121.救出作戦
更新が遅れて、申し訳ありません。絶対に完結させますので、引き続きよろしくお願いします。
「魔導士様やノーム様が?」
私は、ローランから魔導士様の名前を聞いて、途端に懐かしくなった。
そして、魔導士様やノーム様が私ひとりに任せても大丈夫だ、と仰ったと聞いて、とてもうれしくなった。私のことを信頼してもらえている気がする。
ローランは心配してくれているけれど、私は信頼してもらえたことがうれしい。
それに、私は一人じゃない気がしていた。
前に、ウンディーネ様が私のことをいつも見守ってくれる、と言ってくださっていたし、きっとシルフ様だって、その辺で見守ってくれているだろう。
今回は国王陛下がノーム様や魔導士様にも相談してくださっていることだし、ノーム様や魔導士様も陰で見守ってくれているに違いない。
「ねぇ、ローラン。私、グリージョとヴィオラ様のところへ向かってみるわ。上手くいくかどうかは分からないけど。きっとノーム様も見守って下さっていると思うし」
私は努めて明るい声で言った。
「リジー。ダメだよ。相手は魔女なんだ! 何かあってからでは困るから」
ローランが強い口調で反対した。
ローランが私のことをとても心配してくれているのが、痛いほどよく分かる。
「うーん……」
ローランのことを思うと、これ以上「行きたい」と言えなくなってしまった。
それに、もし魔女と相対してしまったら、どうしたらいいか分からないし、怖い気持ちもある。
ヴィオラ様を連れ戻すどころか、私まで拘束されてしまうかもしれない。
さっきまで、怖いもの無しだった強気な私だが、ローランの一言で、一気に怖気付いた。
やっぱり怖い。
でも、どうしてそんな怖い場所に、ノーム様や魔導士様がが私一人で行ってもいいと仰ったのだろうか。
「……どうしてノーム様や魔導士様が、私一人でヴィオラ様を連れ戻しに行かせようと思ったのか、話を聞いてみたいわ」
私がそう言うと、ローランも同意した。
「そうだね。明日、王宮にきてくれる? 二人でアルフレッドのところへ行こう」
◇◇◇
翌日、ローランから指定があった時間に、私は王宮へ向かった。
王宮の端にある魔導士様の部屋を訪ねる。
いつぶりに来たのだろう。
魔導士様の部屋の扉を見ただけで、懐かしさがこみあげてきた。
ああ、毎日ここに来ていた頃が懐かしいな。
扉の前で思い出に浸っていると、勝手に扉が開いた。
魔導士様が扉の向こうから顔を出す。
「リジー、何をしているんだ? さぁ、早く入りなさい」
「はい。失礼いたします」
私は慌てて、魔導士様の部屋に入る。
「魔導士様は、私が部屋の前にいることを分かっていらしたのですか?」
魔導士様に促されソファに座りながらきくと、魔導士様は呆れたように答えた。
「当たり前だ。なかなか入ってこないから、部屋の入り方が分からないのかと思った」
さすが、魔導士様!
私が部屋の前にいることはお見通しだったんだ。
私が感心していると、ちょうどローランもやってきた。
ローランが私の隣りに座る。
魔導士様の弟子のロジェが、私たちにお茶を出してくれた。
ローランはそれを静かに見守り、ロジェが席を外したのを見届けてから、口を開いた。
「アルフレッド。単刀直入に聞く。ヴィオラ様が居る場所にリジーをひとりで行かせたほうがいい、と父上に進言したのはなぜだ?」
ローランの口調は厳しかった。
私はこんな厳しい口調のローランを初めて見たから、隣りでビクンとなってしまった。
恐る恐るローランの顔と魔導士様の顔を見てしまう。
でも、魔導士様は顔色ひとつ変えることなく、ローランをまっすぐ見て言った。
「タミアと話ができるのは、双子のハミアか、リジーしかいない」
「え?!」
思わず大きな声を出してしまった。
魔導士様とローランが私の方を見たので、慌てて口を閉じ、ソファに深く座り直した。
ローランが私の代わりに、魔導士様に尋ねた。
「なぜだ? なぜそう思う。 リジーは魔女と会ったことがない」
魔導士様は静かに答えた。
「それは、ローラン王子殿下にかけられていた呪いを解いたからです。タミアがかけた呪いは、タミアのことを理解している者しか解くことはできません。私やノーム様はいろいろ試しましたが、どうやっても王子殿下にかけられた呪いを解くことはできませんでした。王子殿下の胸に刻まれた刻印をどうしても消すことができなかったのです。それなのに、リジーはタミアの刻印を跡形もなく消すことができた。だから、リジーならタミアと話ができるでしょう。タミアはリジーが呪いを解いたことを知っています」
「なるほど」とローランは腕組みをしながら呟いた。
「あの……」
私は、魔導士様にきいてみた。
「魔導士様。それなら、ハミアさんのほうが私より適任なのではないでしょうか?」
魔導士様は苦笑いをしながら言った。
「確かにそれはそうかもしれないのだが、ハミアは我々には一切協力してくれない。……王子殿下の呪いを解くことができるのは、タミアの双子のハミアだけだと考えて、今まで何度もハミアにお願いしてきたのだが、毎回『私にはそんな力はない』と断られ続けてきたんだ」
「そうなんですね。……あの、私、少しだけハミアさんと仲良くなったので、無駄かもしれないですが、一応私からもハミアさんにお願いしてみたいのですが……」
私がそう言うと、魔導士様は静かに首を横に振った。
「残念ながら、ハミアは今この国にいない。ハミアは遍歴商人と共に過ごしていて、次にこの国にやってくるのは1年後だろう」
そうか。ハミアさんは、もうこの国にいないのか……。
とても残念だ。できればもう一度会って話したかった。
「そうですか。それなら仕方ないですね……」
私がうなだれると、魔導士様がローランに向かって言った。
「そういう理由で、ヴィオラ様を助けにタミアのもとへ向かうのは、リジーしかいません」
ローランは苦々しげに言った。
「魔女と話ができるのがリジーだということは理解した。でも、リジーが一人で行く必要はない! アルフレッドや騎士団がついていくのは、なぜダメなんだ?」
「それは……」魔導士様がじっと、ローランの目を見て言った。
「タミアを攻撃する意図は無いと伝えるためです。今回の目的はヴィオラ様を連れ戻すことですから」
ありがとうございました。