133.幸運の女神5
遅くなって、すみません。更新が遅すぎて忘れられている気もしますが、引き続き細々と更新していきます。
「そうね。……今日はリジーに、グリージョを会わせたらもういいかな、と思っていたんだけど、リジーの涙を見て考えが変わったわ。ちゃんとお話しするわね」
ヴィオラ様はそう言うと、少し考え込んだ。
そして、グリージョの顔をじっと見てから、私のほうに向き直って、口を開いた。
「うーん。どこから話したらいいかしら。……リジーとタミアさんのお家で会ったときのことから、話そうかな……。あのとき、私はリジーに、王宮へ戻りたくない、と伝えたでしょ? それは本心だったわ。だって、タミアさんのことが心配だったもの。タミアさんを置いて、国王陛下のところへ戻ったら、タミアさんがどうなってしまうか分からないわ。それなのに、リジーが帰った後、タミアさんが私に『王宮へ戻れ』と言いだしたのよ」
そうだったんだ。
ヴィオラ様は戻る気がなかったのに、なぜかタミアさんが、ヴィオラ様に王宮へ戻ることを勧めたんだ……。
私は黙ってうなずくと、ヴィオラ様はつづけた。
「私はタミアさんのことが心配だから、『ずっとここにいます』と何度も伝えたのよ。でも、タミアさんは私の言葉には耳を傾けず、『私はリジーのところに行ってくる』『この後、ここにグリージョがやってくるから、グリージョと一緒に王宮に戻りなさい』とだけ言って、出かけてしまったの」
ヴィオラ様はそう言うと、寂しそうな顔をした。
「それで、タミアさんは私のところに来られたんですね」
私の言葉に、ヴィオラ様はにこりと微笑んだ。
「……さっき、私はタミアさんの幸せな未来がみえる、って言ったけど、あれは実は少し間違ってるの。私には見えない。だけど、グリージョが見せてくれたのよ。……タミアさんが家から出ていってしばらくすると、タミアさんの言葉どおりグリージョがやってきたの。そして、タミアさんがこれから辿る未来を私に見せて、私を安心させてくれたわ。……それなら、国王陛下のところに戻っても、大丈夫だと思えたの。だから、グリージョと一緒に王宮へ戻ってきたのよ」
「タミアさんが、これから辿る未来……」
いったい、それはどういう未来なんだろう。グリージョはどんな未来を見せてくれたのか。
私がそうヴィオラ様にたずねようと顔を上げると、ヴィオラ様はにっこり微笑んで
「それは秘密」
と言った。
「タミアさんの未来をリジーに教えることはできないけど、でも、タミアさんは幸せになるわ」
ヴィオラ様がそう話した時、誰かが扉をノックした。
「あら、珍しいわね。誰もこの部屋にはこないように、国王陛下にお願いしていたのだけれど……。リジーがきてるからかしら。ちょっと待ってね」
ヴィオラ様がそう言って扉を開けると、国王陛下とローランが部屋に入ってきた。
そばで控えていた女官たちは、どうしていいのか困惑気味にヴィオラ様に何かを話していたが、ヴィオラ様はにこやかに国王陛下とローランを迎え入れた。
「突然お邪魔して、すまないね。ヴィオラ、体調はどうだい?」
国王陛下はそう言うと、ヴィオラ様を抱き寄せた。
その隙に、ローランが私の横にやってきた。
私の耳元でローランが小声で言った。
「父上が急に呼び出してきて、リジーたちに会いに行こう、と言ったんだ。驚かせてごめんね」
私は「大丈夫」と小声でローランに伝えた。
私たちは、ヴィオラ様に促されて、改めてソファに座る。女官たちが国王陛下とローランのお茶の用意をし終え、部屋から出ていくと、国王陛下が口を開いた。
「リジー。リジーのおかげで、あの忌々しい憎き魔女から、私の可愛いヴィオラをこうして取り戻すことができた。本当に感謝する」
国王陛下は、そこから少し小さい声で言った。
「だが、ヴィオラが魔女に攫われていたことは王族の一部しか知らないし、今後も皆に知らせるつもりはない。だから、皆の前でリジーに礼をする事はできない」
「はい」と私は深く頷いた。
国王陛下はヴィオラ様と顔を見合わせ、ヴィオラ様の肩を抱いて、私に言った。
「でも、私はどうしてもリジーに礼をしたい。何か望みはあるか?」
私は隣りに座るローランの顔を見てから言った。
「国王陛下、私の望みはただ一つでございます。ローラン王子殿下ともう一度婚約を認めていただきたいです」
私が頭を下げると、国王陛下はローランにきいた。
「ローラン、お前はどうだ?」
私は頭を下げながら、ローランが何と答えるのかドキドキした。
もし、ここで、ローランが断ったら、どうしよう。
最近、ローランとそんなにコンタクトが取れているわけではない。
前に、一年以内にローランが婚約できるよう頑張るから待ってほしい、という話を国王陛下から直々にいただいたから安心してお願いしたが、ちょっと私の勇み足かもしれない。
「僕も、もう一度リジーと婚約したいです」
ローランの力強い言葉を聞いて、私は涙が出そうになった。
ローラン!! ありがとう! 大好き!
ずっと頭を下げながらも、うれしさで口元が綻んでしまう。
すると、それまで黙っていたヴィオラ様が口を開いた。
「陛下、私からもお願いいたします。リジーは私の恩人です。二度も私の危機を救ってくれました。ローラン王子殿下との婚約を認めてあげられないでしょうか」
国王陛下は、少し困った顔で言った。
「リジー、ローラン。二人とも頭を上げてくれ。……二人の婚約については、実は私はずっと前から認めている。ただ、教会があのような決定をしたから、教会が認めざるを得ないようなことがないといけない。今回の一連のことは教会に伝えるわけにもいかず、どうしたものか思案しているのだ。今のままでは、もう一度婚約式というわけにもいかないだろう」
ヴィオラ様が言った。
「陛下、それなら私にいい考えがあります」
え? どんな?
私は思わず、ヴィオラ様の顔をまじまじと見つめた。
ヴィオラ様は続けた。
「ハリス家の領地は国境に近く、少し前にローラン王子殿下も戦争であの辺りに行かれていたとおり、我が国にとっては重要な場所です。ローラン王子殿下を警備も兼ねて、ハリス家の領地の近くの王城に派遣し、あの地に詳しいリジーに同行を任じるのはいかがでしょうか。その任務のために、二人の婚約を認めるのです。辺境地で暮らすのであれば、そのうちに皆も認めるでしょう」
ありがとうございました