは、私から話します」
「わかった。いいよ。でも、無理しなくていいからね」
アリス様の優しさが身に沁みた。
そして、自分ではどうしようもないことだけど、女官を全う出来ないことを不甲斐無く感じた。
◇◇◇
昼食休憩で、いつものようにイザベルとステイシーと合流した。
それぞれ午前中に付いていた女官たちの話を共有する。
「クロエお姉様、凄かったの。王女殿下と阿吽の呼吸で、見事だったわ」
「わかる!朝のお着替えも早業じゃない?何が行われてるのか見えないもの」
「女官同士の連携、あれどうやってるのかしらね。なんであんなに息ぴったりに動けるのか不思議。本当に凄いわ!」
お互いに自分の担当女官たちが、いかに凄いかを言い合って……そして、3人同時に大きな溜息を吐いた。
「はぁぁぁ。自分たちに、出来るのかしら…」
ふいに、イザベルが言った。
「そういえば、リジーたちの婚約式の御触れが出てたね。来月だって」
イザベルの話の転換、早い!
女官の先輩たち並みの早業だよ。
「イザベル…。話が急に変わってビックリした!…うん、来月婚約式みたい」
私は素直に頷いてから、今の悩みを2人に相談した。
「さっき分かったことなんだけど…、婚約式が終わったら、私、もう女官はできなくなるんだって…」
すると、2人が話し出す。私のことを思って話してくれているのは分かるが、口を挟む間もない。
「なんで?王族になるから?」
「婚約者って、まだ王族じゃないんじゃないの?」
「結婚まで3年あるから、女官はできるんじゃない?」
「リジーがいなくなると寂しいよ」
「そうそう、私より鈍臭いリジーがいてくれないと困る」
ん?
誰が鈍臭いって?
確かに、2人より記憶力は劣るけれども。
……
このまま2人に好き勝手に喋られると、何を言われるか分からないので、私は2人の会話を強引に止めた。
「はい、話そこまでー。婚約式が終わったら、妃教育が始まるから、女官をする時間がないんだって言われたよ」
すると、イザベルが言った。
「妃教育は私、分かるよ。私も子供の頃から、将来王妃になるかもしれないって、いろいろ教育を受けてたから。リジーは受けなかったの?」
「そりゃ、貴族令嬢としての教育は受けてるけど、うちは緩かったから。この国の歴史とか王族のこととか、今回初めて知ったことばかりだし…」
私がそう言うと、イザベルは顔を顰めた。
「そしたら、リジー。妃教育、めちゃくちゃ大変かも…。覚えることだらけだから」
…え?そうなの?
ローランの前で見せた妃教育へのやる気は、今のイザベルの言葉で粉々に打ち砕かれた。
思わずテーブルに顔を突っ伏す。
ステイシーが慰めてくれる。
「リジー、でもほら、王宮の中だってちゃんと覚えられたじゃない?日にちはかかったけどね……。やれば出来るよ!」
ステイシーの言葉で、顔を上げた。
「…やれば出来るかな?」
2人に「出来る出来る!」と無責任に言われたが、それで元気がでたので、よしとする。基本、私は単純なのだ。
やっぱり3人でこうやって話すことが、今の自分にとって大切な時間だと思う。
婚約式が過ぎれば女官ではいられなくなるとしても、出来る限りギリギリまで2人と一緒に女官見習いでいたい、とそう思った。
◇◇◇
昼食を終え、馬の目部屋に戻ると、まだ時間前なのに既にバルドー女官長がいて、私に声を掛けた。
「リジー、ちょっといいですか?今後のことです」
いつも思うが、王宮内の情報伝達スピードは早い!
おかげで、話が早くて助かるが。
心の準備がいつも間に合わない。
おそらく、マルゴット王女殿下がバルドー女官長に今朝の話をしたのだろう。
「もう聞いていると思いますが、貴女はローラン王子殿下との婚約式が終わると妃教育に入ります。そうなると、女官ではいられません。ですから、女官教育も今日で最後にしましょう」
そう言って、バルドー女官長がじっと私の目を見る。有無を言わせない口ぶりだ。
「バルドー女官長、あの…えっと…今日で最後と仰いましたか?」
いきなりの話に戸惑いを隠せなかった。
「ええ、そうです。これ以上、女官教育を続けても仕方ないでしょう?」
今日で最後はいくらなんでも早すぎる!
今日で最後なんて嫌だ!
強い気持ちで抗議した。
「バルドー女官長、今日で最後なんて嫌です。確かに私は女官を続けることが出来ませんが、今、バルドー女官長に教えていただいていることは、ローラン王子殿下の妃となった後も十分に役立ちます。
それに、将来、私のお世話をしてくださる女官の気持ちも分かるようになると思うんです。ですから、出来る限りギリギリまで女官教育を受けたいのです」
ちょっと青年の主張みたいになってしまった。
イザベルとステイシーが、なぜか感動しているように見える。
でも、肝心のバルドー女官長は、無表情で黙っている。
強く言い過ぎたのかしら。
バルドー女官長をじっと見つめていると、しばらく黙っていたバルドー女官長が諦めた口調で言った。
「リジーの言い分はよく分かったわ。…とりあえず、今日で最後は取り止めにします。明日も来なさい。期日については、改めて明日話しましょう」
ありがとうございました。