10.授業2
ようやく10話まで来ました。今日はこの後もう1話投稿する予定です。
「魔導士様、妖精の姿はどんな風なんですか?どうしても思い出せなくて、何かヒントがほしいです」
困り果てて尋ねると、魔導士様は少し考える素振りをした。
「そうだな。具体的には話せないが人間の姿をしている。お前は水の属性だからな。ウンディーネ様にお会いしたのだろ?」
「ウンディーネ様・・・。お名前は聞いたことがあるような・・・」
ああ、前世で読んだ本とかゲームとかに出てきてた。
確か、四大精霊。水を司る精霊がウンディーネ、風はシルフ、火はサラマンダー、土はノーム。
妖精と精霊って言葉は違うけど、きっと同じなのだろう。
今世の記憶はからっきしダメなのに、前世の記憶はこんな難しい名前まではっきりと思い出せる。
今を生きている私としては、どっちかというと今世の記憶力をよくしたいところだけど。
「あの・・・もしかして、風の妖精はシルフ様、火の妖精はサラマンダー様、土の妖精はノーム様でしょうか?」
前世の記憶と合っているのか確認したくて、魔導士様に訊いてみた。
「その通りだ!なぜ知っている。・・・そうか、やはりウンディーネ様からお聞きしたのか?」
やっぱりそうなんだ!
前世の記憶が初めて役に立った。
私は転生のチートで魔法が使えるようになったと勝手に思い込んでいたが、どうやらそうではなく、今世のどこかで水の妖精のウンディーネ様にお会いしていて、その時に魔法を使えるようにしてもらった、ということらしい。
もともと記憶力に難があったことは否めないが、前世の記憶を思い出してから余計に今世の記憶が曖昧になってしまっている。何かあったかな。今世にも写真があれば思い出せるかもしれないけど、貧弱な記憶に頼るしかない。
仕方ない。家に帰ったら、両親や執事にきいてみよう。
そんなことを考えていると、ふと隣りの席のロジェが目に入った。
「ロジェは、どなたの加護を受けているの?」
「ノーム様だ」
ロジェが今日初めて口を開いた。なぜか少し得意げだ。
「俺はアルフレッド様と同じで、ノーム様に魔力を授けていただいた!」
「アルフレッド様?」
「アルフレッドは私だ」
ああ、すっかり忘れていたけど、魔導士様のお名前がアルフレッド様だった。最近出会う人が多くて、本当に名前が覚えられない・・・。
でもーーー
ロジェは魔導士様のことが大好きなんだな。
ロジェの態度に思わず微笑んでしまう。
「なに、笑ってるんだよ!」
「うん?笑ってないよ。ただ、ロジェは魔導士様のことが大好きなんだな、と思っただけ」
「うるさいなー」
ロジェは顔を赤くしながら私に文句を言っている。
そんなロジェを見ながら、魔導士様の授業も意外と楽しめそうかも、と思い心が軽くなった。
◇◇◇
「ただいま」
屋敷に帰ると、父が私のもとに駆け寄ってきた。なんだかいつもと様子が違う。
「リジー、お帰り。お前よくやったな。ローラン王子殿下と結婚が決まったぞ!」
「は?」
思わず間抜けな声が出た。
父の言っている意味が分からない。
周りを見回すと、父だけでなく母も兄も妹も、執事やメイドたちまで目をきらきら輝かせて私のことを見ている。
「お父様。今なんと…。王子殿下と結婚とおっしゃいましたか?」
自分ではそんなつもりはなかったが、出した声は震えていた。
「そうだ。王家の伝令が書状を持ってきた。その書状には、此度のリジーの活躍の褒美としてローラン王子殿下との結婚を許可すると書かれている。ただし、結婚はローラン王子殿下が成人する3年後だそうだ」
「…褒美」
頭が真っ白になる。
「本当によくやった。さぁ、お腹がすいただろう。夕食にしよう」
父は満面の笑みを浮かべている。母も「よかったわ」と言いながら涙をハンカチで拭っていた。
「お姉様、すごいですね」
妹のクレアはそう言って私に抱きついてきたので、よろめいた。
「クレア、いきなり・・・あぶないでしょ」
注意しようと声を出したが、弱々しい声しか出ない。クレアはニコニコ笑いながら腕を解いた。
兄のジャックも「お前、すごいな」と肩にポンと手をのせる。思わず、じろりと兄の方を睨んだ。
食事が始まっても、父と母を中心に私の結婚の話で盛り上がっている。
私はただ黙って目の前の食事に集中する。何の味もしない。こんなことは初めてだ。
「褒美・・・」
小さく口に出してみた。意外と声が出た。意を決して父に言う。
「お父様、昨日、私たちは国王陛下からご褒美をいただいております。もうこれ以上は・・・」
そこまで言うと、父がニコニコしながら言った。
「いいではないか。さらにご褒美をくださると言うのだ。お前がローラン王子殿下とご結婚とは。こんな嬉しい褒美はない。国王陛下のお心尽くしに感謝申し上げよう」
「はぁ…」
「明後日、王宮にてお前とローラン王子殿下の顔合わせの場があるとのことだ。まだ一度もお話ししたことがないだろう。ゆっくりお話しするといい」
貴族の結婚が政略結婚なことは十分理解しているし、女官のお務めが終わる3年後には良い縁談を紹介されて嫁ぐのだろうな、という風には思っていた。
でも、さすがに相手が王族だとは一度も考えたことがなかった。
確かに数日前、イザベル達とのお茶会でそのような話が話題に上がったけれど、あくまでも夢物語として聞いていただけだし。
実際、私は憧れたことはなかった。
せっかくの二度目の人生ではあるけれど、
思い切りこの人生を楽しもうとは思っていたけれど、
ちょっとそれとこれとは別で・・・。
私はただ、言いたいことを言える人生を過ごそうと思っていただけだ。
もともと小心者なのだ。
…王族との結婚は、荷が重すぎる。褒美なんていらない、と言えたらどんなにいいか。
言いたいことを言える人生といっても、さすがにこれは言えないなぁ・・・。
ありがとうございました。