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102.旅立ち2

 あっという間に、王都へ出発する日の朝がきた。

 レオはここに置いていくので、レオと最後の散歩をする。

 初めてここで会った時と比べて、レオは随分大きくなった。もう子犬ではなく、成犬となっている。骨格もしっかりしたし、よく走りよく遊ぶので、随分筋肉質になった。抱っこをしたら、だいぶ重い。


「さぁ、レオ。最後のお散歩に行こう」


 レオに話し掛けると、レオは瞳をうるうるさせ、上目遣いで私のことを見てきた。レオは自分が可愛いことを分かっているに違いない。そんな顔で見つめられると、王都に連れて行きたくなってしまう。


 私は、自分に気合を入れて、走り出した。レオもすぐについてきて、私に並んで走る。

 尻尾をピンと立てて振りながら、大きな垂れ耳をパタパタさせて、嬉しそうに跳ね走る様子は、本当にかわいい。

 いつもレオが楽しそうにしているおかげで、私まで楽しい気分になって笑顔になれた。


 どんな時でもいつもレオが私に寄り添ってくれたから、私はここでの生活が楽しかったんだな。

 本当にレオには感謝しかない。


 レオと最後の散歩を終えた後、レオへの感謝を込めて、最後にシャンプーをした。

 レオの体を石鹼で隈なくごしごしと洗う。レオは時々小さくくぅーんと鳴くだけで、おとなしく私に身を任せてくれる。多少荒っぽくしても怒ることもない。

 レオの体をごしごしシャンプーしていたら、なぜか泣けてきた。最近、ずっと泣いてばかりだ。


 レオが私のことを心配そうに見てくれる。

 レオの顔を見て、私はタオルで涙を拭き取り、気持ちを切り替えた。めそめそ泣いていては、ちゃんとシャンプーができない。


「レオ、ごめん。もう大丈夫だから」

 私はレオにそう話し掛けて、シャンプーを再開した。


 レオは本当にお利口で、私のやりやすいように、じっとおとなしくしてくれる。

 顔を洗おうとすると、ちゃんと目を閉じてくれた。

 レオは短毛なので、もともとシャンプーしやすい犬だと思うが、こんなにおとなしく素直にシャンプーさせてくれる犬は他にいるのだろうか。親バカかもしれないが、改めてレオの賢さを実感した。

 レオがじっと大人しくしてくれたおかげで、途中なぜか私が泣いてしまうハプニングはあったものの、シャンプーをスムーズに終えることができた。

 レオが気持ちよかったよ、と伝えてくれるかのように、私にぴょんぴょんとジャンプしてくるので、私もうれしくなる。

 

 レオと思い出話をしながらブラッシングをしていると、アントンが私を呼びにきた。


「リジーお嬢様。そろそろ出発のお時間です」


「分かった。今行くわ」

 

 最後にレオをぎゅっと抱き締めた。


 私が王都に行った後は、アントンとカリーナがレオの面倒をみてくれる。

 それに、レオは私がウンディーネ様のところに出かけている間、アントンに連れられて村の人たちとも交流していたらしい。結局、村の人たちと触れ合うことがなかった私とは大違いだ。

 レオは私よりも村の生活に馴染んでいる。私がいなくなってもなんら問題ないだろう。

 レオにとっては、大自然に囲まれたこの村はとてもいい場所だと思う。村の人たちにも、その人懐こさで可愛がられるに違いない。

 そう分かっているけれど、やっぱりレオとの別れは寂しい。

 

 私の中でレオの存在は非常に大きかった。

 ずっとレオが私に寄り添ってくれてたから、前を向いていられたんだ。

 いつも明るく朗らかで、私を笑顔にしてくれる。やんちゃで、時にはいたずらもするけど、甘えん坊で寂しがり屋なところもあるレオ。


 レオとの思い出は尽きない。


「レオ。私、王都で頑張って来るね。……でも、もしかしたら、またすぐに戻ってきちゃうかもしれないけど」


 レオの頭を撫でて、馬車に乗り込んだ。


 先に馬車に乗っていた両親は、レオと別れを惜しんでいる私のことを温かく見守ってくれていた。


 アントンとカリーナとレオに見送られて、馬車がゆっくりと動き出す。


 馬車の窓から村の風景を見る。見慣れたこの風景ともお別れだ。

 この風景、好きだったな。

 のどかな自然が広がっていて、人の姿はほとんど見当たらないかわりに、ところどころに見える牛や山羊の姿に癒される。

 走ったら風が気持ちいいし、草花の爽やかな香りに包まれるから、いつまでも走っていられた。そのおかげで毎日走ったから、ここに居る間にだいぶ鍛えられたような気がする。


 そんなことを思って車窓を眺めながら一人でくすりと笑っていると、遠くに見慣れた人影が見えた。


 え?あれは……。


 目をこすってから、もう一度人影をしっかりと見る。


 間違いない。ウンディーネ様とサラ様だ。こちらを向いて、手を振っている。


 私も手を振り返す。

 かなり遠くにいるので、ここから声は届かないだろう。声に出して、二人の名を大声で叫びたい気持ちをぐっと堪える。


 私が馬車の中で手を振っていることすら、相手には見えていないかもしれない。

 それでも、手だけは振り続けた。


 昨日、ウンディーネ様とサラ様とシルフ様には最後の挨拶をしてきた。

 三人それぞれに感謝の手紙を書いて手渡した。


 はっきり言って、今回の王都行きは私にとって不安の方が大きい。

 ローランの住む王宮には近いが、王族であるローランとは簡単に会うことができない。ローランとのこれからがどうなるかも分からない。


 何よりも、王都に行った後、自分自身が何をするのかが決まっていない。父に考えがあるのかもしれないが、今のところは特にこれといってやることがない。

 本来なら女官勤めをしていたはずだが、そのレールはとっくに外れてしまっている。もう戻ることはできない。

 友人たちは皆忙しい。

 今の私には、王都に居場所が無い。


 だから、できることなら、もっとここにいたかった。

 都会の喧騒から離れ、大自然に囲まれて、ウンディーネ様たちとわちゃわちゃ話しているのは楽しかった。


 でも、王都に戻ると決めたからには、ぐちぐち言っても始まらない。

 昨日も思わず不安を吐露してしまったが、そんな私に、ウンディーネ様たちは「離れていても、いつもずっと私のことを見守ってくれる」と言ってくれた。


 その言葉が今、私のお守りになっている。

 遠くで手を振るサラ様とウンディーネ様を見て、早速私のことを見守ってくれていることを感じ、心の中でお礼を言った。


「ありがとうございます! これから王都で頑張ってきます!」

ありがとうございました。

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