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117.探偵ごっこ

 映像には、どこかの部屋が映り、その部屋に落ちているハンカチをグリージョが拾うところが映った。

 遠方には女性らしき人が椅子に座っている様子も映っているが、映像が遠くて、はっきりと分からない。

 このハンカチはその女性のものなのだろうか。


「グリージョ。もしかして、このハンカチはタミアさんに関係あるの?」


 グリージョは「ピィ」と言ったが、それは「はい」なのか「いいえ」なのか分からない。

 でも、これ以上、グリージョとどう会話をしていけばいいのかも分からないので、自分の部屋に戻ることにした。

 あまり長い時間、ひとりで部屋を離れると、皆に心配されてしまう。


「グリージョ。よく分からないけれど、明日、また教えてね」


 私は、グリージョから渡されたハンカチをポケットにしまって、自分の部屋に戻った。


 ◇◇◇


 翌日の午後、母と妹とお茶を飲みながら歓談していると、イザベルとステイシーが家にやって来た。

 休憩時間に、王宮を抜け出して、わざわざ来てくれたらしい。

 私は二人を自分の部屋に通した。


「どうしたの?」


 王宮を抜けてやって来るなんて、よっぽどのことだ。

 きっと、昨日の話に関することなのだろう。


 部屋の鍵を閉めて、誰にも聞かれないように注意する。


 ステイシーが口を開いた。


「リジー。あれから、イザベルとヴィオラ様について調べたのよ。そしたら、ヴィオラ様の姿をこの1ヶ月くらい誰も見ていないらしいの。最初はご病気で寝込まれているという話だったけど、どうやらお部屋にもいらっしゃらないらしくて、女官たちの噂では行方不明なんじゃないか、ということなのよ」


「ええ? 行方不明って、どういうこと?」


 イザベルが言った。


「私たちのように、ヴィオラ様を最近お見かけしないことが気になっている女官が結構いたわ。だから、ヴィオラ様のことを尋ねたら、いろんなことが分かったのよ。……ひとりの女官から聞いたのだけど、その人はヴィオラ様にどうしてもお話があったらしくて、ヴィオラ様の行方を捜していたらしいの。だけれど、誰に聞いても誰も何も言ってくれないから、とうとうお部屋にこっそり忍び込んだんですって! どうやったのかは分からないんだけどね。……そしたら、お部屋は、もぬけの殻だったんですって」


「こっそり忍び込むって凄いわね! だけど、もぬけの殻って、どういうことかしら?」


 私の質問に、ステイシーが答えた。


「ヴィオラ様のお部屋は、いつもアロマの香りがするのよ。ヴィオラ様はお休みになるときに、必ずアロマランプをお使いになられるからね。それが、部屋に忍び込んだ女官の話では、一切アロマの香りはしなかったんだそうよ。……ということは、少なくともその前日は、ヴィオラ様はご自分のお部屋でお休みになっていないということじゃない?」


「確かに、そうね」


「だから、どなたか別の王族の方のお部屋でお休みになられたのかもと思って、いろいろと聞き込みをしたらしいのよ」


「凄い行動力ね!」


 どなたかは知らないが、その女官の行動力がすごい。よっぽど、ヴィオラ様に大切なお話があったに違いない。


 私が感心していると、ステイシーが続けた。


「だけど、王宮のどのお部屋にもヴィオラ様がお休みになられた形跡がなかったらしいの。だから、その女官は、ヴィオラ様がこの王宮から失踪したのは間違いない、と話していたわ。誰に聞いても、うやむやにされるらしいけど、確信していたわね」


「二人はどう思うの? ヴィオラ様は行方不明になっていると思う?」


 私がイザベルとステイシーに尋ねると、二人とも大きく「うん」と頷いた。

 そして、ステイシーが小声で言った。


「だってね、女官の皆にヴィオラ様のことをこっそりと尋ねると、次から次へと不審な点が出てくるのに、私が担当しているローズ王女殿下に尋ねたら『ヴィオラ様はご病気でご自分のお部屋でお休みだ』と仰るのよ。絶対に何か隠しているわ」


 イザベルも言った。


「きっと私達には隠さないといけないことがあるから、王族の皆様は隠していらっしゃるのだと思うけど、リジーなら、もしかしたらローラン王子殿下が教えてくださるかもしれないわ。ローラン王子殿下にヴィオラ様のことを聞いてみてほしいの。……私、もともとは、ヴィオラ様のことを聞くことがリジーの婚約にうまく繋がればいいわ、と軽い気持ちで調べていたのだけれど、調べていくうちにどんどん怖くなってきたの。ヴィオラ様は何か事件に巻き込まれているような気がしてならないわ。だから、ヴィオラ様のことが心配で心配で……」


「分かったわ。イザベル、ステイシー、ありがとう。ローランに訊いてみる。そして、また何か分かったことがあれば報告するね」


 私がそう言うと、イザベルとステイシーは安どの表情になった。

 二人は休憩時間に王宮を抜けてきているので、我が家に長居するわけにはいかない。

 そこまで話をすると、馬車で王宮へと戻って行った。


 一人になった私は、ローランと相談するために、今二人から聞いた話を頭の中で整理してみた。

 イザベルとステイシーは、とても深刻そうな顔をしていたから、ヴィオラ様の身に何か良くないことが起こっているのは、きっと間違いないのだろう。

 「私の婚約のために」と思って気軽な気持ちで始めた探偵ごっこが、結構ヤバそうで焦っている、という状況が見て取れた。


 女官たちの噂や勘はバカにできない。

 ヴィオラ様の身には、きっと何か良くないことが起こっている。

 でも行方不明って、いったいどこへ?


 そう思いながら、ベッドの上にごろんと転がったとき、ビュンと強い風が吹いた。

 スカートが重力に逆らって、ふわりと空中になびく。


「リジー、昼間っからベッドで寝て、いい御身分ね」


 聞き慣れた声が聞こえて、声のする方に向くと、ベッドのわきにシルフ様が立って、私のことを見下ろしていた。


 私はベッドから急いで起き上がる。


「シルフ様! どうしたんですか?」


「どうしたって? 特に何も無いわよ。ただ、リジーの様子を見に来ただけ。……でも、お昼からベッドに寝転がっているとは思わなかったわ」


 シルフ様はそう言うと、アハハと笑い出した。


「違います。ちょっとベッドで考え事をしていただけですから!」

 

 私は必死で弁解したが、シルフ様は聞いていなかった。

ありがとうございました。

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