表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/134

116.ダンスの先生2

「そうでしたか。……ああ、それなら、もしよろしければ、こちらをお使いになられませんか? グラヴィエ国特産の石がついたイヤリングだそうです。この石は、ナディエディータ王国では採れないそうですよ。他の物を購入したときに『おまけ』に頂いたのですが、私はイヤリングは使わないものですから」


 トニー先生の大きな手のひらにのせた1組のイヤリングを私と母が二人で覗き込んだ。


 確かに、この石はあまり見たことがないかもしれない。

 ラズベリー色の美しい色合いだ。

 でも、ピンクサファイアに似ているような気もするけど……。

 実は私は青色や緑色の宝石が好きなので、こういう赤っぽい宝石はあまり持っていないし、よく分からない。

 母なら赤い宝石もよく身につけるし、こういう時は黙って母に任せるに限る。


 そう思って母の顔を見ると、母が口を開いた。


「初めて見る石ですわ。グラヴィエ国ではよく採れるのかしら」


「この石は、レアストーンだそうです。宝石として使える石は滅多に採れないとジャルジさんが仰っていました」


「まぁ、そんな貴重なものをいただくわけにはいきませんわ」


 母がやんわりとお断りをすると、トニー先生は笑って言った。


「貴重かもしれませんが、先ほども申し上げたとおり、私はイヤリングをしませんので、私が持っていても宝の持ち腐れなんですよ。ですから、使っていただける方にお譲りしたいのです」


「そうですか。それなら、ありがたく頂戴いたしますわ。このデザインだと、私よりリジーのほうが似合うわね。リジーが使わせてもらったらどうかと思うのだけど」


 母はそう言うと、私の顔を見た。


「ありがとうございます。ぜひお譲りいただきたいです」


 私がそう答えると、トニー先生はにっこりと微笑んで、イヤリングを手渡してくれた。私は早速耳につけてみる。


「リジー、とても似合うわ!」

「本当にお似合いです」


 母もトニー先生も褒めてくれる。


 その時、ふと気づいた。

 そういえば、私の右耳にはシルフ様に貰ったハマグリみたいな通話装置が付いているはずだ。

 イヤリングを見せた時に、母やトニー先生に耳を見られたはずだが、二人は何の反応もしなかった。

 さすがに気づかないはずはないのだが、二人が何も言わないので、私も黙ってそっと右耳を髪で隠す。

 それから、右耳を触ってハマグリみたいな装置がついていることを確認した。

 

 母とトニー先生はすっかり別の話題に移っている。

 私は二人が話すのを聞いて、時折相槌を打った。

 二人が話していた内容は全然頭に入らなかった。

 早く自分の部屋に戻って、右耳がどういう風になっているのか鏡で確認したかった。


 トニー先生はしばらく母と歓談した後、帰って行った。

 先生が帰るとすぐに、私は自分の部屋へと駆け込み、鏡台の前に立った。


 髪の毛を後ろで束ねて、鏡に右耳を映す。


「あら? ないわ!」


 鏡で見てみると、あのハマグリみたいな装置は見えなかった。ただ、赤い石が付いたイヤリングがゆらゆらと揺れているだけだ。

 でも、手で耳を触ると、確かにそこにハマグリみたいな装置があるのを感じた。


「ん? どういうこと?」


 私は、シルフ様にこれを貰った時のことを思い出した。


 あ! もしかして……。

 シルフ様は、私のハマグリみたいな装置を透明にしてくれたのかもしれない。

 だって、ローランのを「みんなに見えないように」と透明にしていたから。

 

 そう思うと、しっくりきた。


 さすが、シルフ様。

 私は髪の毛が長いから耳を隠せるし問題ない、と思っていたけれど、こうやっていつ何時、耳を出すときがくるか分からない。

 シルフ様は、そんなこともすっかりお見通しで、私の装置もいつの間にか透明にしてくれたに違いない。


 これなら、安心して耳を出すことができる。

 トニー先生は、週3日、私にダンスを教えてくれる。先生にせっかくいただいたのだから、習っている間は出来る限り、このイヤリングを付けるようにしよう。

 

 それに、このイヤリングに付いている石は、ジャルジさんやハミアさんの出身地でしか採れない貴重な石だ。

 ジャルジさんやハミアさんのことも身近に感じられる石だから、なおさら身につけていたいと思ったので、ハマグリみたいな装置が透明で本当によかった。


 ◇◇◇


 その日の夜、夕食を終えた後に地下室で待つと、ちゃんとグリージョが帰って来た。

 グリージョは、王宮から地下を探索して、見事、時間通りにうちに帰ってこれたのだ。

 

 これって、なかなかすごい能力だと思う。

 

「グリージョ、えらいね。ちゃんと帰ってこれて、本当に凄いよ!」


 私が褒めると、グリージョは得意げに「ピィ」と言った。

 それから、グリージョに夕食のパンと水をあげる。

 グリージョは勢いよく食事をとった。長距離の探索で、随分お腹が空いていたようだ。


 食事がひと段落すると、いつものように、グリージョは探索の様子をダイジェスト映像で見せてくれた。

 

 この映像編集能力も大したものだ。探索の距離が長かったはずなのに、ダイジェスト映像は10分程度にまとまっている。

 前世なら立派なYouTuberになれるよ。


 私は感心しながら、映像を確認した。


 残念ながら、映像にはハミアさんに似た人は見つけられなかったが、王都は広い。そのうち、辿り着くだろう。


 映像が終わったので自室に戻ろうとすると、グリージョが「ピィ」と私を呼び止めた。


「ん? どうしたの?」


 グリージョは、お腹の辺りを手でゴソゴソと触る。

 よく見ると、真っ黒なお腹にポケットがある。

 そこから、女性もののハンカチを出した。


 グリージョのお腹は小さいのに、そこのポケットに、こんな大きな女性もののハンカチをどうやってしまっていたのだろうか。


 グリージョのお腹のポケットは、四次元ポケットなの?

 

 まるで手品をみているようだ。

 何もないところからハンカチが出てきたように見えた。


 色々気になることも多いが、とりあえず、その女性もののハンカチを広げてみる。

 レースで縁取られた高級そうな花柄のハンカチだ。

 『V.N』とイニシャルが刺繍されている。


 グリージョは「ピィ」と言いながら、また映像を見せてきた。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