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16.魔法

 婚約式があるのか。

 そういえば、結婚式までにどんな行事があるのか聞いていなかった。

 今度教えてもらおうっと。


 そんなことを考えていると、兄が言った。

「来月領地に行くつもりで準備してたけど、領地に行くのはリジーの婚約式が終わった後になるな。女官見習いの都合にもよるだろうけど、もし行けそうなら一緒に行くだろ?」


 領地、久々に行きたい。今日、馬に乗って、思い出したところだし。


「うん、行きたい。また予定決まったら教えて。女官長に相談してみる!ありがとう。兄さん。じゃあね。私、急いでたんだった!」


 そう言って兄に手を振り、魔導士様の部屋に急いだ。


 ◇◇◇


「遅くなってすみません」

 魔導士様の部屋に駆け込み、急いで弟子のロジェの隣りに座る。

 もともとバルドー女官長の話も長引いていたのに、その後に兄さんにも会ったから、かなりの遅刻だ。焦って、塔の階段を一気に駆け上がってきた。


 肩でぜぇぜぇと息をする私に向かって、魔導士様は顔色ひとつ変えず静かに言う。

「慌てなくても大丈夫。リジー。今日から、魔法を実践していく。まずは深呼吸して息を整えなさい。魔法を使う時に大切なことは呼吸を整えることだ。呼吸が大事。それは覚えるように」


 やった!魔法の実践。

 それはうれしいけど…

 呼吸が大事…。

 私の呼吸がいま乱れ過ぎだといいたいのか…。


 魔導士様に言われた通り、私は大きく2度深呼吸した。


 私の呼吸が整ったのを見て満足そうに頷いた魔導士様は、話を続けた。

「魔法は体の中の魔力を感じ、しっかりと念じることで発動する。発動できる魔法の大きさは、自分の魔力量と念じる思いの強さの掛け合わせで決まる。では、最初に魔力量を測定しよう」


 魔導士様は水晶玉のようなものをテーブルの上に置いた。

「これは魔力を測定する特別な石だ。さぁ、この石の上に手をかざして」

 そう言いながら、私の顔を見る。

 私は黙って、水晶玉の上に自分の右手をかざした。


 すると透明だった水晶玉が真っ青に輝いた。

「ほう。リジーの魔力量は多いな。ウンディーネ様の加護を何度も貰っているのか」

「魔力量が多い、ですか?」

「そうだな、この魔力量だと魔法を30回くらい連続で発動することができる」


 そうか、私の魔力量は多いのか。

 30回連続発動。それは凄そう。


 右手を見ながらニヤニヤして考えていると、隣りのロジェが水晶玉に手をかざしていた。

 私は考えることを止め、水晶玉を見つめる。

 今度は、水晶玉は無色透明から薄い黄色に変化した。


「ロジェの魔力量だと、魔法の連続発動は3回くらいだな」

 魔導士様の言葉をきいて、思わず隣りのロジェの顔を見る。


 私の魔力量はロジェの10倍もあるの?!


 途端ロジェは怒り出した。

「なんだよ、俺の顔を見るなよ。ふん。ちょっと俺より魔力量が多いからって調子に乗るな。俺はアルフレッド様の一番弟子なんだからな」

「あ、ごめんなさい」

 咄嗟に謝って、私は慌ててロジェから目を逸らした。


 そうだった。忘れていたけど、ロジェは魔導士様が大好きなんだった。

 ロジェは一番弟子の座を私に奪われることを危惧しているようだけど、別に私はロジェの邪魔なんてする気がない。弟子になりたいなんて思わない。

 私はただ単に魔法の使い方を教えてもらいたいだけなのだ。


 心の中でロジェに「心配しないで」と呟きながら、魔導士様を見る。

「では、魔力量が分かったところで、実際に魔法を発動してみよう」

 魔導士様がどこから持ってきたのか、今度は一輪のタンポポの花をテーブルに置いた。

「リジー、この黄色いタンポポを青くするように心の中で強く念じてみて」

「青色ですか?わかりました」


 私は、魔導士様に言われた通り、呼吸を整えて、目の前の黄色いタンポポに集中する。

 青くなれーーー。


 すると、目の前の黄色いタンポポが、青色のタンポポに変わった。

「うわ、青くなった!」

 うれしくなって、思わず声が出てしまった。


 青くなったタンポポを凝視していると、魔導士様が優しく声をかけてくれた。

「上手くできたな。リジー、これが魔法だ」

「魔導士様、ありがとうございます」


 うれしい。うれしい。ものすごくうれしい。

 私、本当に魔法が使えるんだ。


 ひとり感慨に浸っていると、魔導士様がロジェに話していた。

「ロジェ、今度はこの青いタンポポを赤くできるかな」

 ロジェは真剣な顔で頷き、タンポポを凝視する。

 私も考えるのを止め、再びタンポポを見る。

 しばらくすると、青いタンポポが赤く変わった。


「すごい」

 思わず言葉が出てしまった。

 ロジェは「やった!」と小さくガッツポーズしている。

「ロジェも上手にできたな」

 魔導士様がロジェに優しく声をかけた。魔導士様は優しい人だ。


 あれ?でも待って。

 ロジェって前からここにいたんじゃないの?

 こんな初歩的な魔法を私と同じレベルで喜んでいるようじゃ、ダメなんじゃないのだろうか?


 そう思ったので質問してみた。

「魔導士様、ロジェはずっとここで魔法を学んでいるのではないのですか?」

 すると、魔導士様は静かに首を横に振った。

「いや、違う。ロジェがここに来たのは、リジーが女官長とやって来た日の前日だ。それまで、ずっとここは私一人だったんだよ」

「そうだったんですか?」


 私が来た前の日。

 なんだ、ロジェは私と変わらないじゃない。そんな先輩面しないでほしいわ。


 私がそう思いながら、ロジェの顔を見ると、ロジェは私の心が読めたのだろう。

「一日でも早くいるんだから、ここでは俺が先輩なんだからな」

「・・・分かった」

 仕方ないな、と苦笑してしまう。

「なんで、笑うんだよ」

 口を尖らせているロジェが可愛く見えた。


「でも、どうやってロジェはここに来たの?」

 私はバルドー女官長に連れられてきたが、ロジェもそうだったんだろうか?そう思って訊いたのだが、ロジェは「それは…」と言ったまま、答えない。

「ローラン王子に連れられて来たな」

 代わりに魔導士様が答えた。


「ローラン王子殿下に…?」

 思わず「ローランに?」と言いそうになって、慌てて敬称を付けた。




 

ありがとうございました。

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