表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/134

128.告白3

 ヴィオラ様に、はっきりと「ここにいる」と言われた以上、もう私にはどうすることもできない。


「分かりました。今日は帰ります。急にお邪魔して失礼しました」


 私はそう言って、グリージョをポケットに入れた。


 タミアさんが玄関に案内してくれる。


「ドアを開けると、あんたの家の前に出るから、安心しな」


「どういうことですか?」


 私は意味がわからず、タミアさんに尋ねたが、タミアさんはそれには答えなかった。


 仕方なく、私はドアノブを握る。でも、ふと思い立って、くるりとタミアさんのほうに向き直った。

 そして、にっこり微笑んで言った。


「タミアさん、私、またここに来てもいいですか?」


「は? もう用事は済んだだろ?」


 タミアさんは冷たく言うと、手のひらをしっしっと振った。

 だけど、私にはタミアさんの、そんな態度は想定内だ。だって、私は前世で、こんな扱いはしょっちゅう受けていた。いや、もっと冷たい態度をされていたかもしれない。

 だから、これぐらい、なんてことない。


「私、タミアさんとお話するの、最初は緊張しましたけど、話していくうちにどんどん楽しくなりました。まだ全然話し足りないですし、またお話したいです。だから、また来ますね」


 タミアさんは、私の顔を呆れた顔で見ている。

 それから、しぶしぶ言った。


「……勝手にすればいい……」


 私はタミアさんのその言葉を聞いて、タミアさんに抱きついた。


「ありがとう! タミアさん。また来ますね」

 

 それから、ゆっくりとタミアさんから離れると、もう一度ドアノブを握った。

 ドアノブを回すと、がちゃりと音がして、ドアが開いた。

 ドアの向こうへ一歩すすむと、自然にバタンとドアが閉じた。慌てて後ろを振り返ると、今開けたばかりのドアが跡形もなく消えていた。

 

 もちろんタミアさんの姿は見えないし、声も聞こえない。


 え? どうなってるの?


 くるりと前を向くと、そこには自分の家があった。


 ◇◇◇


 家に帰り、グリージョを地下に連れて行ってから、自分の部屋に入った。

 もうすぐダンスの先生がこられると母が話していたが、少しの時間でもいいから、とにかく一人になりたかった。


 なんだか、さっきまでのことが、夢を見ていたみたいだ。


 現実離れしたことだらけで、まだ頭が混乱する。


 私はグリージョみたいに小さくなって、なぜかグリージョの言葉がわかるようになって、気づけばタミアさんと話していた。

 

 憎き魔女だったはずのタミアさんは、意外にいい人だった。


 なにより、タミアさんも、私と同じ転生者だと言った。

 ただし、私より100年早く転生してきた、と言った。その意味はちょっと分からないけれど、まぁ同じ転生者ということでいいや。

 どことなく、私にシンパシーを感じているようだったし。


 そして、ヴィオラ様は、タミアさんにわざと攫われていた。実は、ヴィオラ様自身の意志で、今タミアさんの傍にいる。王族の皆の前で、演技していたということなのだろう。だから、今は王宮に戻りたくない。


 このことは、どうローランに伝えたらいいんだろう?


 ぐるぐる考えていると、アンがダンスレッスンの時間だと私を呼びに来た。

 アンに手伝ってもらって、レッスン着に着替え、トニー先生が待つ部屋へと入った。


 今日が2回目のダンスの練習だ。

 トニー先生は、前回で私のダンスの実力をしっかりと把握されたらしく、今日の練習は最初からギア全開でスタートした。

 先生の熱のこもった指導に、ついていくのが必死だ。頭では先生が仰ることも分かるのだが、身体が思う通りに動かないから、同じことを何度も何度も繰り返した。

 先生は、そんな私を見捨てずに、根気強く同じことを何度も教えてくれた。


 そんな状況だったから、レッスンが始まると、余計なことを考える余裕など一切なかった。

 

 そして、ようやく長い長い2時間のレッスンが終わったときには、身も心もボロボロになっていた。


 レッスンの後、最後の気力を振り絞って先生を見送った。


 そこまでは、かろうじて覚えている。

 そこからの記憶はまるでない。

 

「……お嬢様。リジーお嬢様。大丈夫ですか?」


 誰かが私の体を揺すっている。


 ん?アンの声が聞こえる?!


 アンの声に気づいて、目を開けると、私の顔を覗き込むアンの顔が見えた。


「あれ? アン。どうしたの?」


「リジーお嬢様。こんな場所で寝ていたら、風邪をひいてしまいます。お疲れでしたら、お部屋のベッドにいきましょう」


 え?


 アンが私の背中の下に手を入れて、ぐいと上半身を起こしてくれた。

 私は自然と起き上がる。


 どうやらレッスン場の床で、いつのまにか眠ってしまっていたようだ。


 身体の節々が痛い。


 そして、なんだか寒気がする。


「ハックション」


 思わずくしゃみがでた。


「まぁ、大変。急いで着替えましょう。汗で冷たくなっていますね」


 アンはそう言いながら、テキパキと私を着替えさせてくれた。私の頭はまだぼーっとしている。


 着替えが終わると、アンに連れられて、自分の部屋へと戻る。


 どうやって歩いたのかもあまり覚えていないが、とにかく自分の部屋に戻ってきた。


 そして、アンに促されるまま、ベッドに入る。

 私はまたすぐに眠りに落ちた。


 ◇◇◇


 目が覚めた時には、翌日の午後になっていた。

 昨日は夕食も取らず寝続けたようだ。よっぽど疲れていたらしい。


 でも、おかげで十分な睡眠が取れて、頭はスッキリしている。


 その時、ビューッと強い風が吹いた。


 あ、この風、知っている!


 そう思った時には、目の前にシルフ様が座っていた。


「シルフ様! お元気ですか?」


 私が笑顔で声をかけると、シルフ様は呆れたように言った。


「リジー、ずっと寝てたの? グリージョからお腹すいた、って連絡がノームのところにいって、ノームから私に連絡きたわよー。グリージョったら、かわいそうに、昨日の夕食も今朝の朝食も貰えてないって言うじゃない!」


あ!!


「すみません。私、昨日の夕方から今まで、ずっと寝てしまっていました……」


 シルフ様の手には、グリージョがのっていた。真っ黒だけど、ぐったりしてるように見える。


「グリージョ。本当にごめんなさい。今から急いで、ご飯を持ってくるね」





ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