130.幸運の女神2
亀のペースですが、なんとか130話まできました。なかなか更新できず申し訳ございません。引き続きこのペースにはなりますが、どうぞよろしくお願いします。
「ええ、確かに、言われてみれば、そうですね……。でも、なんだか私が思い描いていたものとは違いました」
私は正直に答えた。
「ククク。そうかい?」
タミアさんは笑っている。
シルフ様は、真顔で言った。
「リジーはどうするの? 魔女をここで匿っておくなんて、できないでしょ?」
「……そうですね。困りました。……どうすればいいんでしょう?」
私は咄嗟にそう答えた。
だけど、本当に困った。
タミアさんをこれからどうしたらいいのだろう?
親や家族にも、さすがにタミアさんのことは紹介しづらい。というか、絶対できない。
家族にタミアさんが見つかったら、遅かれ早かれ、タミアさんが魔女だとバレるだろう。
それが国王陛下の耳に届いたら、ローランとの結婚話は即破談。それだけでは済まず、我が家は一家でこの国から追放になるだろう。いや、追放で済めばいいほうかもしれない。処刑されるかもしれない。
……ああ、考えただけで、身震いがする。
だからといって、タミアさんを国王陛下に差し出すことも、できない。
まだ、それほど詳しくは知らないが、なんとなくタミアさんは、そんなに悪い人ではない気がする。
確かに、呪いなんてものを国王陛下にかけたり、国王陛下と敵対したりする、悪い魔女だということは分かっている。
それでも、なんだか憎めない。
タミアさんを国王陛下に差し出すとしても、もう少し詳しく知ってからにしたい。
タミアさんは、私と同じ転生者だと言ってたし、何やらいろいろ事情はありそうだ。
それに、大好きなハミアさんと双子だし。
……。
ああ、困った……。
どうしたらいいのか、いい答えがまったく見つからない。
途方に暮れて、タミアさんの顔を見ると、タミアさんは他人事のように涼しい顔だ。
もう、タミアさんのことで、こんなに困っているというのに……。
私が恨めしそうな顔で、タミアさんをじっと見ていると、シルフ様が言った。
「ウンディーネがタミアを預ってくれるって言ってるけど、どうする?」
「え?!」
私とタミアさんが同時に驚いた。
そして、私が「ウンディーネ様! 確かにそれが一番いい……」と言いかけた時、わたしの声をかき消すほど大きな声で、タミアさんが言った。
「ウンディーネのところは、嫌じゃ!!」
そして、タミアさんが「嫌じゃ、嫌じゃ!」と駄々っ子のように、首を横に振って、足をジタバタさせた。
「え? どうして、ウンディーネ様のところがそんなに嫌なんですか? きっと、とってもよくしてくれますよ」
私がタミアさんに聞いても、タミアさんは全然答えてくれず、ただ「嫌じゃ!嫌じゃ! ここにいる!」と言い続けるばかりだ。
見かねたシルフ様が言った。
「リジー。タミアの意見なんて、聞かなくてもいいわ。さぁ、ウンディーネのところにタミアを送るわよ。私ひとりの魔力だとタミアに負けるけど、リジーの魔力とウンディーネの魔力も合わせれば、タミアの魔力を上回るから協力して。一緒にウンディーネの場所にタミアを送るイメージをもって」
シルフ様の言うとおり、私はタミアさんをウンディーネ様のもとへと送るイメージを描いた。
すると、ハッキリとウンディーネ様が浮かび上がった。ウンディーネ様は私ににっこりと微笑んで、言った。
「リジー、よく頑張りましたね。タミアは、しばらく預かるから安心して」
ウンディーネ様が言い終わるか言い終わらないか、というときに、私とウンディーネ様の周りが強い光に包まれた。
私の部屋にいるはずなのに、強い光とウンディーネ様しか見えない。
座っているソファや目の前のテーブルすら、見えない。
でも、強い光は決して不快な光ではない。
それどころか、とても温かな光だった。
しばらく光の中に包まれ、私はなんとも言えぬ幸せな気持ちになった。
それから少しずつ、光が弱まっていく。
光とともに、ウンディーネ様の姿も少しずつ薄くなった。
「ウンディーネ様……」
私がそう呟いたときには、すっかり光は消えていた。ウンディーネ様の姿も見えなくなった。
そのかわり、目の前のテーブルやソファが、はっきりと見える。
「あれ?」
気づくと、部屋には1人っきりだ。
タミア様はウンディーネ様のところへ行ったとして、シルフ様の姿も見当たらない。
シルフ様も行っちゃったんだ……。
急に1人にされて寂しくなった。と同時に、ものすごい眠気がやってきた。久しぶりに魔力を使ってとても疲れたようだ。私は、そのままごろんとソファに横になった。
◇◇◇
「リジー、リジー。聞こえるかい?」
耳元の甘く優しい声で、私は目を覚ました。
「ローラン?」
ゆっくりと体を起こしながら時計を見ると、タミアさんを送ってから1時間以上過ぎている。ずっと変な姿勢のままソファで眠ってしまっていたようで、身体のあちこちが痛い。
私は身体をゆっくりとほぐしながら、ローランの話を聞いた。
「リジー、連絡したかったんだけど、なかなか連絡できなくてごめんね。父上から急ぎの仕事が立て込んでしまって……。頑張って早く終わらせたんだけれど、それでも遅くなってしまった。ずっとリジーひとりに任せてしまって、本当にごめんね。そして、本当によく頑張ったね。すごいよ。本当にありがとう。父上をはじめ、王族一同でリジーに感謝している。ありがとう!」
「ローラン、何のこと?」
寝起きの私には、ローランが何を言っているのか分からなかった。
ローランが言った。
「ヴィオラ様が王宮に無事戻ってきたのは、リジーが連れ戻したんでしょ。ヴィオラ様がそう説明していたけど、どうやったのか詳しく教えてほしいよ」
ローランのその言葉に、ようやく合点がいった。
「ああ、そのこと……」
さっきまでのタミアさんの騒動で、すっかりヴィオラ様のことを忘れていた。
「よかった! ヴィオラ様はちゃんと王宮に戻られたのね。そして、私が連れ戻したと、ヴィオラ様は説明されたの? どのようなお話だったのか教えてほしい」
私がそう言うと、ローランは思い出すような口調で言った。
「うん、確か、ヴィオラ様はひどく疲れた様子で王宮に1人で戻ってこられたんだ」
ありがとうございました。




