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111.捜索5

 ローランが思いついたように、グリージョに向かって言った。


「グリージョ。今日はここの地下から、リジーの家までの間を探してきてくれる? リジーとの話が終わったら、後で僕が地下に連れて行くから。ちゃんとリジーの家に帰るんだよ」


 グリージョは「ピィ」と鳴いた。

 ローランは満足そうに、グリージョをポケットに入れる。そして、私に向かって言った。


「リジー。グリージョには昼食を僕が与えておくから、安心して。夕食の頃には、リジーの家にグリージョが帰って来るだろう」


「わかったわ」


 それから、ローランは声を潜めて言った。


「リジー。僕は、父上の動きを探ってみたんだ。どうやら、次の王位継承者を決めるために、兄上たちを皆結婚させようとしているようだ。そういう意味では、僕は婚約者がいないから、そもそもそこからは離脱しているね」


「でも、国王陛下はローランのお願いを聞いて、私の父に頼んでくれたりしているんだから、相当ローランのことを気にしているんじゃない?」


「それはね、先日の戦争で僕が勝ったからだよ。そのご褒美さ」


 ローランはそこまで言うと、お茶を飲んで喉を潤した。

 私はローランの言葉を待つ。


 ローランは続けた。


「父上が魔女を探している理由も分かった。王位を継承する時に、魔女の存在が邪魔だから、今、必死になって魔女の行方を追っている。魔女は父上の天敵だからね。王位継承前に魔女を消し去りたいんだと思うよ」


 ふうん。そういうことなんだ。


 でも、ふと疑問に思ったことをきいてみた。


「魔女はローランたちに死の呪いをかけたけれど、最初からそんなふうに国王陛下と敵対していたの? 何が一番最初のきっかけだったのかな?」


 ローランは天を見上げてから言った。


「それは分からないな。父上と魔女の一番最初のきっかけは分からない。でも、今はっきり言えることは、父上は魔女のことを心から憎いと思っているし、魔女もそれは同じだと思う。僕が知っているだけでも、何度か魔女と父上で激しい攻防があったからね」


 これは思っていた以上に、国王陛下とタミアさんの溝は深そうだ。


 私はローランに言った。


「そう。長い間敵対してるんだね……。なんとか国王陛下とタミアさんの争いを回避できれば、と思ったけど、そんな簡単なものじゃなさそうだね」


 ローランは大きく頷いた。

「父上と魔女の仲を取り持つなんて、あり得ないよ」


 私は話を少し変えてみた。


「もし国王陛下より先に私たちが魔女を見つけたら、ローランはどうするつもりなの?」


 ローランは少し考えてから、言葉を選ぶように言った。


「僕は、魔女に呪いをかけられて、この10年くらい本当に辛い思いをしてきた。だから、僕がもし魔女と対面したら、魔女を殺してしまいたいよ。それこそ、父上よりも先に!」


 やっぱりそうなんだ……。


 私は自分の考えをローランに言うべきかどうか迷ったが、正直に伝えることにした。


「ローラン。私の考えを正直に言うとね。私は魔女を殺したいと思わないの。それは、私が呪いをかけられていないから、そう思うだけかもしれない。……いいえ、違うわ。私の考えが変わったのよ。ローランと婚約していたときは、魔女を憎い相手だとしか考えなかった。あの頃に、もし魔女と対面していたら、すぐに魔女を攻撃して殺そうとしたと思う。でも、今はちょっと考えが変わったの」


 ローランは黙って、私の話に耳を傾けてくれている。

 今みたいに反対意見を言った時でも、「それは違う」と話を聞かないで反論してくるようなことはしない。

 ローランは、たとえ自分と違う意見でも、ちゃんと相手の話を最後まで聞ける人だ。

 そんなところも私がローランのことを好きなポイントだし、そんなローランだからこそ、正直に話そうと思った。


 私は続けた。


「これは、ローランに言ったかどうか分からないんだけど……、私、領地にいるときに、タミアさんの双子のハミアさんと出会ったの。ハミアさんは、とても素敵な人だった。数日しか話せなかったのに、私に勇気をくれたわ。今、私がローランとの未来を信じられるのも、ハミアさんのお陰だから。……そんな素敵な人の双子の姉が魔女だと分かったのよ。いくら性格は違うといっても、会っていきなり攻撃するとかではなく、できれば話してみたいと思ってる。……サラ様たちも、魔女はひねくれものだとか、言ってた気もするんだけど……」


 私が最後まで言いたいことを言ってからローランの顔を見ると、ローランは「そうか」と一言だけ発した。


 それから、しばらく沈黙が流れる。


 ローランがゆっくりと口を開いた。


「じゃあ、リジーが魔女を見つけて、もし話せそうなら話してみてもいいけど、でも、危ない目に遭いそうだったら、すぐに僕に連絡して。ひとりで勝手なことはしちゃダメだから。リジーに何かあったら困るんだからね」


 やっぱり、思った通りだ。

 ローランは私の意思を尊重してくれる。

 正直に、自分の考えを伝えてよかった!


「ありがとう。わかったわ。もし危ない目に遭いそうなら、すぐにローランに伝えるし、そんなことがなくても、日々の捜索の状況はローランに報告するようにするから」


「それなら、毎晩寝る前に連絡してくれる? 毎日、リジーたちの状況が知りたい。それに、時々はこうして王宮にリジーを呼ぶよ。グリージョの映像を時々見てみたいし、リジーにも会いたいからね」


 今後のタミアさん捜索に関して、2人で方針を共有できた。

 ローランは、満足そうに立ち上がる。


「それじゃ、ここに、イザベルとステイシーを呼ぶからさ。リジーはここで待ってて。僕は先に失礼するね」


 私も立ち上がって、ローランの手を取った。


「分かったわ。ローラン。イザベルとステイシーに会わせてくれて、ありがとう。本当にうれしい!」


 ローランは「それじゃ」と扉のほうに歩いたので、私も見送るために一緒に歩く。


 そして、扉の前でローランが立ち止まると、ポケットからグリージョを出して、手のひらに乗せた。


「そうだ。リジー。グリージョにはちゃんと昼食をあげるから、心配しないで。その後に、グリージョに地下の捜索をしてもらうね。だから、さっそく今夜から、寝る前に僕に連絡してほしい。それじゃ、また今夜」


「わかった。今夜連絡するわ」


 そう私が言うと、ローランはグリージョをまたポケットに入れ、扉を開けて出て行った。

ありがとうございました。

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