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124.救出作戦4

「おや、ようやく来たのかい? 遅かったね」


 どこからか、声が聞こえた。年配の女性のような声だ。


 グリージョが、その声に向かって答える。

「これでも、急いで来たんだよ」


 私はグリージョの視線の先を追った。

 相手が大きすぎて、姿全体をなかなか把握できない。

 

 ああ、私の身体が元に戻れば、相手が誰だかすぐ分かるのに……。


 じれったく思いながらも、声の主を必死で見る。


 だって、この声の主は、魔女かもしれないのだ。


 でも、魔女だったら、グリージョはこんなに親しげに話すだろうか?


 きっと魔女ではなく、グリージョが仲良くなった人なんだろう。


 とにかく、声の主の顔が見たい。

 下半身は、お婆さんのような格好だ。


 でも、どうあがいても上半身がよく見えない。

 だから、顔も全く分からない。


 どこか高い場所に登らないと……。


 私は必死で周囲を見渡した。


 目の前にテーブルと椅子らしき物はあるが、身長が3cmほどの今の私には、登れそうにはない。

 身体が小さくなった分、超人的な能力が身について、飛び乗れるとか、そういうことは無いのだ。

 この部屋に置かれているものは、何もかもが高すぎて登るのに適当な物はなさそうだ。


 うーん、どうしよう……。


 そう思っていると、目の前の声の主がゆっくりと私に近づいてきた。


 膝を曲げて、大きな手を私の前に差し出してくる。


 そして、もう片方の手でグリージョと私をつまむと、その大きな手のひらの上に乗せた。


 それから、ゆっくりとその手のひらを持ち上げる。

 私の目の前には、さっきから見たくてたまらなかった声の主の顔がどアップになった。


 私はその顔を見て、思わず息を呑む。


 目の前にはハミアさんにそっくりなお婆さんがいた。


 この人が、きっと魔女だ……。


 直感でそう思った途端、全身がガクガク震え出した。


 今の私はたった3cmほどの大きさしかない。


 吹き飛ばされたら、一巻の終わりだ。


「はじめまして、お嬢ちゃん」


 目の前の魔女らしきお婆さんが私に向かって声をかけた。

 

 何か返事をしなくては、と思うけど、あまりにも怖すぎて、全く声が出ない。


 魔女と私ではもともと圧倒的な力の差があるうえに、今の私はわずか3cmほどの大きさで、逃げることすらできない。


 ああ、もう終わりだわ……。


 何も声が出せない私の代わりに、グリージョが言った。


「リジーには何もしない約束だよ」


 魔女はその言葉にニヤリとして言った。


「わかってるよ。何もしないさ。ちゃんと一人で来たようだからね。なかなか肝っ玉の座った娘だねぇ」


 何もしない、という魔女の言葉に、思わず魔女の顔を見た。


「それならいいよ」


 グリージョはそう言うと、魔女の手のひらの上で寝っ転がった。


 すっかり寛いでいる様子のグリージョをじっと見てしまう。


 こんなところで寛いでいられるなんて、グリージョは凄すぎる。

 魔女がぎゅっとこの手を握り締めたら、私たちは一瞬でぺったんこになってしまうというのに。


 そう思いながら、のんびりと寝っ転がるグリージョを見ていたら、なんだかおかしくなってしまった。


 ふふふ。私はこんなに緊張しているというのに、グリージョは魔女の手のひらのうえで大の字に寝っ転がっているなんて、どういうことよ……。緊張してる私がバカみたい。


 すると、頭の上から声が聞こえた。


「お嬢ちゃんは、ウンディーネの娘なんだろ? ウンディーネの匂いがするねぇ」


「え?」


 どうして、それを……?


 でも、その前に、この目の前のお婆さんが本当に魔女なのか確認しなくては。


 私は渾身の力を振り絞って、声を出した。


「あの……」


 小さく掠れてはいたが、なんとか声は出た。


 声が出たことでほっとしたし、自信もついたので、今度は大きな声で言った。


「あの……、あなたは、タミアさんですか?」


 目の前のお婆さんは、頷きながら言った。


「そうだよ。私はタミア。皆からは、魔女とかなんとか言われてるわ」


 やっぱり目の前のお婆さんがタミアさんだったんだ。

 

「あの……、今日私は、ヴィオラ様をお迎えにここに来ました。ヴィオラ様はいらっしゃいますか?」


「ああ、いるよ。……でも、その前にもう少し私と話そうか。その体だと話しづらいだろ? 元に戻してやろう」


 タミアさんはそう言うと、私とグリージョを手のひらから再度摘まみ上げ、床に置いた。そして、何やらブツブツ言ったかと思うと、ボンと音がして、私の体は元に戻った。


「さぁ、そこに座りな」


 私は言われたとおり、タミアさんが指さした椅子に座る。タミアさんも私に向かい合って座った。


「お嬢ちゃんの名前は?」


 タミアさんにきかれて、自分がまだ名乗っていないことに気づいた。慌てて名乗る。


「すみません。私はリジー・ハリスと申します。タミアさんのおっしゃるとおり、ウンディーネ様には大変よくしていただきましたし、娘……だと思います……」


「そうか。リジーって言うんだね。どうしてあんたがヴィオラを迎えにきたんだい? 王族ではないのだろ?」


 タミアさんは魔女だと言われているけれど、気さくな人なのかもしれない。身構えている私がバカらしいほど、優しく話し掛けてくれる。

 私は少しだけ肩の力を抜いた。


「王族……。私は王族になりかけたんですけど、結局なれませんでした……。ローラン王子殿下と一度は婚約したのですが、ダメになってしまいました……。ただ、それがきっかけで、王族の方とは知り合いになりました。それで、今回私がヴィオラ様をお迎えに行く役目をいただきました」


 私がそう言うと、タミアさんの目がキランと光った。


「ほう。ローランと婚約したのは、あんただったか……。ということは、あんたが私の刻印を解いたのか?」


 ローランの胸に刻まれた魔女の呪いの刻印。確かにそれを解いたのは私だ。


「はい、そうです」


 私は意を決して、頷いた。


「ほう。大したもんだ。でも、それなのに婚約が成立しなかったのかい? かわいそうな娘だね……。


 タミアさんはそう言って、私のことを憐れむように見た。

 私はその視線に耐え切れず、思わず下を向いた。

ありがとうございました。

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