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112.友達

 しばらくして、イザベルとステイシーが入ってきた。


「リジー!」

 ステイシーが駆け寄って来る。

 私もステイシーに向かって走った。

「ステイシー!」


 私とステイシーががしっと抱き合うと、イザベルが優しく二人を包んでくれた。

 相手の体温を確かめるように、そのまましばらく三人で抱き合う。


 それからゆっくりとステイシーが起き上がり、イザベルも離れた。

 ステイシーが私の顔をじっと見る。


「リジー、元気そうでよかったわ! 突然いなくなっちゃうから、お別れもちゃんと言えなくて寂しかった……。ずっと気になってたんだから!」


 そう言いながら、両手をグーにして、ステイシーがポカポカと私の胸を叩きだした。


「ステイシー。痛いよ。ごめんね。私だって、ちゃんとお別れの挨拶したかったんだけど……。まさか会えなくなるなんて思わなかったから」


 私がそう言うと、「わかってる。わかってたよ」とステイシーが言った。


 イザベルが私たちの顔を見ながら、優しく声をかけてくれた。


「せっかくだから、座って話そう。私がお茶を淹れるわ」


 私とステイシーは大人しくイザベルにしたがって、ソファに座る。その間に、イザベルはてきぱきとお茶の用意をした。


 ステイシーが私に話しかけてきた。


「リジーはさっきイザベルと話しているんだよね。イザベルに聞いたかどうか分からないけど、リジーが居ない間に、王宮ではいろいろあったわよ。たとえば、リジーがいなくなってすぐ、アレクシア様とひと悶着あったことは聞いた?」


「アレクシア様?」


「リジー、覚えてないの? ほら、ローラン王子殿下と許嫁だとおっしゃっていたお嬢様よ。リジーの婚約が不成立となったのは、自分とローラン王子殿下の婚約のためだ、と信じていらしてて、あれから連日、ローラン王子殿下のもとへいらっしゃったわ」


「へぇー」


 アレクシア様のことは私もよく覚えている。

 まだローランと婚約していたときに、王宮の食堂でいちゃもんを言われた記憶がある。

 その時は、確かアレクシア様は外国から帰国されたばかりだったような……。


 私が記憶を思い出しながら、目を丸くしていると、ステイシーは興奮気味に続けた。


「本当に大変だったわよ。いくらローラン王子殿下がお断りされても全然諦めなくて、連日王宮にこられるものだから、対応するのも一苦労だったわ。ねぇ、イザベル」


「そうね」


 イザベルはステイシーに同意しながら、ステイシーの隣りに座った。

 目の前に置かれたティーカップからは、イザベルが淹れてくれたお茶のいい香りがする。

 私は、そのお茶を一口飲んでからきいた。


「それで、その後どうなったの?」


「確か1ヶ月くらい王宮に押しかけてこられたんじゃない?」


「そうそう、アレクシア様の執念を感じたわ」


「最後は国王陛下が侯爵に直接お話をされたという噂よね」


 イザベルとステイシーが声を揃えて言った。


「そんなことがあったんだ」


 そんなことがあったとは、ローランからも聞かなかったな。

 まぁ、私に聞かせる話でもない、と気を遣ってくれたのだろう。


 でも、ローランがアレクシア様を断って、婚約しないでいてくれたと聞くのはうれしい。

 思わず顔がほころんでしまう。


 そう思っていると、またステイシーが口を開いた。


「ローラン王子殿下とアレクシア様の話は、まぁそれだけなんだけど……、もっとショックだったのが、ローラン王子殿下以外の王子様全員が婚約されてしまったことよ。すごくショックだわ!」


「ああ、それは私も聞いたわよ」


 私がそう言うと、ステイシーは続けた。


「私はね、アラン王子殿下を密かにお慕いしていたのに……。アラン王子殿下のご婚約の話を聞いてしばらくは、ご飯も喉が通らなかったわ!」


 それから、ステイシーは大袈裟におでこをテーブルにコツンとぶつけて動かなくなった。落ち込んだフリをアピールしているのだろう。


「ん? ステイシーはアラン王子殿下のことをそこまで慕っていたっけ?」


 私はステイシーの落ち込んだ様子に驚いて、思わず聞き返す。


「王宮でお仕えしているうちに、アラン王子殿下と接する機会も徐々に増えたんだけど、どんなときでも完璧なのよ。アラン王子殿下は、ミスターパーフェクト! いつでも優しいし、そして、いつでも甘くていい香りがするの。とにかくアラン王子殿下が、王族の中で一番紳士よね。お会いするたびにどんどん好きになってしまったわ。今ではすっかり底なし沼のように、アラン王子殿下をお慕いしているのに、婚約だなんて切なすぎる。アラン王子殿下は皆のものだったのに……」


 うわ……。ステイシーのアラン王子殿下への愛情が思いのほか重い……。

 そんなに好きなんだ……。


 すると、イザベルも大きく頷いて言った。


「そうね。女官の中でもアラン王子殿下は一番人気だわ。私もお慕いしているもの」


「!!」


 ……まさかの、イザベルまで!!


 私はアラン王子殿下の記憶を必死で思い出してみた。

 婚約式のときに少しお話しさせていただいたけど、そのときは王族全員を眩しく感じて、よく覚えていない。

 あとは、熱を出されて倒れられたときに、ローランに連れられて少し手当をさせていただいたが、そのときアラン王子殿下は熱にうなされていたので、会話らしい会話はしなかった。


「うーん。私は記憶を思い出してみたけど、残念ながら、アラン王子殿下のミスターパーフェクトぶりは存じないわ……」


 私が残念そうに言うと、ステイシーは勝ち誇ったように言った。


「それは仕方ないわ。王宮でお仕えしている長さが違うもの! リジー。私とイザベルには、可愛い後輩がいるのよ。私達は先輩になったんだから!」


「そうかぁ。イザベルもステイシーも先輩かぁ。……あら? そういえば、シモーヌは?」


 私が聞くと、イザベルが答えた。


「シモーヌは無事婚約が決まって、先日、女官を卒業したわ。きちんと3年間勤め上げたのよ」


「そうだったの? すごいわ!シモーヌ、よかった! お祝いに行きたいわ!」


 私が喜ぶと、ステイシーが自慢げに言った。


「リジー。ここでクイズです。シモーヌの婚約相手は誰だと思う? ……フェレール公爵のご子息よ。すごいでしょ!」


ありがとうございました。

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