八十九 ドミニカ、マリアちゃんと飛竜 編 9〈マリアちゃん側のお話〉
レイミィ視点
ドミニカ達が、飛竜の女王と面会している時…
徒歩で飛竜の谷へと向かうぼくは、地面に転がる無数のハーピィの残骸に呆気に取られていた…。
この辺りは、人によって開拓する事ができない飛竜の縄張り。森の様な…森林の様な…樹海の様な…まるで迷路の様な未開の地である
しかも…無警戒ならば、忍び寄る気配に狩られる弱肉強食の世界。
「ほとんど…食い千切られてる…。これ、流石にドミニカ様は関わってないよね…?」
とりあえず、残骸を食べに来ている小物の魔物がいるから火葬する必要はなさそうだけど…
飛竜の谷に近いだけあって、その辺りの関係はしっかりしてるみたいだね
「さて…ぼくも、飛竜の谷に早く行かないとね。」
ぼくは、再び歩を進める
…ん?
…空を…何かが飛んでった?
んー?桃色の物体と茶色の物体が複数って事しか分かんなかったけど…。
飛んでった先…飛竜の谷だ
ドミニカ様は、先に行ったよね?
今のなんだろう?…うーん、まぁ良っかぁー。
木々の合間など周囲を警戒しながら、歩き進んでいると…
ふわーっとぼくの隣に、誰かが飛んで来る
ぼく…かなり警戒してたのに、いつの間に…
「こんにちは~。飛竜の谷に~行くんですか~?」
って…ドワーフの村で、露店を開いていたサキュバスの店主さん!
どうして、こんな所に?
「不思議~そうな~表情~ですね~。ワタシも~用事が~あるんですよ~」
「そうなんですかー?」
「そう~なんです~。」
にこにこ笑顔で答えるサキュバスさん
まぁ、行く場所が同じなら一緒の方がいいよねー。
旅は道連れって言うらしいしねー。
…うん、二人だと色々と楽だね
所々で、魔物に遭遇したりもしたけど…
「よ…っと!」
刃牙虎の鋭い牙をひらりと避け、ぼくはレイピアで脳天に突き刺す
「グガッ!?」
ばたりと刃牙虎が倒れ動かなくなる。
「ふぅー…。」
「流石~です~。ブレイドタイガーを~容易く~倒すなんて~」
ぼくはレイピアを引き抜き、鞘にしまう。
ブレイドタイガー…刃牙虎。ランクB+の魔物、群れの場合ランクA+
切れ味の鋭い牙にて狩りをする獰猛な性格
普通の冒険者ならパーティーで戦うほど危険な魔物で、稀に群れる事もある
しかも、かなり俊敏で単体相手でも下手したら犠牲が出るほどの強力な魔物
ぼくも生半可な刺突剣なら、討伐は諦めて撃退で対応してたからね
…この魔銀製の魔剣レイピア凄い。脳天貫いても刃こぼれも欠けたりもしない。
「魔剣~使い~こなして~ますね~。差し~上げて~正解~でした~」
サキュバスさん、ぼくのレイピアを見て満足そうに頷いてる
…とは、言っても
この人…ぼくの隣を飛びながら、向かってくる魔物を軽く捌いて返り討ちにしてるんだよね…
ぱっと見ても、持ってる剣も普通じゃない…。強力な魔剣ぽいし…何者なんだろう?
ぼくが刃牙虎を一匹倒してる間、隠れてた残りの群れを全て処理してるんだもん。本当に見た目は、メイドさんなのに…
そんな、サキュバスさんの足下は刃牙虎の残骸だらけ…
この刃牙虎は、討伐証が牙二本。
現在の本数…ぼくの二本以外に、サキュバスさんの四十本…合計四十二本。うん、サキュバスさん一人で二十体近く殺ってるって事…。
ぼくの知らぬ間に…
あれ…?これって、ぼく護られてない?
考えれば考えるほど混乱するぼくを尻目に、笑顔のまま隣でふわふわ飛んでるサキュバスさん
ぼくよりも、少し先に進み止まる。…目の前には、小さな野花畑が…。
「あら~?珍しいです~クリスタルビーが~いますよ~」
…え?クリスタルビー?
