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113.友達2

「フェレール公爵! それはすごいわ!! 将来は安泰ね」


「家柄は素晴らしいし、しかもとてもハンサムなのよ。あんなに素敵な方をご紹介されたのも、王宮での働きぶりを認められたからよね。女官として、本当にシモーヌは素晴らしかったわ」


 ステイシーがそう言ったのを聞いて、私は大きく頷いた。


 私もローランと婚約していたときに、シモーヌが女官として付いてくれたことがあった。

 ステイシーの言うとおり、女官としてシモーヌは本当に素晴らしい働きぶりだった。

 私の目指していた女官像を体現していた。

 だから、そんなステイシーに良い縁談が決まったと聞けて、本当に誇らしい。


「シモーヌの結婚式は是非参加したいわ!」


 私が目を輝かせていると、ステイシーが話題を変えた。


「ねぇ、リジーはどうなの?」


「へ? 私?」


 ステイシーの質問の意図が分からない。

 私が黙って考えていると、ステイシーが語気を強めた。

 

「とぼけてもダメよ! 今回、このような場をローラン王子殿下がご用意してくださるなんて、いったいどういうことかしら!」


「あ……」


 ステイシーは、私とローランが連絡を取り合っていたことを言ってほしいのだろう。

 どう説明しようかな。

 言えることと言えないことがあるしなぁ……。


 私が黙ったまま逡巡していると、ステイシーが先ほどとは声のトーンをがらりと変えて、とても優しい口調で言った。


「婚約が不成立となった後もリジーはちゃんとローラン王子殿下と繋がっていたのね。よかったわ。本当に心配していたのよ」


 イザベルが続けた。


「リジーがローラン王子殿下とまだ連絡を取っていたなんてとても驚いたけど、でも、ステイシーの言う通り、本当によかったわ。リジーが落ち込んでいるんじゃないかと、二人で心配していたから」


 ステイシーもイザベルも、なんて優しいんだ。本気で私のことを心配してくれていたことが言葉の端々から伝わってくる。


 ローランと婚約していた時、私がローランにベタ惚れだったのを二人はよく知っている。

 だからこそ、私の婚約不成立に心を痛めてくれたのだろう。


「二人とも、ありがとう!」


 私は心からのお礼を二人に言った後、当時の心情を思い出しながら言った。


「婚約が不成立となった当初は、いったい何が自分に起こっているのか、全然分からなかったわ。だって、ローランとは、このまま結婚できると信じきっていたもの。それ以外の道があるなんて思いもしなかったから」


 ステイシーもイザベルも頷きながら、私の話を聞いてくれている。私は続けた。


「二人とも覚えていると思うけど、あの日突然、私は家に帰らされて、それからは王宮に立ち入ることも出来ないし、私の言い分を聞いてもらえるような機会もない。近所の人たちにもいろいろ噂される。突然どん底に突き落とされたようなものよ……。今思えば、病んでしまう寸前のところだったと思う。だから、私のことを心配した両親が、私を田舎の領地に送ってくれたの。我が家の領地は、王都とは違って自然が豊かでね、まったく人と会うことがないから。おかげで、徐々に自分を取り戻していったわ」


 イザベルが言った。


「王都から離れられたのがよかったのね。あのまま王都にいたら、リジーは壊れてしまっていたのかしら」


 私はイザベルに同意した。


「そうだと思うわ。あのね、領地にはすごくきれいな湖があるの。二人にも見せたいわ。その湖畔にぼぅっと立って湖を見ているだけで、嫌なこととか吹き飛んでいくんだから」


 ステイシーがのってきた。


「そうなの? そんな素敵なところは、是非行ってみたいわ。私、湖ってまだ見たことがないから」


 私はステイシーに向かって微笑んでから、先ほどの話の続きを言いかけた。


「えっと、それで、ローラン王子殿下との再会なんだけど……」


 そこまで言うと、ステイシーとイザベルが身を乗り出してきた。私は圧倒されて、思わずのけ反りながら続けた。


「ナディエディータ王国が隣りのアヌトン王国と戦争をしていたのは知っている? ……私が居た場所は、アヌトン王国の国境に近いのよ。それで、その戦争にはローランが参加していたの。戦場に向かう途中の中継地として、我が家にローランが宿泊したのよ。でも、まだその時は戦争をする前で、確か偵察とか情報収集とか、そういうのをするためにローランは国境の町へ向かっていたらしいんだけどね」


 二人は真剣に私の話を聞いていた。

 私が話を終えると、まずイザベルが口を開いた。


「私、戦争をしていたのは知っているわ。その戦争に、ローラン王子殿下が大将として参加されていたことも覚えている。だって、王宮で立派な戦勝会が開かれたもの。……でも、戦場がリジーの居た場所の近くだったのは知らなかったわ」


 ステイシーも言った。


「それなら、ここからは随分離れた場所なのね。リジーが居た場所は……」


 私は二人の顔を見ながら言った。


「私の居た場所は、ここから馬車で丸3日かかるわ。だから、王都の話はまったく届かないの。そんな場所に、ローランは、騎士をたった2人だけ連れて、やって来たのよ。……そうだ! ちょうどローランが来たときは、私の両親も領地にいたのよ。だから、ローランが来るという話も、最初は父に伝えられたのよね。両親はその話を聞いたとき、当たり前だけど、とても驚いていたわ。そして、すごく私に気を遣ってくれたの。もし、顔を合わせたくなければ、避難させてあげる、って言われて。でも、私はローランのことが大好きだから、うれしかったんだけどね。本当に1日たりとも、ローランのことを忘れた日はなかったわ」


 二人は時折相槌を打ちながら、私の話に耳を傾けてくれる。私は続けた。


「ローランと再会できると聞いたときは本当にうれしかったけど、でも、よく考えると、ローランは戦争の準備で来るのよ。遊びでも旅行でもない。戦争よ! だからだんだん心配になってきて、複雑だったわ」


「そりゃそうね。自分の好きな人が戦争に行くなんて聞いちゃったら怖いよね」


 イザベルが同意してくれる。私はイザベルのほうを向いて、大きく頷いた。


 すると、ステイシーが話題を変えてきた。


「でも、よかったわ。リジーがローラン王子殿下のことをまだ好きで。だって、ローラン王子殿下は今もリジーのこと、好きよ! 私たちとこうして会う機会を作ってくださるぐらい」


ありがとうございました。

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