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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

鎧兜

 今は昔、かなり昔の話。京都の山に貴教という児が住んでいた。

 みんなくらいの小さな男の子だ。幼子は、母を早く亡くし、父親と一緒に暮らしていた。しかし、この父親はろくに働きもせず、子どもにばかり家事や雑務を押し付けていた。

 ある夜のこと、家の周りが明るくなったかと思うと、扉を破って雌型の鬼が入ってきた。家の周りには、鬼火がたくさん舞っていてそれが家を明るくしていたんじゃ。

 鬼は児には目も暮れず、父親の方を向き、怒った形相で父親を襲った。児は、父の絶命するのを聞き、失神してしまった。

 鬼はそんな幼子を連れて帰り、一生懸命世話をした。やがて、児も心を許し鬼と人間の共同生活は順調に行った。

 数年が経ち、児が成人した頃、都では戦があちこちで起こり荒廃していた。雌型の鬼は、息子同然に育ててきた子とはもう一緒に暮らせないことを察した。

 子は都の混乱を人間である自分が収めたいと願っていたから。

 ある晩、鬼は子に大きな風呂敷を渡した。

 児が開いて見ると、中には鎧兜と武具一式が入っていた。

 鬼は優しい声で、言葉を告げた。この鎧兜はお前のものだよ。鬼神の力が宿っているから、戦で負けることはない。でも、使いすぎるとお前は人間に戻れなくなる。よく覚えときなさい。さよなら、私の愛した息子。

 そう言って鬼は次の日、姿を消した。

 男は鬼から貰った鎧を纏い、都を平定した。鬼の言葉通り、戦に敗れる事はなかった。

 男は、鎧を着るといつもあの鬼と過ごした暖かな日々を思い出すのだった。

 ある日、都の見回り中に雌型の鬼が討伐されたという知らせが男に届いた。男はすぐに鎧兜を纏い、現場に向かった。

 そこには、見慣れた鬼が横たわっていた。鬼は、絶命するとき「貴ちゃん」と一言発したらしい。雌型の鬼は、亡くなったと思っていた母親だったのだ。男は医者をよべ、早く治せ。と何度も叫んだ。男の叫び声は虚しく空にこだました。

 その後、男は人が変わったように手柄を上げ続けた。その戦いぶりは鬼神のようだった。

 私生活では、かわいい奥さんと二人の子宝にもめぐまれて順調な生活をおくっていた。

 手柄を上げるために、鎧を着続けていた。男の姿は、もはや人のなりをしていなかった。男は山に向かって歩き出した。

 ある日、妻が家の前に風呂敷が置かれていることに気づいた。中には男が使っていた鎧兜と手紙が入っていた。

 手紙には、今までありがとう。と汚い字で記されていた。

 男の行方は誰も知らない。ただ、遠くの山で遠吠えが聞こえるのみである。


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― 新着の感想 ―
[一言] 泣きました。良い作品に巡り会えた気がします。楽しい時間をありがとうございます!
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