「あっ…本当だ…。」
ぼく達の進む先に、キラキラと輝く透明な蜂が花畑にひっそりと佇んでる
「多分~花の蜜を~集めてますね~」
サキュバスさんは、一旦飛ぶのを止め陸に降りる
クリスタルビー…水晶蜂。
ぱっと見てもわかる透明な蜂。巣などは作らず、単体で生息し、体内に蜂蜜を貯める珍しい蜂型の魔物。
体内の蜂蜜は希少価値が高く栄養満点、なにより他の蜂蜜と一線を越えるほど美味なんだとか
問題は、この水晶蜂は攻撃力も無く、身を守る事も出来ない弱い存在な上に、その蜜を周りの魔物や他の生物に狙われる為、ほぼ絶滅状態である
ちなみに、物凄く臆病な性格なんだって
「そ~ですね~。出来たら~生け捕り~したいです~」
まじまじと、水晶蜂を眺めて呟くサキュバスさん
確かに、あの水晶蜂は体内に蜜が沢山詰まってる…
生け捕りに出来たら、生きたまま蜜を出させられるし、また蜜を作らせる事も出来る
出来たら、ぼくも食べてみたい。…でも
「確か、クリスタルビーって凄く臆病なんでしょ?ここから近くに行ったら逃げられちゃうよー?」
「そうですね~…う~ん…。まぁ~少し~位なら~見られても~大丈夫ですかね~」
うん?サキュバスさん、なに言ってるの?
サキュバスさんは、屈むと自身の影に手を当てる
「この辺~ですかね~?〈シャドウバインド〉」
目を瞑り、サキュバスさんは闇魔法を発動する
「ぎゅ?…ぎゅぎゅ!?!?」
のほほんとしていた水晶蜂は、自分の影から飛び出た影の鎖に拘束されてる!?
…影の鎖って、闇魔法でも上級じゃなかったっけ?
しかも、かなり精度も強度も高そう…
「さて~。蜂さん~、ワタシの~瞳を~よ~く見てください~。」
…サキュバスさんが、拘束されてる水晶蜂の顔を覗きこみ目を合わせる
「ぎゅっ!?ぎゅっ…ぎ…ゅ…?…」
あれ?水晶蜂の様子が…?
なんか表情がとろーんってして…
…って…あれ?
…水晶蜂の体に映ったサキュバスさんの…目を…見たら…
なんか…ぼく…
「あら~?。こっちの~子にも~魅了が~かかっちゃって~ます~?。少し~強く~し過ぎました~」
ぽけーっと突っ立ってるレイミィの頬を、つんつんと軽くつついて確めるデューナ
「まぁ~、丁度~良かった~ですかね~。」
水晶蜂を拘束から解き、自分の影の中に沈める。
そして…レイミィを抱き上げると、再び翼を使って浮き先に進み始める
「で~、お目当ての~物は~見つかりました~?」
デューナは、進みながら呟く。
「いえ、飛竜の谷の物は見つけましたが…。残念ながら黄色でした」
「そうですか~。本命は~赤色のやつ~でしたよね~?」
いつの間にか、隣に現れてる黒髪の女性に顔も目も向けずに改めて聞く
「はい。…ですが、すでに誰かの手に渡ってる可能性もあります。概ね、運命神辺りが何かしてるでしょうし…」
「あちらは~、先読みが~できますからね~。後手に~回ったら~勝ち目なんて~ないですよ~。はぁ~」
黒髪の女性が答えると、デューナは遠い目でため息を吐く
「その事は伝えたのですが…母様は、双子の妹達の事に夢中なので…はぁー…」
隣からも、深いため息が聞こえる。この人も苦労してるらしい
「…あっ、そうでした。伝えようと思ってた事が…貴方の配下の赤色と青色のカラフルツインテールちゃん、ドミニカにあの短剣使ってますよ?放って置くと、間違いなく死にます」
「えっ…はい~!?どうして~格上に~使うん~ですか~!?!?あの~お馬鹿さんは~も~!!」
デューナはぷんぷんと怒る
そんなデューナの様子を、黒髪の女性は少し見つめた後に、口を開く
