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108.捜索2

「なぜ来月なんですか?」


 私が聞くと、さすがの母も答えられないようだ。


「さあ、なぜでしょうね」と首を傾げていた。


 でも、王族の中で何かが起こっていることは確かだ。

 王子様たちが皆まとめて結婚なんて……。


「国王陛下は、いったいどのような御用なのかしら」


 母は、独り言のように呟いた。


 ◇◇◇

 

 昼食後、私はパンと水筒を持って地下室へ行った。

 今朝グリージョと別れた壁の穴の前まで行き、穴の奥に向かって声を掛ける。


「グリージョ、昼食の時間だよ」


 そして、その場でグリージョが来るのを待った。

 

 数秒すると、穴の奥でガサガサと音が聞こえ、グリージョが私の前に姿を現した。


「グリージョ、おかえり。まずは昼食を食べようね」


 小皿に水筒から水を入れ、パンを小さくちぎって、グリージョに手渡す。

 グリージョは、水を飲んでから、パンをパクパク食べた。


 グリージョが食事を終えると、話し掛けてみた。


「ねぇ、グリージョ。タミアさんの居場所は見つかった?」


 グリージョは、いつもと同じように「ピィ」と鳴くだけだ。


 この調子で、グリージョと意思疎通がとれるのかしら? 何を言っているのか全然分からないんだけど……。


 そう思いながら、グリージョの大きくて丸い目をじっと見つめる。


 ん?


 急に、私の脳で地底の様子が映像として流れ出した。


「あれ?何?これ?……もしかして、グリージョが私の脳内に見せてくれているの?」


 グリージョが「ピィ」と鳴く。


 脳内で勝手に再生が始まった映像はとても鮮明だ。


「すごい、これが地下なの?」


 映像が明るくてこれが地下を歩いている映像だとは思えないが、よく見れば確かに土の中だ。木の根っこが見えたり、蟻やモグラなんかもいる。


「すごい! グリージョ。こんなことが出来るの! すごい!」

 

 午前中の捜索活動のダイジェスト映像をグリージョは私に見せてくれたようだ。


 これなら、グリージョが何をしていたのか、とてもよく分かる。

 グリージョと話せないことは何の問題もない。

 映像なので、実際に自分が捜索してきたような錯覚に陥るほどだ。


 それにしても、地底にはこのような世界が広がっていたのか……。すごく面白かった。


 しかも、グリージョは映像の編集能力が高い。とてもコンパクトにまとめた映像を私の脳内に再生してくれたので、短時間で状況がとてもよく分かった。


 グリージョは、私と合わせていた目を逸らして、また壁の穴の中へと入っていった。今から捜索活動を再開してくれるようだ。


「グリージョ、もうタミアさんを探しに行ってくれるのね? 気をつけて行ってきてね。夕食の時間に、ここで待ってるからね」


 グリージョが入っていった穴の中に向かって私が声を掛けると、穴の奥の方から「ピィ」とグリージョの鳴き声が聞こえた。


 グリージョはとても働き者だ。

 これは私も負けてられないなぁ。


 私は自分でも何か出来ることをやりたい。何ができるだろう。

 そう考えながら、地下室を出て、階段を上がった。


 すると、玄関ホールが騒がしい。父が王宮から帰ってきたようだ。

 私も急いで、玄関ホールに父を出迎えに行った。


「お帰りなさいませ。お父様」


「ただいま。リジー。少し話があるから、このまま話そうか」


 父の言葉で、父と母と私の三人で話をすることになった。

 アンが手際よくお茶の用意を整えてくれる。


 私と母はソファに座って、父の話を待つ。

 国王陛下に呼ばれるなんて滅多にないことだ。

 どんな話なのか緊張して、黙って父の様子を伺った。


「ローラン王子殿下の話だったよ」


 父が口を開いた。そして、私の目をじっと見てきた。

 思わずごくりと唾を飲み込む。


 父が続けた。


「今、8人いる王子の中で婚約していないのはローラン王子殿下だけだ。国王陛下はその状況を苦々しく思われている。だから、ローラン王子殿下にも婚約させようとしたらしいが、リジー以外と婚約するのは嫌だと突っぱねたそうだ」


 ローラン!!


 思わず頬が緩む。


 それを目ざとく見つけた父が笑った。


「なんだか、リジーはうれしそうだな」


「はい。それはもう。……うれしいです」


 私はそう言いながら、下を向いた。顔のニヤニヤが止まらないが父に見られるのは恥ずかしい。


 父は続けた。


「国王陛下は、リジーのことを気に入ってくださっているそうだよ。女官教育も妃教育も一生懸命頑張っていたし、婚約期間中、ローラン王子殿下のことを支えようとしていたことも認めてくださっている。……だが、残念なことに、婚約不成立となってしまった。一度そうなってしまった以上、再度婚約するには、それ相応の理由が必要だ、というのが国王陛下のお考えだ。私も国王陛下のお考えに異論はない」


「はい」

母と私は同時に頷いた。


「実は、ローラン王子殿下に、良い縁談の話がいくつか届いているそうだ。だが、今のローラン王子殿下はリジーと婚約する、の一点張りで全く聞く耳を持たない。ほとほと国王陛下も手を焼かれている、と仰っていた。そこでだ。ローラン王子殿下に1年間チャンスを与えたそうだ。もし、17歳になるまでの間に、リジーとの婚約を認めても良いと思えるようなことがあれば、国王陛下は二人の婚約を許可する。それができなければ別の方との婚約話を進める、ということで、ローラン王子殿下と話をつけられた、と仰っていた」


 私との婚約を認めても良いと思えるようなこと。

 それはとても抽象的な話だ。いったい何をすればいいのか。


 私がそう考えていると、父が話を続けた。


「国王陛下が私を呼んだ理由は、この件だった。リジーが適齢期なのは分かっているが、ローラン王子殿下のわがままに1年間だけ付き合ってもらえないか、とお願いされた。つまり、リジーもそれまでは婚約者をつくらずに待っていてほしいということだった」


「それで、お父様は、なんとお答えに? 」


「リジー。そんな心配そうにしなくても大丈夫だ! もちろん構わない、とお伝えしてきたよ。ローラン王子殿下をお待ちして、それまではリジーを誰とも婚約させません、と約束してきた。国王陛下はとても喜んでおられたよ。もし1年たってローラン王子殿下との婚約が許可されない場合は、国王陛下が責任をもって、リジーの良い結婚相手を探してくださる、というお話も頂戴した」

ありがとうございました。

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