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119.探偵ごっこ3

「あ、ごめん。リジー。もう行かなきゃいけないから、切るね。また後で連絡する」


 ローランはそう言うと、慌ただしく通話を切った。


 私が前触れなしに連絡したので、話せただけでありがたい。

 

 それにしても、まさかヴィオラ様が魔女にさらわれていたなんて……。

 魔女の行方を探すより、ヴィオラ様の行方を探す方が先じゃない?


 そう考えていると、突然閃光のように思い出した。


 あれって、もしかして!


 私は、机の引き出しを開ける。


 引き出しの中には、昨日グリージョが探索途中に拾ってきたハンカチをしまっていた。


 ハンカチを取り出して、広げてみる。


 イニシャル『V.N』と刺繍されている。


 やっぱり『ヴィオラ・ナディエディータ』のイニシャルと一致する。


 昨日グリージョが見せてくれた映像にうつっていた女性は、もしかしてヴィオラ様なのかも?!


 そう思うと、居ても立っても居られなくなった。


 でも、私はヴィオラ様のお顔をはっきり覚えていない。うろ覚えだ。

 しかも、グリージョの映像には肝心のお顔が映っていなかった。


 あの女性がヴィオラ様だという確証はどこにもない。


 このハンカチがヴィオラ様のものだというのも、イニシャルが一緒なだけでは証拠として弱い。同じイニシャルの人はいっぱいいる。


 結局、どうすることもできない。


 うーん。ヴィオラ様に近付いている気がするけど……。


 何もできないのはもどかしいので、母なら何か知ってるかもしれない、と母の部屋を訪ねた。


 母は部屋で刺繍をしていたが、私が「話したい」と声をかけると「刺繍はいつでも出来るから」と快くこたえてくれた。

 そして、母の提案で、中庭でお茶を飲みながら話をすることになった。


 アンたちが、素早くお茶会の用意をしてくれる。

 私と母は中庭のテーブルセットに座った。


 我が家の中庭はそれほど大きくないが、植木屋さんが優秀なので季節の花が途絶えることはない。

 外の風に当たりながら、綺麗に咲いたそれらの花を眺めてお茶を飲むのもいい気分だ。

 よく考えたら、今日はまだ一度も外に出ていなかった。


「お母様、外でこうしてお茶を頂くのもいいですね。私、領地にいた頃は毎日レオと外を走り回っていましたのに、そんなこともすっかり忘れて、王都に戻ってからはほとんど家の中で過ごしていました」


「ここは領地ほど自然豊かではないけれど、この中庭にいると花の良い香りに包まれて都会にいることを忘れさせてくれるでしょ。だから私は、ここでお茶をいただくのが大好きなのよ。天気がよければ、毎日こうしたいわ。……それで、リジーは私に何を聞きたいの?」


 母はにっこりと微笑んだ。

 母の優しい笑顔には、何でも話しやすい雰囲気がある。

 私は早速聞いてみた。


「国王陛下の側妃のヴィオラ様のことです。私はほとんど存じ上げないので、お母様に教えていただきたくて」


「ヴィオラ様のことね。私も詳しくは存じないけれど……」

 母は、少し考えてから言った。


「国王陛下とヴィオラ様がご結婚なさった時のことは、今でもはっきりと覚えているわ。本当に衝撃でしたもの! それまで、まったく噂もなかったし、国王陛下はもうこれ以上のご結婚はなさらないと皆勝手に思っていたと思うわ。だって、国王陛下には、正妃のレティシア様に加えて、コレット様とメラニー様という二人の側妃が既にいらっしゃったし、お子様だって、その時点で14人もいらっしゃったから」


 私が何度も頷くのを見て、母は話を続けた。


「我が国は一夫一妻が原則でしょ。国王陛下が一夫多妻制を始められたけれど、私たちは一夫多妻制のことをそもそもよく分からないじゃない? 3人めのメラニー様とのご結婚のときだって、ずいぶん驚いたものよ。いったい国王陛下は何人娶られるのかしらって。正妃のレティシア様のお気持ちも心配だったわ。お気を悪くされるんじゃないかと思ってね。つまり、ヴィオラ様がどうこうと言うのではなくて、国民が一夫多妻に慣れていないから、国王陛下がお妃様を増やされるたびに、衝撃だったの」


「はい。その気持ちはよく分かります」


「ただ、3人目のメラニー様までは、国王陛下はそれほど期間をあけずに立て続けにご結婚なさったのよ。それにご婚約期間もあったから、その間に国民も受け入れていくのよね。だけど、メラニー様とご結婚なさった後はご婚約者もいらっしゃらないし、私たちは勝手に、国王陛下のご結婚はもうこれで終わりなんだ、と思ってしまったの。そうしたら、ご婚約期間も無く、いきなり国王陛下がヴィオラ様とご結婚なさると発表があったのよ。しかも、その時、既にヴィオラ様のお腹にお子様がいらっしゃると発表があったものだから、当時は噂の的だったわ。もちろん国王陛下のことですから、誰も大っぴらには悪く言わないけれど、皆興味津々で、私の耳にも様々な噂が入ってきたわ」


「それは、お相手のヴィオラ様がどんな方なのか、と噂になったんですか」


「そうね」


「例えば、どんな噂があったのですか?」


 母は、ピンクや白、紫に咲くシャクナゲの花々に視線を移し、しばらく黙った後に、答えた。


「ヴィオラ様が魔女の娘だという噂よ。その真偽は不明だし、誰がそんなことを言い始めたのかも分からない。まことしやかに、そんな噂が流れて、そしていつの間にか、その噂は消えていったわ。今では誰もそんなことは言わないもの。皆そんな噂があったことも忘れているんじゃないかしら。本当にどうしてそのような噂が流れたのかしらね。今では、誰もそんな噂は信じていないけれど、確かに当時はそのような噂が流れたの。不思議ね」


 母はそう言うと、私の顔を見て、にっこりと笑った。

 私は想像もしなかった母の話に、驚きすぎて言葉が出ない。


「……ヴィオラ様に、そ、そんな噂があったのですね」


 私はなんとか声を振り絞って言った。


 ヴィオラ様が魔女の娘? まさか……。


 私が真顔で考え込んでいると、母は「本気にしちゃダメよ。誰かが僻んで言ったことだと思うから」と釘をさした。


「ヴィオラ様は大変公務に精力的だし、今では国王陛下にとっても、我が国にとっても、なくてはならない方よ。ご結婚当初は心ない噂で随分ご苦労されたと思うけど、もうそんな噂を聞く事もなくなっていたのに、余計な事をリジーに話してしまったと反省しているわ。リジー。私が今話したことは忘れてくれるかしら」


ありがとうございました。

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