「…見捨てたりは、しないんですね?悪魔なのに…。」
「これでも~あの子も~良い駒~ですから~。二人とも~お馬鹿さん~ですけど~」
「まぁ…別にいいです。さて、私は戻ります。…貴方は、急いだ方が良いかも…ですよ?」
デューナの隣に居た黒髪の女性が、ふっ…と茂みに逸れて消える
「じゃあ~、少し~本気で~行きますか~!」
デューナは、魔力を翼に込めて一気に加速する…
魔力を使い、高速で飛竜の谷に向かうデューナ。
到着した時には、すでにドミニカが聖剣を周囲に展開している状態で、聖剣を向けられている赤青ツインテールはアワアワと慌てふためいている
「ん~…。これは~非常に~不味いですね~」
空中の二人と、下の飛竜の女王をデューナは交互に見る
「う~ん…弾いた~聖剣が~落下すると~被害が~でそうです~。この子で~なんとか~なります~かね~?」
デューナは、レイミィを見る。まだレイミィは、ぽけーっとしているけれど…
「仕方ない~です~。ちょっと~ばかし~魔力で~強化~しときますか~」
レイミィの額に指を当て、魔力を送る…。
強化するのは、感覚と反射。
「あまり~強化すると~負荷が~やばいです~から~これ位が~妥協~ですかね~。さてと~」
そして、レイミィを飛竜の女王の上に空から、ぽいっと放る
「じゃあ~、ワタシも~お馬鹿さん~助けに~行きますか~」
剣を片手に、今までよりも速く動き出す
「…はれ?」
ぼく…なにし…
あれ…?ここどこ…?…んえ?
「…え?…なっ…ひゃぁぁぁ」
な…なん、ぼく空中で放り出されてるのー!?!?
落ち…たすけ…
ズッ…スン…
「…あれ?」
…ぼく…生きてる?
“怪我は無い?空から落ちてくるなんて…危ないわ”
ぼくを翼で受け止め、心配そうに覗きこむ赤い飛竜。
どうやら、衝撃を吸収するように受け止めてくれたらしい。
“このままだと危険よ。ほら、貴方もここに…”
赤い飛竜さん、身を守るように丸くなっていたのに隙間を開けてくれる
マリアちゃんも中に居るみたい。
ガキィィン…キィィン…
うん…?
空中で…金属のぶつかる音…?
上空を見ると…空から複数の剣が…
あっ…あの剣、見に覚えある。
あれは…ドミニカ様のコレクションの聖剣!!
…あっ、待って…これ不味くない?
聖剣は、だいたい何でも斬れる剣。
それが…一杯降ってくる…
「聖剣に、抵抗出来るのは…魔剣」
そっと…腰のレイピアを抜く。
…斬る必要はない。…砕く必要もない。今必要なのは、ぼくと下の飛竜さんに当たる可能性のある聖剣を…全て弾く事。
ドミニカ様の聖剣は、性能が最高な物ばかりだった…
ぼくの魔剣の性能が負けてても、弾く位ならぼくにだって…
ちらっと、下の飛竜さんを見る…。ふわぁっ…と、微かにマリアの匂いが…風に漂って香る…
…いや、ぼくがやるしかない!
落ちてくる聖剣の刀身に、レイピアの刃先を突き当てる
「…ぐっ!?」
聖剣と魔剣が反発し合う。
ギィィィ…ン…
聖剣の刀身に刃先を当てた瞬間、レイピアと聖剣の間に激しい衝撃が起きる
「う…ぐぅ…。これ…まるで、爆発…。」
レイピアを持つ手がビリビリと痺れてる。こちらの方が反動が重い…
やっぱり、ぼくのレイピアがやや押し負けてるのか…。
でも…なんとか上手く弾けた。聖剣は明後日の方向に…弾き飛んでる。
「よし、次ぃ…」
レイピアを握り直し、更に落ちてくる聖剣を狙って構え直す。
…なんか、異様に感覚が鋭いような…?
それに…ぼくって、こんなに反応が速かったっけ?
まぁ…いいや。今はこれに集中しないと。




