八十六 ドミニカ、マリアちゃんと飛竜 編 6〈マリアちゃん側のお話〉
ここは、レイミィ視点
ドミニカ様に腕を掴まれたまま、ドミニカ様の魔力に包まれる
ぼくが目を開けると、さっきまで居た場所とは違う小さな部屋の中に移動していた。…ここは宿屋の個室?
「ドミニカ様、ここは?」
とりあえず…ドミニカ様に聞こう
「うん?魔銀鉱山の麓のドワーフの村の宿じゃよ」
やっぱり、宿屋だった。
「さて…儂は少し休む」
隣で、ぼくの腕を掴む手をはなすドミニカ様
そのまま、ベッドに座る
「少し休んだ後、儂はすぐに出発する予定じゃ。魔銀鉱石の件はお主に任せたからな?」
ドミニカ様は、ふぁー…と欠伸をするとゴロンっとベッドに横になり、そのまま目を閉じた
「…ちょっとくらい…匂い嗅いでも…」
そーっと、ぼくはドミニカ様に近寄る
「…馬鹿しとらんで、早よ行け!!」
ぼくの動きに反応して、ドミニカ様は振り向くと目を開き睨み付ける。
「はーい…」
ドミニカ様…気付いてた…。しぶしぶ匂いを嗅ぐのを諦め、ぼくは部屋から出る
「全く…隙見せると、すぐ匂い嗅ごうとする…」
扉を閉めて、耳を当てると部屋の中からドミニカ様の文句が聞こえる。
…だってー、正面から堂々と行くと絶対殴られるしぃー
マリアちゃんだったら、堂々と行っても匂い嗅げるからなぁー
「…少しお仕置」
やばっ…まだ部屋の前に居るのバレてる…!?
逃げるよー
…さて、なにから手をつけようかな
とりあえず、魔銀の裏取引の調査って書いて折り畳んだ紙を目の前を通りすがる男のポッケに入れる
まぁ、通りすがりと言いつつ狼人族の暗部配下だけど。
必ず、ぼくの近くに二人以上居るからね。暗部の変装してる配下。しかもぼくの姿見えなくなると、ドミニカ様の付近と全てのギルド近辺に数人配置してぼくを探す徹底ぶり…
父様も過保護だよねー。ぼく一人に暗部を惜しみ無く使うんだもんね
ぼくよりも、兄様や姉様を可愛がればいいのに…
まぁ国に戻れって言われないだけマシかぁー。
さて、ここには魔銀鉱山もあるし
ドワーフの村だから、鉱山で取れる魔銀を使った鍛冶が本格的にされてる。
武器は勿論、鎧や盾、装飾品なんかも
手先が器用なドワーフだから、だいたい何でも作れるみたい
ドワーフ自身は職人気質だから、鍛冶場から姿を見せる事はあんまり無い。基本的に籠って作業をしてる
そして、ドワーフの作る武具は最低の品質でも一般の量産される武具よりかなり上等な品の物が大半。
腕に自信がある冒険者や貴族なんかが、より良い物を求めるなら必然的にドワーフ産の武具に行着く
…まぁドワーフは偏屈が多く、嫌われる事の方が多いみたいだけどね
嫌われた相手なんかには、作ったドワーフ本人からしたらゴミ見たいな物を売り付ける。って事もあるらしいし
…とまぁ、露店に並べられた魔銀の長剣を眺めつつ
隣で、質が露店に並べられてる物より遥かに悪い長剣を買ってる人族の貴族を横目で観察してる
買った貴族はご満悦だし、幸せなら細かい事は関係ないよねー
「…姫様。これを」
ぼくの横に、フードを被った女性が近寄るとぼくの手に紙を握らせる
そして、すぐに離れる。…調査結果だね
…どれどれ。
うえっ!?…王国の貴族の大半が魔銀の違法取引してるって感じねぇ…
でも、大本は…ブーダペス伯爵か
それ以外の多くを取引してるのは、こいつを軸に王国を囲む領主ばかり…
他は弱貴族ばかり…だし
まるで、王国を襲撃するかのような…
「…レイミィ、何か分かったか?」
わっ!?ドミニカ様いつの間に!?
ビックリした…。もう起きたんですかぁー
まだ一、二時間位しか経ってないですよー!?!?
