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125.救出作戦5

「ああ、もしかしたら、ローランが嫌になったのかい?」


 タミアさんはそう言って、下を向いた私の顔を覗き込んできた。


「いえ、決して嫌になったなんてことはありません。私は今でもローラン王子殿下のことをお慕い申し上げております」


 私は慌てて顔を上げて否定する。


「そうかい。それなら、せっかく婚約できたのに不成立になって、さぞかし国王を恨んでるのかい?」


 タミアさんはニヤリと笑った。


「いえ、国王陛下のことも、どなたのことも恨んでいません。婚約できなかったのは残念ですが、いまとなってはローラン王子殿下と親しくさせていただけでも本当に幸せだったなと思います」


 これは本心だ。


 私は確かに婚約不成立が受け入れられなくて、ひどく落ち込んだし、悲しかった時もあったけれど、よくよく考えたら、ローランと親しくさせてもらえただけで、本当に幸せだと思う。


 女官として王宮に仕えることになったときに、王族の方たちと少しはお話しする機会もあるのでは、と淡い期待は抱いていたが、まさか婚約できるなんて、そこまでは考えていなかった。


 さらに、今も縁が切れているわけではなく、まだ親しく話が出来る。というか、いつでも通信できる装置をお互いに持っていて、自由に連絡をとることができる!! 皆の憧れの王子様とこんなに親しくさせてもらえて、どこに不満があるというのか。


 ローランとの婚約はとても素敵な良い思い出だ。もうこれ以上を望むのは、厚かましすぎるにも程がある。


 私にはなぜか前世のアラフォーの記憶が残っているが、前世のほうがよっぽど辛かった。

 今は、前世とは比べ物にならないくらい、毎日が充実している。


 だから、ローランと婚約できなかったことについては、もうすっかり吹っ切れている。


 でも、私が晴れやかにそう答えたのは、タミアさんには意外だったようだ。


「ほう。変わった子だねぇ」


 私は、いつのまにか、タミアさんに、大好きなハミアさんを重ねていた。タミアさんの言葉と態度に自然と笑っていた。


「ん? リジー?!……」


 私の笑顔に一番驚いていたのがグリージョだ。さっきまで知らんぷりで寝っ転がっていたのに、むくりと起き出して、びっくりした顔で私のことを見ている。


 私はグリージョが何に驚いているのか、分からなかった。首をかしげながら、グリージョの顔を見返した。


「さっきまであんなに怖がってたのにさ、もう笑っているんだからビックリするよ!」


 グリージョは少しムッとしながら言った。私は笑って言った。


「ああ、そうね。ごめんね。確かにさっきまでは、とても緊張していたけれど、お話ししていたら楽しくなってきたの」


 私の言葉に、今度はタミアさんが、アハハと笑った。


「ほう、やっぱり変わった娘だねぇ。私と話して楽しくなったなんて、言われたことないよ」


「そうですか? 私も、変わった娘なんて、初めて言われました」

 

 私が真顔でそう返すと、またタミアさんは大きな口を開けて、アハハハハと笑った。


「やっぱりあんた変わっているよ。アハハ。……ところでさ、あんたハミアと会ったことがあるんだろ?」


「はい。ハミアさんにはとってもお世話になりました。私がローラン王子殿下との婚約がうまくいかなくなって、一番苦しかった時に、そばにいて話を聞いていただき、アドバイスいただきましたから。……私のこと、ハミアさんに聞かれたのですか?」


「いや、聞いてないよ。聞かなくたって、ほら、こうやって分かるのさ」


 タミアさんの前には、いつの間にか巨大な水晶玉があり、それに手をかざすと、ぱっと水晶玉にハミアさんの姿が映し出された。


「わぁ、ハミアさんだ。懐かしい!! お会いしたいわ」


 私は巨大な水晶玉に映し出されたハミアさんに駆け寄った。


 水晶玉の中のハミアさんは、露店でお客様と何やら話している。とても忙しそうだ。今も相変わらず、ジャルジさん達と一緒に遍歴商人として各国を旅しながら商売を続けているのだろう。


「これで、ハミアと話しているあんたを見たよ。その時に、あんたを初めて知ったわ」


 タミアさんはそう言うと、もう一度水晶玉に手をかざした。それと同時に、さっきまで映っていたハミアさんの姿は消えてしまった。


 ああ、残念……。ハミアさんの姿をもう少し見ていたかったのに……。


 口には出さなかったが、恨めしそうにタミアさんを見てしまったのだろう。


 私の顔を見て、再びタミアさんが笑い出した。


「アハハ。なんだい、その顔は。アハハハハ。もっとハミアを見てたかったとでも言うのかい? あんなお婆さんを見て、どうするというんだい? アハハハハ」


「変ですか? もっとハミアさんを見たかったです……」


「アハハハハ。やっぱり変わった娘だよ」

 

 タミアさんがひーひー言いながら、笑い転げているのを見ていると、私もつられて笑ってしまった。


「もう、タミアさん、そんなに笑わないでくださいよ。アハハ」


「アハハハハ」


 それから二人でしばらく笑った。グリージョが冷めた目で私のほうを見ていたけれど、それは全然気にならなかった。


 笑いすぎて、すっかり疲れて、椅子の背もたれにもたれかかる。タミアさんも同じ体勢だ。


「ああ、疲れて喉が渇いたね」


 タミアさんはそう言うと、だるそうに椅子から立ち上がり、二人分のお茶を用意して持って来てくれた。


「さぁ、お飲み」


「ありがとうございます。いただきます」


 私もすっかり笑い疲れていたので、目の前に出されたお茶をがぶがぶと一気に飲み干した。


「おお、すごい勢いで飲んだね」


 私の飲みっぷりを見て、タミアさんが目を細める。


「私が出したお茶を躊躇なく飲み干したのは、あんたが初めてだよ」


「え?」


 私が真顔になって、タミアさんの顔を見た。タミアさんの顔は少し寂しそうだった。


「タミアさん、お茶をありがとうございます。とても美味しかったです。一気に飲んでしまって、はしたなかったですけど……。喉が渇いていたので、許してください」


「いやいや、私は魔女だから、マナーなんて気にしないさ。それより、おかわりはいるのかい?」


「はい、お願いします」


 タミアさんは、カップになみなみと、おかわりを注いでくれた。

 私は今度は、少し落ち着いて、お茶を半分ほど飲んだ。


「とても美味しいお茶ですね」

ありがとうございました。

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