122.救出作戦2
魔導士様の言葉の後、誰も言葉を発さない。
お互い顔を見合わせたまま、沈黙が続く。
ローランも、魔導士様の言葉に納得したのだろう。返す言葉が見つからないようだ。
これは、やっぱり私が1人で魔女のところへ行くしかない。
私は腹を括った。
「わかりました」
魔導士様とローランに目を合わせ、意を決して言った。
「私が1人で魔女のところへ行き、ヴィオラ様を返していただけるよう、話してきます」
「いや、しかし……。アルフレッドの言うことは分かるが、やはり心配だ。いくらなんでも、魔女のところへリジー1人で向かうなんて……」
ローランは強い口調で言った。
「相手は死の呪いをかけることができる魔女だ。何も策がないのに、リジー1人に行かせるなんて、いくらなんでも無謀すぎる!! リジー、この話は無かったことにしよう。リジーの身に何かあってからでは遅すぎる」
ローランの言葉を聞くと、さっき腹を括ったのに、あっさりと解けてしまう。
やっぱり怖いかな……。
そう思って怖気付いていると、どこからかローランや魔導士様ではない、別の人の声が聞こえた。
「まぁ待ちなさい。ワシがその子にグリージョを託したのを忘れたのかい?」
声がする方を見ると、いつの間にか魔導士様の部屋にノーム様がいた。
「え? ノーム様……?!」
驚く私のことは完全にスルーして、ノーム様はまっすぐローランだけに向かって言った。
「ワシがグリージョをリジーに貸し出した時のことを思い出すのじゃ。もともとはリジーがタミアに会って話したいと言ったんじゃよ。そして、グリージョがタミアの行方を見つけた。ただ、それだけのことだ。たまたまタミアが1人ではなく、ヴィオラ様もそこにいるかもしれないが。今のところ予定どおりじゃ。グリージョが見つけたら、次はリジーがタミアに会いに行くのじゃろ?」
ああ、たしかにノーム様の言う通りだ。
もともとは、私が国王陛下にかけられているかもしれない呪いのことも含めて、タミアさんと話してみたいと望んだことだった。
それなのに、ヴィオラ様の失踪ですっかり目的を見失っていた。
私の流されやすいところが出てしまった。
ノーム様が今度は私の方に向かって言った。
「なぁ、リジーはタミアに会って話したかったんじゃろ?」
私は頷きながら言った。
「はい、ノーム様。そのとおりです」
それから、今度はローランに向かって言った。
「ローラン、私はきっと大丈夫よ。いつでもローランと連絡が取れるし、グリージョだっている」
それでもローランが黙っていると、ノーム様が追いうちをかけるように言った。
「ローラン。心配無用じゃ。ワシがずっとリジーのことを見守っておる」
ノーム様の言葉を聞いて、ようやくローランが私の手を取った。
「……わかった。リジー。気をつけるんだよ。何か少しでも困ったことがあれば、すぐに僕に連絡して。ヴィオラ様の救出より、リジーのほうが大切だから。それは分かってほしい。とにかく無茶だけはしてはダメだ」
私はローランの美しい瞳をしっかりと見つめながら、手を強く握り返した。
「ありがとう。十分に気をつけて、ローランに心配をかけるようなことはしないわ。すぐに連絡するから」
私とローランの話がついたのを確認して、ノーム様が私にきいた。
「リジー。グリージョは一緒かい?」
「はい、連れてきました」
私はポケットに忍び込ませていたグリージョを手のひらにのせて、ノーム様に見せる。
ノーム様はグリージョになにやら話しかけ始めた。何を言っているのかは全然分からない。呪文のような外国語のような、何かよく分からない言葉を言っているが、グリージョには伝わっているようだ。
グリージョは何度も「ピィ」「ピィ」と頷いている。
ひとしきりグリージョと話を終えたノーム様は、今度は私の方に向いて言った。
「リジー、よく聞いてくれ。ワシが今から、魔法でリジーを小さくする。リジーはグリージョと同じくらいの大きさになる。ただし、小さくいられるのは、だいたい3時間くらいじゃ。魔法の効力が切れると、元の大きさに戻るからな」
「はい、わかりました」
私が小さくなって移動するのか。
わぁ、ちょっと楽しそう!
ノーム様から小さくなると聞いて、途端にテンションが上がった。
確かに、グリージョはいつも我が家の地下室の穴から外へ出入りをしていた。グリージョに連れて行ってもらうなら、小さくないと行けないわ。
私が同意したのを見て、ノーム様が言った。
「それじゃ、さっそくワシの家まで移動しよう。ここは2階だから、まずは地下まで移動しないと、グリージョは自由に動けないからな」
ノーム様の言葉に、私はグリージョをもう一度ポケットに入れる。
そして、魔導士様にお礼を言って、ノーム様と一緒に魔導士様の部屋を出た。もちろんローランも一緒だ。
ノーム様の家に着くと、ノーム様は部屋の奥にぐいぐいと進んでいくので、ついていく。
ノーム様の家の奥にあるお部屋まで移動し、ドアを開けると、地下なのになぜか外に出た。
目の前には大きい根を縦横無尽に張り巡らせた大木の根元がある。薄暗いけれど、上を見上げれば、葉の隙間から太陽の光を感じられる。ただ、木があまりに大きくて空は分からない。
この大木の周りだけ外なんだ。
「すごい」
思わず声が出た。
「リジー、ここが地下世界への入り口じゃよ。グリージョを出して」
私が目の前の大木に圧倒されていると、ノーム様の声が聞こえた。
私は慌ててグリージョをポケットから出して、ノーム様に手渡す。
ノーム様はグリージョを大木の1つの根の上に置くと、私に言った。
「それじゃ、リジー。いまから小さくするぞ。いいかい?」
「はい、お願いします」
私は頷いた。ローランは何か言いたそうだったが、ぐっと我慢して黙って見守ってくれていた。
ノーム様が何か呪文を唱えると、私はみるみる小さくなった。
「うわぁ、リジー。かわいい」
私を覗き込んだローランの姿が巨人に見える。
ノーム様は、私を手のひらに乗せると、グリージョの横に置いた。
グリージョと並ぶと、ちょうど同じくらいの背丈だ。グリージョと目が合う。グリージョが3cmくらいだったから、私も同じ大きさになっているのだ。
ありがとうございました。