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101.旅立ち

 私の誕生日から2週間が過ぎた。

 ローランからは無事に王都に凱旋したと報告があった。王宮では戦勝会なども行われたようだ。恐らくローランは勝利のヒーローとして、皆から喝采を浴びたに違いない。


 それにもかかわらず、ローランの声はとても暗かった。明らかに落ち込んでいた。

 というのも、戦勝会の後、国王陛下に時間を貰って、私との婚約をお願いしたらしいのだが、色よい返事を貰えなかったらしい。

 それは仕方ないのでは、と私は思うのだが、ローラン曰く、緻密な作戦をたてて挑んだそうで、それが不発に終わったのが相当ショックだったようだ。

 でも、私もどうすることもできない。一生懸命励ましてはみたが、ローランがどう受け取ったのかは分からない。なんとなく、薄情な奴だと思われたような気がしている。


 そうだ。それよりも、そのときにローランから驚きの報告があった。

 あのエリック様が、外国のお姫様と婚約をされたそうだ。もう既に王宮で一緒に暮らしているらしい。

 ローランの話によると、エリック様の呪いが解けた後、とんとん拍子に話が決まったということだ。


 でも、待って。エリック様が信じていた占い師の占いはどうなったの? 呪いを解いた人と婚約するのではなかったのか?


 結果的に、エリック様の婚約は私にとっても朗報なのだが、なんとなく腑に落ちない。

 だって、エリック様が一瞬見せた私への執着のせいで、ローランとの婚約が不成立となったのに!

 まぁ、結局、エリック様は魔女の呪いを解きたかっただけなんだと思う。

 解けてしまえば、私なんてどうでもいい、ということだろう。エリック様に振り回されただけだ。


 そう考えると、ローランは素敵な人だ。エリック様とはえらい違いだ。人間ができている!

 魔女の呪いが解けた後も、ローランは決して用済みだと私を捨てることなく、こうやって国王陛下に働きかけてくれた。

 物理的にこんなに離れて暮らしているし、身分的にもどうとでもできるにもかかわらず、だ。


 やっぱりローランは最高だわ!

 私の目に狂いはなかった!

 ローランは、その人間性が素晴らしい。もちろん外見だって、皆が見惚れる美形なのだが、それよりもローランの人間性に私はべた惚れだ。大好き。


 婚約不成立となった、いわくつきの相手ともう一度婚約したい、と国王陛下にお願いしてくれただけで、ありがたい。

 そんなことを言ってくれたローランと出会えて、二度目の人生は悔いがない。

 ローラン、ありがとう。大好き!


 ◇◇◇


 このような話を、私は妖精たちに、時間も忘れて熱弁していた。

 目の前に出されたお茶が、すっかり冷めてしまったほどだ。

 ウンディーネ様はニコニコしながら私の話を聞いてくれるが、サラ様とシルフ様は少し呆れ顔に見える。


「はいはい。リジーがローランのことを大好きなのは、よく分かったわ」

 シルフ様がつまらなさそうに言う。


「はい、もうめちゃくちゃ大好きです。ローランは何よりも人間力が素晴らしいんですよ。普通は、呪いが解けたら、エリック様のように手のひら返しをするものです。それなのに、私のことを見捨てず、もう一度なんとか婚約できないかと一人で頑張ってくれているのです!」

 私は、シルフ様に向かって、熱く語った。


「ねぇ、それよりも、リジーはいつ王都に向かうことになったの?」

 サラ様がさらっと話題を変えてきた。


「あ、来週には出発する、と今朝、父から言われました。父のこちらでの仕事が、ほぼ片付いたみたいです」


 そういえば、私たちがここを発つ日が来週に決まったことも妖精の皆様に報告しなければ、と思っていたのに、ローランの話にすっかり夢中になって忘れていた。

 私も今朝、父から「来週出発する」ときかされて、驚いたのだった。


「ええ! もう来週なの? そんな大事なこと早く教えてよ! それは寂しくなるわね……」

 サラ様が言った。


「すみません。今朝きいたばかりで、私もまだ何も準備していないですし、実感が湧かないのですが……」


 私がそう言うと、ウンディーネ様がまっすぐ私の目を見ながら言った。

 

「リジー。王都に行っても、困ったことがあったら、いつでも戻ってきていいからね。私はいつもここにいるから」


「ウンディーネ様……」


「ああ、でも誤解しないでよ。私はリジーがここに戻って来るのを待っているわけではないから。思う存分、王都で頑張ってきなさい!」


 ウンディーネ様はやっぱり優しい。

 いつでも戻れる場所があると思えるだけで、本当に心強い。

 ローランと上手くいかなかったら、遠慮なく戻ってこよう。


「ありがとうございます! ウンディーネ様!」


 サラ様も言った。


「リジー。私もウンディーネと一緒にここにいるから。国王に反対されたら、最後はローランと二人でここに来ればいいんじゃない?」


「えっと、それはちょっと難しいと思うんですけど……。でも、そうですね。国王陛下に反対されて、どうしても一緒になれないとなったら、ローランと最後の思い出にここに旅行できないか、とか相談してみようと思います」


 私の答えは、シルフ様にとっては不満だったようだ。ちょっと強めの口調で言われた。


「なにそれ。二人が本気で一緒になりたいなら、国王が反対されたくらいで諦めちゃだめよ。二人で駆け落ちしてもいいんじゃない?」


 私は慌てて、手を顔の前でひらひら振りながら答える。


「いえいえ。そんなことはできないです。それは、ローランに迷惑がかかっちゃいますから。大好きなローランの足を引っ張りたくはないんです。ローランはこの国の王子様で、私が独り占めしていい人ではないですから」


「そうなの?」


 シルフ様とサラ様はまだ不満そうだったが、特に何も言わなかった。


 私はローランのことが大好きだし、できることならずっと一緒にいたいと思っている。

 結婚だってしたい。

 でも、国王陛下に反対されてまで、結婚したいとは思わない。

 さっきも言ったとおり、ローランには迷惑をかけたくない。

 ローランは一国の王子様としての責務がある。

 たとえローランが、私と駆け落ちしてくれる、と言ってくれたとしても、それを全力で止めるのが私の役割なのかな、と思っている。

 そして、国王陛下が私たちの結婚を許さないのであれば、その時は、父と相談にはなるけれど、ここに戻ってきて一人で生きていくのもいいかもしれない、と思った。


 ◇◇◇

ありがとうございます。

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