118.探偵ごっこ2
「ふぅん。まぁ、どっちでもいいけどね……」
シルフ様は笑いながら、ソファに座った。
私も慌てて、シルフ様の向かいに座る。
「あれ? リジー。そんなイヤリングしてたっけ? かわいいわね」
シルフ様が立ち上がって、私のイヤリングを見た。
「これは、ダンスの先生に頂いたものです。……それより、シルフ様。ありがとうございました。シルフ様は私のも透明にしてくださったんですね」
私はそう言いながら、右耳に装着しているハマグリみたいな装置を指さした。
ローランとの通信装置をシルフ様が透明にしてくれたおかげで、母たちにも見つからずに済んだのだ。
そうでなければ、イヤリングを見せた時、母になんて説明したらいいのか、分からなかった。
私がシルフ様にお礼を伝えると、シルフ様はニヤニヤと笑いながら、独り言のようにつぶやいた。
「リジーってさ、本当に変わったものを手に入れる才能があるよね」
私にはシルフ様が呟いている言葉の意味が分からない。
きょとんとしていると、シルフ様が言った。
「私はね、リジーにあげた通信装置を透明にはしてないよ。透明にしたのは、ローランだけ。リジーのは髪の毛で隠れるからいいかな、と思って、何もしなかったじゃない? 覚えてないの?」
「まぁ、あの時は確かに……。いや、シルフ様。でも今、実際透明になっていますよ」
私は髪の毛をかき分けて、シルフ様に右耳を見せつける。
すると、シルフ様はアハハと笑った。
「大丈夫よ。リジー。見せてくれなくても、透明になっているのは分かるから」
ん? どういうこと?
私がとまどっていると、シルフ様が言った。
「だから、私が透明にしたんじゃないの。透明にしたのは、そのイヤリングよ!」
「は?」
私はすぐに鏡台の前に移動し、鏡に映る自分のイヤリングを確認した。
イヤリングは私の両耳で揺れ、ラズベリー色の石が輝いている。
シルフ様もいつの間にか鏡台の前に移動してきた。私の後ろに立っている。
そして鏡に映る私に向かって言った。
「このイヤリングに付いている石は、とても珍しい石よ。この国では採れないわ。マロッキオという山でしか採れない石よ。マロッキオ山は秘境だから、人間たちは足を踏み入れない場所だし、ほぼ出回ることもない石。だから、リジーがつけていて、びっくりしたわ。なんて珍しいものを持っているの! さすがね! ……この石は、暗視の効果があるのよ」
「マロッキオ山……。暗視……」
「暗視っていうのは、暗い場所でもその石を身に着けていれば、周りを見ることが出来る効果のことよ。真っ暗な場所にそのイヤリングをつけて、行ってみれば分かるわ」
すごい。
そんなに凄い石だったとは……。
私は思わず、鏡に映るイヤリングをじっと見た。
ダンスの先生も、この石はこの国では採れないと言っていた。だから珍しい石だということは分かっていたけれど、暗視の効果があるなんて。
「あ、でも、暗視の効果があるということは分かったのですが、それと透明になったのは、どう関係あるのですか?」
私がシルフ様に尋ねると、シルフ様は私の右耳の通信装置をポンポンと触りながら言った。
「ああ。私があげた通信装置に使われている成分が、イヤリングの石と反応したのよ。それで透明に見えるの」
「へぇ、そんなことがあるんですね……」
私は、右耳を鏡に映して、確認する。
「イヤリングを外せば、また、この装置は見えるようになるのですか?」
私がそう言って、背後に立っているシルフ様の方へ振り返った。
「そうよ。ただ、外してもしばらくは透明化の効果が持続していると思うから見えないけど、効果が完全に消えてしまえば見えるわよ」
「そうなんですね。試してみます。……もしかして、この装置に使っている成分と同じ成分で出来た服を着たら、私も透明になれちゃうんですか?」
シルフ様は、また、ニヤリと笑って言った。
「そうね。なれるわ。……リジー、もしかして、また何か悪いこと企んでるの?」
「またって、なんですか? ひどいです。悪いことなんて、今まで一度も企んだことありませんから!」
私がシルフ様をじろりと睨むと、シルフ様は二、三歩、後ずさりをした。
「あれ? そうだっけ? ごめんごめん。リジーをいじめるとウンディーネたちに怒られるから退散するわー。リジーが元気そうでよかった! また遊びにくるね!」
そう言うと、シルフ様はあっという間に目の前からいなくなった。
「もう! なんなの? シルフ様って……」
シルフ様に文句を言いたい気持ちが残っているのに、部屋に一人置いてきぼりにされて、ちょっと消化不良な気分だ。
「あーもう!」
鏡に映る自分に向かって、パンチをしてみた。
それだけで、なんだかスッキリしたので、気持ちを切り替える。
「えっと……。私、何をしようと思ってたんだっけ。……そうだ! ローランに連絡をしようと思ってたんだ……」
シルフ様がいきなりやってきて、大事な用事をすっかり忘れてしまっていた。
私は、もう一度ソファに座ると、右耳の装置に意識を集中させ「ローラン、ローラン」と呼びかけた。
「リジー、どうしたの?」
右耳からローランの声が聞こえる。
「ローラン、今話せる?」
「大丈夫だよ。どうしたの?」
ローランの優しい声に安堵する。ローランの声は癒し効果が高い。
私は、先ほどイザベルとステイシーから聞いた話をローランに伝えた。
「……ということなんだけど、ローランはヴィオラ様が行方不明なことについて、何か知っている?」
ローランは私の長い話を黙って聞いた後、息を呑んだ。
そしてしばらく沈黙した後、ローランが口を開いた。
「ヴィオラ様は確かに行方不明なんだ。でも、まさか、女官たちにそんなに知れ渡っているとは思わなかったな……。きっと父上も、皆がそんな風に噂しているなんて知らないだろう。王族のトップシークレットだからね。だから、今リジーから聞いて驚いたよ」
「どうしてトップシークレットなの? 行方不明なら、皆で探した方がいいんじゃない?」
「父上や僕たちの目の前で魔女がヴィオラ様を攫って行ったんだよ。派手な行動をしたら、ヴィオラ様の命はないって魔女が脅したんだ。だから、その場にいた全員に緘口令が敷かれたんだよ」
ありがとうございました。