九十六 巻き込まれちゃったみたい
……むにゃ…
「ヒカリさーん。起きてくださーい!!」
んぁ…。
「起きました?」
んんー…あれ…目の前に、見覚えのあるお顔…
…私を…覗き込んでる?
あー…んーっと、…あっ、そうだ。ラエルさんか
…と言うか
「…ここどこ?…もしかして…」
…また、私の精神世界…?
「違います。ここは…私とラフィの…。」
…ん?えっと、つまり…?
どういう事?
「ヒカリさんは…どうやら、巻き込まれたみたいです。」
「巻き込まれた…?」
「はい。今現状は、私とラフィの心核が互いに攻め合ってます。人格の所有権を求めて…。」
……ラエルさん。なんか面倒な事になってたんだね
「…で、どうするの?」
「私自身は溶け混ざるのを望んでます。一度は失ったんですから、所有権はいりません。」
うーん、所有権は譲つもりなのかぁ…
「ですが…ラフィが、私を否定してるんですよね…」
ラエルさんの目線の先に、真っ黒い竜巻が周囲を吹き飛ばしている
「あれ…もしかして」
「ラフィの意識です。深く硬い殻に閉じ籠ってます」
でも、あれじゃ近寄れない…。
不意に近付いたら、私達も巻き込まれる
「あっ、そうでした。ヒカリさんは巻き込まれた側ですので、その精神体を破壊されないようにしてください。
壊れると、この精神世界に溶けて元の体に戻れなくなります。」
…ふぇ!?そう言うことは先に言ってぇ!!
めちゃくちゃ怖いじゃん!?それぇ
…で、このままのんびりお話してる場合じゃないよね
あの荒れ狂う黒い竜巻、放っておく訳にはいかない
周囲を巻き込みながら、ゆっくり進んでるし…
通った道に、何もないのもヤバい
要は、自分自身も否定しちゃってる訳だもん
このままじゃ、心核が混ざって魔力器官としては良くなっても意味ない
心が死んでるんじゃ、生きてるって言わないもんね
けど…
どうすれば…?近付けないんじゃ…
しかも、なんか私は自分の魔力を一切感じないんだよね
多分、魔法とか使えない。本当にただ居るだけの存在みたい。
「…私が突っ込みます。魔力の塊の私なら、少しの間…隙間を作れると思いますから。」
「でも、それ危険だよ?」
ラエルさんは、少し私から目を離し黒い竜巻を見る
「私が…やるしかないんです。あのままになんて…させておけないです…。
…多分、あれに突っ込むと私は消滅してしまいます…だから…。
………後の事は、お願いします!」
「あっ!?待っ」
私の制止を聞かず、黒い竜巻に飛び込むラエルさん
ラエルさんが飛び込むと、同時に物凄い光が黒い竜巻から発する…
竜巻は停止し、黒いモヤ?が一部吹き飛んだ。
…小さな穴があいてる。私が通れる位の隙間が出来てる…
…けど、すぐに黒いモヤが、穴を塞ごうと動き始めている
…行くしかないよね!
ラエルさんの特攻を無駄にしないためにも!!
私は黒いモヤに気を付けつつ、黒い竜巻の中心に飛び込む
竜巻の中はどうな…
……なんにもない。
真ん中で一人。体育座りしてる…。
あれは…ラフィー?
とりあえず、近くに行ってみよう。
短髪で緑色の髪色…。ラフィーだね
うーんと、反応は…
「ねぇ、大丈夫?」
「…………。」
…無反応。
と言うか、私に気が付いてない…?
「おーい。」
とりあえず、目の前で手を振ってみる
「………。」
…うん、反応無し。
頬っぺたを、つんつんしてみる。
「おーい。つんつん…」
表情…変化無し。反応もなし
うーん。困ったなぁ…
どうすればいいの?
「うーん、このままだと特攻したラエルさんにも面目立たないし…」
「ら…える…?」
おっ!?反応した?
ラエルさんの名前に、反応したのかな?
