100.誕生日3
ついに100話まできました。書き始めたとき、100話を目指していたので、ここまで続けられたことが嬉しいです。でも、自分ひとりで書いていたなら、続けられませんでした。少しでも読んで下さった方、ブックマークしてくださった方、評価してくださった方、感想を書いてくださった方、本当にありがとうございます。とても励みになりました。そのおかげで書き続けることができました。ありがとうございました。
その日の夜、私が夕食のテーブルに着くと、まず父が「リジー、お誕生日おめでとう」と言葉をかけてくれた。続けて、母も「リジー、お誕生日おめでとう」と声をかけてくれる。
そして、執事のアントンが「リジーお嬢様、お誕生日おめでとうございます」と言いながら、ワインを注いでくれた。
父の掛け声で乾杯をした後、アンやカリーナも「お誕生日おめでとうございます」と言って拍手をしてくれる。
皆に誕生日を祝福されて、本当に、今日は幸せな一日だ。
私は、皆に「ありがとうございます」と心からお礼を言った。
乾杯を終えてから、改めてテーブルを見ると、テーブルの真ん中に「リジーお嬢様、16歳の誕生日おめでとう」と書かれたプレートが置かれ、色とりどりの花で普段よりも華やかに飾り付けしてくれている。
その華やかなテーブルには、誕生日ということで私の好きな料理が並んだ。
今夜のメニューは、ポタージュ、野菜サラダ、スタッフド・ローストチキン(詰め物が入った鶏の丸焼き)、ブドウとリンゴのプディングだ。
温かいものは温かく、冷たいものは冷たく出してくれる我が家の料理は、領地で採れる新鮮な食材を使っているうえ、味付けが絶品でどれも本当に美味しい。アントンが注いでくれるワインとの相性もバッチリだ。
しばらくは皆黙って、目の前の料理に舌鼓を打つ。
美味しい食事は時を忘れさせる。
一口一口をワインと共に味わった。
ある程度食事が進み、私が幸せをかみしめながらローストチキンを食べている時、父が微笑みながら声をかけてきた。父の顔はほんのり赤い。既に、ほろ酔いのようだ。
「リジー。16歳の誕生日、おめでとう。まさかリジーの16歳の誕生日をここで迎えるとは思わなかったがな」
そう言って、父はハハハと笑った。
「ありがとうございます。お父様。……本当にそうですね。今頃、私は王宮で女官勤めをしているはずだったんですけどね」
私もそう言って笑った。
「本当に、人生って何があるか分からないわね」
母もそう言って、フフフと笑う。
美味しいお酒と美味しい料理を食べながら、皆で笑うと幸せだ。
家族三人でひとしきり笑った後、ふと父が真顔になって聞いてきた。
「リジーは、ローラン王子殿下のことがまだ好きなのか?」
「え?」
急な話の展開についていけない。
私が黙っていると、父は私の左手薬指に輝く婚約指輪を見ながら言った。
「私がここに来たときは、あと半年もすれば、リジーもローラン王子殿下のことを忘れることができるだろうと思っていたのだが、まさかローラン王子殿下の方から、こんな田舎に来られるなんて考えもしなかったな。ローラン王子殿下とお会いしてしまったら、リジーも諦められなくなるよなぁ」
「お父様……」
ローランがここに来たのは、今から3ヶ月前。
父とはその時もそれ以降も、ローランについて最低限のことしか話してこなかった。だから、ローランに対する私の気持ちは、ローランと会った後、一度も話していないし、父も今まで聞いてこなかった。
それなのに、どうして、今このタイミングでローランのことを持ち出してきたのだろうか。
父の真意が分からないので、私はそれ以上何も言えない。
私が黙っていると、父が続けた。
「リジー。当初の予定より早いが、王都には来月戻ろうと思う。ローラン王子殿下がこちらに来られたから、もうリジーの為に半年間時間を空ける意味が無くなっただろう? こちらでの私の仕事があと少しでひと段落するので、そのタイミングで皆で王都に戻ろうか」
ん?どういう意味だろう?
ほろ酔いの頭で、父の言った意味を考える。
そういえば、お父様がこちらに来た時、「あと半年間でローラン王子殿下のことを諦めなさい」というようなことを言われた気がする。
今は婚約指輪を付けていてもいいが、王都に戻るまでの半年間で婚約指輪を外すように、と言われたっけ。
つまり、半年間というのは、私がローランを忘れるために父が設定した期間だったんだ。
それなのに、3ヶ月前にローランがこちらに来ちゃったから、父の計画は台無しになったということだ。
だから、父の仕事がひと段落する来月に、王都に戻ろうということか。
「はい」
私が神妙に頷くと、ほろ酔いの父は明るく言った。
「リジー。ローラン王子殿下のことが諦められないのだったら、お前を無理に別の人と婚約させたりはしないよ。諦められない相手がいるのに、別の相手に嫁いでも辛いだけだろう。だから、もしリジーが18歳になってもまだローラン王子殿下を諦められなかったら、そのときは修道院に行けばいいじゃないか? だけど、もしリジーがほかの相手に嫁ぐ気になったなら、いつでも言いなさい。私がよい相手を見つけてくるから」
「お父様、ありがとうございます!」
父が私のことを思って、誰とも婚約しなくてもいい、とまで言ってくれた。今までの父ならあり得ないことだし、家のことを考えれば、そんな発言はありえない。
だから、とても驚いたけど、本当に嬉しい。
確かに父の言う通り、今の私の気持ちとしては、ローランと結婚できず他の誰かと結婚するのなら、修道院に行かせてほしい。
父には何も話していないのに、どうしてこんなに私の気持ちが分かっているのだろう。
先ほどの父の言葉が、今までで一番嬉しい誕生日プレゼントかもしれない。
気づくと涙が頬を伝っていた。私は嬉しい時、自然と涙が流れてくるのだ。父はそんな私を見て、笑って言った。
「リジー、泣くな。せっかくの食事が不味くなるぞ」
父の優しい言葉を聞くと、ますます涙が溢れてくる。
「はい、お父様……。お父様……ありがとうございます」
私はもう、溢れる涙の止め方が分からなかった。次から次へと涙が出てくる。アンが大きめのタオルをそっと手渡してくれたので、ごしごし涙を拭ったが、それでも溢れる涙を抑えることができない。
「さぁ、冷めないうちに、食事を食べてしまいましょう」
今度は母がそう優しく声をかけてくれたので、私は涙を流しながら鶏肉を頬張った。
「リジーお嬢様、よかったですね」
アンがそう言いながら、タオルをそっと交換してくれる。
皆の気遣いや優しさが身に染みる。
本当に私は幸せ者だ。
ありがとうございます。