120.探偵ごっこ4
やっと120話まできました!
急に本業がバタバタしだしてしまい……、今後の更新は週1程度になりそうですが、
それでも、完結まで走り抜けたいと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします。
「はい、わかりました。お母様」
心配そうに私を見つめる母を安心させるため、私は笑顔でそう答えた。
母は私の言葉に少し安心したようだ。
「だめね。最近、話し過ぎちゃうのよ。本当に今の話は忘れてね。さぁ、今日はここまでにしましょう。リジー。楽しかったわ」
そう言うと母は立ち上がり、お茶会はお開きとなった。
でも、母の言う噂は、とても気になった。
ヴィオラ様が本当に魔女の娘だったら、監禁とか事件とかではないのかもしれない。
だけど、ローランたちの目の前で、ヴィオラ様が魔女にさらわれた、とローランは言っていた。
やっぱり母の話は、ただの噂なのだろうか。
ひとりで考えていると、頭が壊れそうだ。
ダメだ。ローランに相談してみよう。
そう思ってローランを呼びかけてみたが、あいにくローランとの通信は繋がらなかった。
ローランは一国の王子様だし、何かと忙しい。
いつも繋がるとは限らない。
しかも、ローランとは今日既に通信している。
一日に何度も連絡するのは、嫌われちゃう可能性だってある。
うわぁ、なんで私、何も考えないでローランにまた連絡しちゃったんだろう。
途端に恥ずかしくなった。
しつこかったかもしれないな……。
ヴィオラ様のことに夢中になりすぎて、ローランの気持ちを考えられていなかった。
はー。
何度も何度も深いため息を吐いた。ため息が出るたびに、落ち込んでいく。
ああ、やっちゃったかもしれないな……。
ローランに嫌われたら、どうしよう。
私が負のループに陥っているうちに、いつのまにか夕食の時間になった。
そして、いつの間にか夕食も食べ終えた。
今日の夕食が何だったか、どんな味だったかも覚えていない。
ローランにどう思われているのか、それだけで頭がいっぱいだった。
それでも、夕食後、グリージョにパンと水を与えることは忘れていなかった。
地下のいつもの場所で、呆然とグリージョの帰りを待つ。
グリージョは、ひょこっと現れた。
私はグリージョの姿を見ると、落ち込んでいた気分が少しだけ軽くなった。
グリージョは、私の気も知らず、パクパクとパンと水を食べる。
持ってきたパンを全て平らげると、いつものように探索のダイジェスト映像を私の脳内に投影してきた。
映像には、グリージョが昨日ハンカチを拾って来た部屋がまた映った。
昨日の探索の後、
「明日また教えてね」と私が言ったことを覚えてくれていたようだ。
そして、女性の姿が映る。徐々に顔に近づいた。
私にはその顔に見覚えがある。
「やっぱりヴィオラ様だ」
女性の顔を見て確信した。
部屋の中はヴィオラ様ひとりだけのようだ。
ヴィオラ様は黙ったまま椅子に座っているが、その表情からは感情が読み取れない。
特に嫌がっている素振りはみえないようだが、果たして……。
「これはどういう状況なんだろう?」
私の推理力では、まったく役に立たない。
ただ、これでヴィオラ様の行方がはっきりした。
ヴィオラ様の居場所は、我が家と王宮のちょうど真ん中くらいにある一軒家だ。
「グリージョ、今日もありがとうね。お疲れ様。また明日ね」
私はグリージョと別れて自室に戻る。
さきほど、イザベルとステイシーにヴィオラ様が行方不明だということを聞いたばかりなのに、さっそく渦中のヴィオラ様の居場所は分かったのだから、収穫は大きい。
むしろ、トントン拍子に進みすぎて、怖いくらいだ。
この後どう進めたらいいのかは、ローランと相談して決めよう。
でも、その前に、ローランに嫌われてなければいいけど……。
そう思いながら、顔を洗って体を拭いて、寝る支度をする。
支度を手伝ってくれているアンが心配そうにきいてきた。
「リジーお嬢様、どうされましたか? 何か怖い顔をされていますけど?」
「アン。ごめんね。ちょっと考え事をしていたの。今日は早いけど、もう寝るわ」
いつもなら、今から少しアンとストレッチをしたりするのだが、今日は断って部屋を出てもらった。
なんというか、気分がのらない。
こんな日は、さっさと寝るに限る。
私はベッドに潜った。
すると、ずっと気になっていた人の声が耳元で聞こえた。
「リジー。聞こえる? ローランだよ。連絡くれた?」
私はかぶっていた布団から慌てて飛び起きた。思わずベッドの上に正座する。
「ローラン? ごめんなさい。一日に2回も連絡してしまって……」
「ああ、それは全然気にしていないよ。何か用事があったんでしょ? こちらこそ、出られなくてごめんね。何の用事だった?」
ローランの声はとても優しい。
よかった。怒っていないようだ。
私はローランの声をきいて、やっと落ち着きを取り戻せた。
「ローラン。グリージョが、ヴィオラ様の行方を突き止めたの。ここからどうしたらいいのかしら?」
私がそう言うと、ローランが驚きの声をあげた。
「えええ!!! 本当に?」
「ええ。本当よ。グリージョの映像に映っていたのは、紛れもなくヴィオラ様だわ」
私の言葉の後、ローランからの反応が聞こえない。
「ローラン、聞こえる?」
心配になってそう言うと、ローランが「ああ、ごめん。あまりに驚いてしまって……」と言った。
それから、しばらくローランは考えた後、言った。
「リジー。凄いね。さすがだよ! まさか、こんなにすぐにヴィオラ様の行方が分かるなんて思わなかった。僕は、これから父上と相談するよ。僕もこの件では勝手に動けないから」
「うん。分かったわ。連絡待ってるね」
私はそう言って、ローランとの通信を終えた。
ローランから次に私に通信が届いたのは、それから2時間くらいたってからだ。
ベッドの中であれからずっと考えていて、なかなか寝付けずにいると、ローランの声が聞こえた。
「リジー。父上と話したんだけど、魔女がヴィオラ様をかくまっているから、第一騎士団が行っても太刀打ちできないんだ。それで、アルフレッドやノーム様に相談したんだけどね。アルフレッドもノーム様も、リジーならひとりでヴィオラ様のことを連れ帰れる、と言うんだよ。父上はそれを聞いて、リジーひとりで行ってほしい、と言っている。僕はそれには反対だ。そんな危ない目に、リジーを遭わせるわけにはいかないから」
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