「…あ…あぁ…ぁぁぁぁ…」
…あっ。なんか…やばそ
「あぁぁぁァアぁぁぁぁァァァぁあァァアぁぁァぁぁぁぁァアぁぁぁァアぁァァアぁぁぁぁ」
ラフィーは、頭を抱えながらカタカタと震えだしてしまった
ど…どどど、どうしよう…。
やばいやばい…。
「ぁぁぁぁァアぁァぁぁぁぁらぁぁエるぁぁおネぁぁぁぁェちゃぁぁぁぁ」
ラフィーの周りに黒いモヤが現れだす
そして、周りを手当たり次第に黒い風刃となって切り刻む
「…あ。」
私は一旦、黒い風刃を避ける為、距離を取る
……うん。そっか
なんか…冷静になれた。
とりあえず…。
抱き締めよう。まず、そうしたい
改めて、ラフィーに向かって私は歩みだす
しかし、黒い風刃は近寄る私に問答無用で襲いかかる
まるで、来るなと言わんばかりに…
「……っ!?痛…」
私の頬を黒い風刃が掠る
「あっ!?ァぁぁぁぁ…」
掠った頬から赤い血が出てくる。その様子を見たラフィーは動きを止め、さらに怯えだす
黒い風刃がピタリと止まる。そのまま私はラフィーの近くへ…
カタカタと震えてるラフィーを、優しく抱き締める。
「ァぁぁぁぁあァぁぁぁぁ…ぁぁ……おねぇ…ちゃ…?」
「大丈夫だよ…。もう休も?」
「あ…ァぁぁ…」
「もう…良いんだよ…。休んでも…」
「……ウ…ん」
ラフィーは、虚ろな瞳をゆっくりと閉じる
そして、そのまま眠るように動かなくなる
……。眠ったね。
黒いモヤも無くなって、さっきの精神世界へと戻ってきたみたい
…ラフィーは、私のお膝を枕にして眠っている。
ずっと…苦しんでたみたいだね…。許して欲しくても許せない。苦しくても助けを求められない。そんな地獄。
そんな状態で、精神も壊れる寸前だった
まるで、壊れないように心核自身が強制スリープにでもしたみたい
この子を、実験に使った事は許せない。
けど、ここに閉じ込めたお陰で心の負荷が軽くなったのも事実。他の天使に回収されてたら多分、心壊れてたよ
「…私も…恵を自分の手で殺めたら…こうなるのかな…?」
正直、理解なんて出来ない。したくない。私が恵を…なんて…
私は多分、ラエルさん側。寧ろ、殺る位なら代わりに死ぬ
うん…。恵にやられるなら本望だ…。
けど間違いなく、恵はラフィーと同じでこうなる。
絶対に、自分のせいにする。私が許した所で、自分を許せない。…許したくない
恵は、何だかんだ私に依存してるから…。やっぱり、一人には出来ないよね。
……やっぱり、恵とのんびり楽しく生きていたい
さて、ラフィーとラエルさんの件は終わったはず…なんだけど…?
私、自分の体に戻らない。おかしいなぁ…
「私、なぜか生きてましたー」
ふわっと丸い光が、私の隣にやって来た
…えっ…これ、もしかしてラエルさん?
「私を生成してる部分が、辛うじて残ったみたいです。いやーびっくりです」
私の周りを、ふわふわ飛び回るラエルさん
「…眠ってますね。ラフィ」
ぴたっと動くのを止めると、ラエルさんはラフィーの頬に近寄る
「…うん。やっと解放されたよ」
「そうですか…。」
ラエルさんは、ラフィーの頬を軽く触れると私の肩辺りにやってくる
「私は、ラフィの魂に寄り添うつもりです。多分、私が居なくなった聖剣…いや、聖杖剣はただの鉄の剣になると思います。」
あー、そんな気はしてたよ。
ラエルさんの心核を聖杖剣から引き抜いた時、ただの剣になってたもん
「ヒカリさんには、申し訳ないですけど…」
「んや、気にしないで。私でも…多分、同じことすると思うし。」
「ヒカリさん…」
ラエルさん、少し声が潤んできてる。光の玉状態だから見た目は分かんないけど
とは言っても、代わりの武器必要だよねぇ…
私、剣術とかからっきしだし…
生半可な物だと、加減ができない私は簡単に折っちゃうからなぁ…
「代わりになるもの…」
「あっ!剣は無理です。私、折れない様に工夫するのに相当苦労しましたから。」
おふぅ…。無理頂きましたぁ…
「無難に、杖にしときましょう?」
「杖かぁ…」
まぁ、接近戦は恵のお仕事だし…。でも…なぁ…。むーん…
「…ご不満ですか?」
「んー、いや…でも…ねぇ。やっぱし、接近戦も出来るようにしたいじゃん?」
「…はぁ」
おっとぉラエルさん、ため息吐いたよ?
「そんな事だと思いました。なら、メイスとかモーニングスターなら良いんじゃないですか?」
メイス…モーニングスター…。
「メイス…は打撃用の鉄棍棒です。
モーニングスター…は先端を丸くして棘を沢山付けた物です。」
…モーニングスターって、鎖で繋げられたとげとげの球体を振り回す武器ってイメージがあったけど…。
やっぱり、ゲームなんかとは違うよねー。
「とりあえず、鈍器が良いと思いますよ?刃を折る心配しなくて済みますから」
うーん…。鈍器かぁ。とりあえず、候補の一つかな。
とりあえずは、物を見ないと始まんないよね
「さて…と、そろそろ私はラフィと融合します。
多分ですけど、ヒカリさんは弾き出される感じになると思います。…これからも、ラフィの事お願いしますね?」
「…弾き出される?」
「では…、さようなら」
あっ、ちょっと待ってぇ!?もっと、詳しく教えてぇ
ラエルさん、球体のままラフィーの胸元へ飛び込むと吸い込まれる
「あっ…」
遅かった。また止まんなかったよ…
ラフィーの体へ、吸い込まれたラエルさん。
完全に姿が見えなくなると、ラフィーがぴくりと反応する
「…おねぇちゃ…。」
むくりと体を起こし、ラフィーは胸元に手を当てる。
「……。」
少し寂しい表情をしてから、私へ振り向く
「ご迷惑お掛けしたのです。ラフィは、もう大丈夫なのです」
ぺこりと頭を下げるラフィー
うん。大丈夫そうだね。よかったよかった
「もうすぐこの場所は崩壊するです。ですから、この場所から弾き出すのです。」
……は?
「…いくですよ?」
「まっ」
「でっす!!」
あぁ…この姉妹動き出すと…止まらない…。
私の感覚がぐにゃって、歪む…
…もしかして、心核がぐにゃって感じたのって…私の感覚が歪んだから…?
ははっ…は…はは……




