17.魔法2
ローランがロジェを連れてくるって、いったい何があったんだろう?
そう考えていると、魔導士様が私に訊いてきた。
「リジーはローラン王子と結婚するのか?」
その言葉に、ロジェが光の速さで反応した。
「そうなのか?」
二人の視線が痛い。私は黙って、うんうんと何度も首を縦に振った。
「やはり、そうなのか。先ほどローラン王子の婚約式のお触れが出ていたが、相手の名前がリジーと同じ名前だったから。まさかとは思ったが」
ああ、先ほど兄さんが言ってたやつだ…。どんなお触れなんだろう?気になる…。
でも、ローランとの婚約式か。ちょっと楽しみかもしれない。
ローラン、素敵だったなー。
そこまで考えて、連鎖的に薔薇園でのローランとの会話を思い出した。
確か、水属性と土属性は相性がいいから私に決めたと言っていた。
「魔導士様、その、ローラン王子殿下に教えてもらったことなんですが、水属性と土属性は相性がいいのですか?」
「ああ、その話はまだしていなかったか・・・。そうだよ。水属性と土属性は非常に相性がいい。水と土を想像すれば分かるだろう。水は土があれば長く留まっておける。一方、土は水があると乾燥から身を守れる。水と土が一緒にいると、精神的に落ち着くし、長く一緒にいても疲れない、最高の相性だよ」
自分とローランとのことを言われているような気がして、自然と顔が赤くなる。
ローランと私は最高の相性。
浮かれている私のことを知ってか知らずか、魔導士様が言った。
「私とロジェも土属性だから、二人ともリジーとは最高の相性なんだ」
その言葉に、ふと我に返る。
あ、ローランだけじゃなかった…。
そして、また連鎖的にローランとの会話を思い出した。確か男性王族は全て、土の妖精ノーム様の加護を受けている、とそういう話だった。
「そう言えば、ローラン王子殿下が『男性王族は全て土の妖精ノーム様のご加護を受けている』と言ってましたが…」
私の言葉を受けて、魔導士様が訊いてきた。
「土の妖精ノーム様が王宮の地下にいらっしゃるということを聞いたのだな?」
「はい」
ローランがそう説明してくれた。
魔導士様がしばらく沈黙した後、おもむろに口を開いた。声が一段と低い。
「そうだ。この国では王族に男性の赤ちゃんが産まれると、7日以内にノーム様のご加護を受けるんだ。だから、男性王族は全員土属性なんだよ。でも、このことは国家機密だから、決して口外してはいけない。女性王族は、たとえ王妃であっても通常は知らないことだ」
「!!」
女性王族は知らない!?
私も女性なんだけど、知ってしまって本当によかったんだろうか。
ローランは秘密にすることはない、と言って教えてくれたけど…。
魔導士様の言葉に不安になる。
すると、魔導士様は私の考えていることが分かったのだろう。話を続けてくれた。
「実は国王の正妃は、魔法が使えない。妖精の加護を受けていないからだ。他の側妃は3人とも魔法が使えるから、もしかしたらノーム様のことをご存知かもしれないが。あと、王女たちも全員魔法を使えない」
「…そうなんですね」
「そうだ。だから、王族相手であっても口外してはいけない」
「分かりました」
私は真剣に頷いた。
王族相手でも口外してはいけない。
でも、もともとこの話はローランが教えてくれたことだから、ローランは別だろう。
ローランとしか話せないことだ。
ふと、魔導士様の言葉がひっかかった。
「他の側妃は3人とも魔法が使えるから、もしかしたらノーム様のことをご存知かもしれないが」
これは土属性ではないということだろうか。
気になったので訊いてみた。言いたいことを言う人生だから、私は何でも迷わず訊く。
「あの、魔導士様。先ほどの話ですと…側妃殿下は3人とも土属性ではない、ということですか?」
「そうだ。1人が火属性で、2人が風属性だ。土属性はいないし、あと、水属性もいない」
「そうなんですか…」
ふうん。火属性と風属性か…。
水属性はいないと言われたことが、私は特別と言ってもらえたような気がして、うれしくなった。
私、水属性でラッキーだったな。
ひとりニヤニヤしていると、魔導士様が壁の時計を見た。
そして、私たち2人の顔を順番に見ながら言った。
「今日はこれくらいにしよう。すっかり遅くなってしまった。詳しいことは、また追々話していく。それよりもまずは、二人とも今日やった魔法の復習をするように。魔法がうまくなるには、何度も反復練習が必要だから。しっかり練習するんだよ」
「はい」
私とロジェは声を揃えて頷いた。
◇◇◇
その夜、寝る準備を整えた後、さっそく自室で魔法の練習をしてみることにした。
私には30回連続で魔法ができるくらいの魔力があるのだ。
思いつくままに、連発してみる。
まずは、ベッドの上に座って、本棚を見つめた。
昨日読んでた本の背表紙をじっと見つめて、心の中で念じる。
ーーー私の手元に本が飛んでこい!
すると、本棚から昨日読んでいた本が飛び出して、ぷかぷか空中を浮いている。
あれ?思ってたのと違う?!
もう一度念じる。
ーーー本を私の膝の上に置く!
今度は、ぷかぷか浮いていた本が、シュッと私の膝の上にのっかった。
わー、できた!!
そうか。やりたいことの結果を強く念じないとダメなんだな。さっきは、飛んでこい、と言いながら、飛ぶことを強く念じ過ぎたようだ。
プロセスはどうでもいい。結果を念じることが大事!
そう心に刻み込んだ後、魔法で電気を消して、深い眠りについた。
ありがとうございました。