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童貞バレバレで息できんww


「馬鹿が…気持ちわりぃ……」


うす暗い天井を見上げながら、彼は小さい声で悪態をついた。布団に横たわりながらふと顔をそらせば、視線の先に置かれた目覚まし時計の時刻は、夜の21:59分を指していた。薄いカーテンの目を透通すように、南東からの夜景の光が部屋へと微かに入り込んでいく――その光を反射する数字の羅列を、彼は恨めしそうににらみつけた。


なんでもない天井や目覚まし時計を彼がにらみつけたのはこれで何度目だろうか。佐々木ゆりなから魔石の売却代金を受け取った際――微笑みながら、こちらを覗き込むようにして見つめる、彼女の大きな茶色い瞳を彼は思い出していた。


そう…思い出しただけなのである。だからなんだと彼は思った。その自分に向けられた彼女の笑顔に、何の意味も価値も存在しないはずなのに。にもかかわらず、それでも、自分を包み込んでしまうかのような、彼女の微笑みと大きな瞳が、彼の脳裏にいつまでも張りついていた。


男の子に交じってボールを追いかていたあの子のこと――給食の時にいつも自分の近くに座っていたあの子のこと――時たまに見えた、誰かが笑わせた物静かな女の子の笑顔――同じ帰り道を歩くあの子の背を…そして誰かの隣を歩く、小さなあの子の背中を――孤独な自分の全てを包み込んでしまい様な彼女の瞳を――自らの22年間の経験の中で、このような流れの行き着く先は、たいていろくなものにはならない事を彼は知っていた。


人を好きになってはならない。

これが鯉川青龍という人種が思い人を傷つけず、思い人に嫌われず、それによって自分も傷つかないためにたどり着いた答えであった。


だから、すでにたどりつたはずの答えに逆行するかのように、また同じ過ちを、今この瞬間にも再び冒そうとしている愚かな自分を、彼は罵倒したのだ。


もっともこのような悲観的な考えに、いつまでも取らわれていては、なにも意味がないことを彼も分かっていた。しかし、それでもこの非観を捨て去るほどの勇気も、力も【資格】も彼の中には存在しないのである。


「このまま…ずっと……………生きてくのか……」


そんなはずはない。


きっと希望があるはずだ。これまではそう自分に言い聞かせ孤独を紛らわせて生きて来た。しかしいつからか、そのような希望を抱くことに苦痛と恐怖すら感じる様になってしまっていた。


気づけば部屋はかなり明るくなっていた。開いた瞳孔からは目覚まし時計のフィルムに反射する自分の顔が写っていた。


「ひでぇ顔だな……」


男は静かに瞳を閉じ――そしてまた蝉の鳴き声で目が覚める。



「メシ…食わねぇと」



孤独な男の一日が…また始まった。


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