134.幸運の女神6
今回で完結となります。今までありがとうございました。
国王陛下は、ヴィオラ様の提案に感心したように頷いた。
「さすが我が妃だ、ヴィオラ。それはなかなかの名案かもしれないな。……ローランとリジーは、ヴィオラの提案をどう思う?」
国王陛下はそう言うと、ローランと私の顔をじっと見た。
ローランが、なんと答えるのだろう。
私は息を呑んで、ローランの顔をじっと見つめる。
私は我が家の領地が大好きだから、ヴィオラ様のご提案は非常に嬉しいけれど、ローランが王宮を離れてあんな辺鄙な田舎で暮らしたいと思うのだろうか。
ローランは少し考えてから、まっすぐ国王陛下を見た。
「父上、私はリジーと婚約できるなら、どこにでも行きます」
ローラン!!
私は、思わずそう叫びそうになったが、ぐっと堪えた。
ローランは続ける。
「先ほどおっしゃったとおり、ハリス家の領地に近い国境付近での戦争に出向きましたが、とても美しい地で、戦いの無い日はとても癒されました。確かに、いつアヌトン王国が攻め入ってくるか分からない危険なエリアではありますが、その時はリジーをハリス家の領地に逃がすことができます」
ローランは私のこともちゃんと考えてくれているんだ。
うれしい。
まっすぐ国王陛下の顔を見て話すローランの横顔に見惚れてしまう。
「そうか。リジーはどうだ?」
国王陛下が今度は私に訊いた。
「私は、慣れ親しんだ領地の近くでローラン王子殿下と暮らせるなんて、こんなうれしいお話をいただけるとは考えもしませんでした。大変ありがたいご提案です」
私がそう答えると、ヴィオラ様がにこにこ微笑んだ。
国王陛下は、ローランと私の顔を交互に見た後に言った。
「そうか。わかった。2人とも望むのであれば、そのように進めよう」
◇◇◇
それから、すぐに国王陛下が私の両親と話をし、教会とも話をし、ものすごい手腕で、あれよあれよと話をまとめた。
ヴィオラ様の目論見どおり、ローランがアヌトン王国との国境付近の辺境地で暮らすのなら、その相手がたとえ一度婚約不成立となった私であっても問題ないらしい。教会はあっさりと再度の婚約を認めた。
もちろん私の両親は、再度ローランと婚約できることをとても喜んでくれた。しかも我が家の領地の近くで暮らすのだから、両親は大喜びだ。
国王陛下が話をまとめてから、わずか1週間後、私とローランは、王族のごく一部の人たちと私の家族に見守られながら、教会にて二度目の婚約式を行った。
前回と違ってひっそりと行われたが、前回よりもはるかに嬉しかった。
前はただ、イケメンの王子様と婚約できる、ということに浮かれていただけの気がする。
だけど、今回はちがう。
今回は、ローランと婚約したくてしたくて、やっと叶ったんだから、感慨もひとしおだ。
正直にいえば、ローランとの婚約は諦めていた。
一度婚約不成立となった相手と再度婚約なんて、前例がない。
だけど、もう婚約できない、と思えば思うほど、ローランへの想いが募った。
どんどん好きになった。
これからは、王宮とは比べ物にならない、ごく少ない人数で、辺境地の王城でローランと暮らす。
それもとても楽しみだ。
なんといっても、私は前世でアラフォーの主婦だった。
しかも、アラフォー時代の記憶が明確に残っている。
つまり、家のことは、ある程度できる。
もちろん、時代は全然異なるから違いも多いが、短い女官時代に教えていただいたことや王宮で暮らしたときに学んだことも多い。
だから、女官たちがいなくても、なんとでもできそうな気がしている。どこでだって暮らせる。田舎でローランと暮らせるなんて、最高だわ。
わたしはローランと二人暮らしでいいんだけど、さすがに王子様にそんなことはさせられないようで、騎士や女官たちも一緒にきてくれるが、もしも辺境地で暮らすのがつらそうな人たちがいたら、すぐに王宮に戻れるよう手配してあげたいな、とは考えている。
婚約式が滞りなく終わった後、ローランが私に言った。
「リジー。ありがとう。そして、これからよろしく。……それにしても、今回の婚約式のほうが緊張したよ。やっと、リジーと本当に一緒になれるんだと思うとね」
ローラン!!
ローランのいいところは、ちゃんと口に出して気持ちを伝えてくれるところだ。だからこそ、信じられる。
私もちゃんと伝えなくちゃ。
「ローラン、私も同じよ。前は何がなんだか分からないうちに過ぎちゃったけど、今回はとても緊張したわ。でも、とてもうれしいの。やっと、ローランと一緒になれる。本当にありがとう。これから、よろしくお願いします」
私がそう言ってお辞儀をすると、ローランが手を差し出したので、そっと手を重ねる。
ローランは優しく、だけど力強く私の手を握ると言った。
「もう、リジーの手はどんなことがあったって離さないよ。離れ離れになるのは懲り懲りだ。リジー、王宮を離れることになるけど、一生ついてきてくれるかい?」
「ローラン、うれしい! 私はローランと一緒なら、どこだっていいの。本当にどんな場所でもいいわ」
私は思わずローランに抱きついた。
ローランは優しく私の肩を抱いてくれた。
「ローラン王子殿下、リジー様、そろそろ出発のお時間でございます」
ひとりの騎士が、少し気まずそうに、私たちに声をかけた。
私たちはその声で、そっと離れる。
教会の前で、馬車が私たちを待っていた。
「じゃ、リジー、行こう!」
ローランに促され、「はい」と返事をして、馬車に乗り込んだ。
家族や国王陛下、ヴィオラ様はじめ王妃様たちが、私たちを見送ってくれている。
気づくと、婚約式には出席していなかったローランの兄弟殿下の方々や王宮の女官たち、多くの騎士が私たちの門出を祝って、馬車の周りに集まってくれていた。
「みんな、来てくれたんだな」
ローランも嬉しそうだ。
出発の準備が整うと、私たちを祝う声が方々から聞こえた。
「ローラン王子殿下、リジー様、おめでとうございます!」
大々的に発表された婚約式ではなかったし、私たちの2度目の婚約をよく思わない人もいる中で、それでも一部の国民の方が私たちの門出のために集まって、私たちを祝ってくれている。
それがうれしくて、自然と涙が出た。
私たちが乗った馬車がゆっくりと動き出す。
私は思わず、馬車の窓から身を乗り出し言った。
「皆様、ありがとう! 私は本当に幸せです! これからしっかりとローラン王子殿下をささえていきます! いってきます!」
ローランは、そんな私に少し驚きながら、笑って言った。
「リジー、馬車から身を乗り出したら、危ないよ。……何を言い出すのかとびっくりしたよ」
「だって、うれしかったんだもん」
私はローランの隣に座り直した。そして言った。
「ローラン、改めてよろしくお願いします! ローラン、大好き」
ローランは私の手を取って、優しく言った。
「リジー、僕もだよ。大好きだ。やっと一緒になれた。もう絶対離れない。どこにいたって、誰に何を言われたって、死ぬまでずっと一緒だから」
また時間ができたときに、この続きを書いてみたいとは思いますが、今、あまりに本業が忙しく、いったん完結します。本当にありがとうございました。