って、そうだ…調査結果知らせないと…
「これ、調査結果です」
ぼくは、見ていた紙をドミニカ様に渡す
「うむ…。ふむふむ…なるほど………」
ドミニカ様、内容を見ると険しい表情になる
「…ふむ、少々気になるが…戻ってからでないと調べようがないのぅ」
ですよねー。ぼくもそう思ってました。
「仕方ない…これは保留じゃな。」
そう言うと、ドミニカ様はその紙を腰の袋に入れる。
そして、目の前の露店の長剣をじーっと見始めた
「ふむふむ…。魔銀製の長剣か…。品質は悪くないが…良くもないようじゃな…」
うん、ドミニカ様のお目にはならないレベルの品ですよね。これは
「儂のコレクションに追加できそうな…掘り出し物はっと…」
ドミニカ様、周りの商品をキョロキョロと見回して歩き始める
…とは言っても、ここの露店広場にある武器は見た感じだと大差無かったですけどね
まして、ドミニカ様のコレクションほどの名剣なんて…
……あれ?一番奥に小さな露店…あったっけ?
店主がサキュバス…のお店…。しかも、明らかに異質な剣が置かれてるんだけど…
…店主のサキュバスが、こっち見て手招きしてる
ドミニカ様は気が付いてないし…
これは、ぼくが行くしかないよねー
「いらっしゃい~ませ~。こちら~の剣~いかがです~?」
…凄くまったりした喋り方だねー。この人
っで、紹介された剣は…
「こちら~、魔銀製の~魔剣です~。」
さっそく、その異質な剣を紹介するんだね
…って、魔剣!?!?
「これ…本当に…ま、魔剣?」
ぼくの問に、店主はにこりと笑う
「はい~。作られて~まだ日が~浅い物ですが~魔剣~ですから~ちゃんと~成長~しますよ~。」
確か…魔剣とか聖剣とかは、使用者に合わせて武器自体が成長するとか…なんとか…聞いたことがあるけど
ぼく自身は、魔剣や聖剣の使い手になれたことが無いから聞いた噂話しか分からない
それに…魔剣って使用者が魔剣に選ばれた者じゃないと…魔剣に操られるとか…
「大丈夫~ですよ~。この子は~わりかし~大人しい子ですから~」
ぼくの不安げな表情を汲み取った店主が、笑顔で答える
…魔剣に大人しいとかあるのー?
「試して~みますか~?」
店主が、ぼくに魔銀の魔剣を手渡す
「あの…」
試すって…何を?
「魔剣を~認めさせる~コツは~魔力で~強引に~捩じ伏せる~って感じ~です~」
…従えるって感じなのかな?
まぁ、試して良いみたいだし
やってみようかな。
ドミニカ様のコレクションでも、魔剣には触れなかったから初めての経験だ。
聖剣は拒否られるだけだしね
…よし、魔銀の魔剣に魔力を流してみよう
……うん?剣の中に何かいる…?
ぼくの魔力がそれに弾かれてる…
って、めっちゃ暴れまわるんだけど!?!?
これを捩じ伏せるの!?ええ…
…っ!?予想以上に抵抗される…
しかも、抵抗されるとその分こっちが疲労するって…これ負けるとやばくない?
魔剣に操られるって、要は体を乗っ取られるって事だったのー!?!?
「…魔剣に~適正が~ありそう~だったから~試したん~ですけど~。これは~魔剣を~従えそうですね~」
目の前で、魔剣と精神勝負してるレイミィをじっと見つめる店主のサキュバス
「まだ~作りたての~魔剣って~言っても~…。ワタシが~魔剣に~した物~ですから~その辺の~生半可な物~より強いんです~よね~…」
頬をぽりぽりとかく店主。
「この世界の存在する武器の均衡を崩壊させる物を、あまり作らないで貰えます?」
店主の後ろに、少し怒ってる女性が現れる
「それに、適応出来なかったらどうするつもりだったんですか?間違いなく暴走しますよ」
女性が若干、呆れた声で指摘する
ん~…っと店主は少し悩んでから
「ワタシの~方で~強引に~停止させます~」
にこりと店主が笑うと、女性ははぁ…っとため息を吐く
「とりあえず、この件は母様に報告します。」
女性が呟くと、店主がビクリと震える
「……報告~するん~ですか~?」
「しますよ。一応、魔剣聖剣は最終的に国滅ぼせる代物なんですから。まして、大罪持ちの作った魔剣なんてとんでもない物です」
女性の答えに、店主はカタカタと震え出す
「で…でも~」
「駄・目・で・す。諦めなさい」
店主、しょんぼり
「…ですが、まぁこれまでの仕事も纏めて報告しますから少しは良くなると思いますよ」
しょんぼりしてた店主の表情が少し明るくなる
「…母様達も大仕事の時だけ監視するって事止めて欲しいです…全く。彼女達が、心配なのは分かるんですけどねぇ…」
「あはは~…」
目の前で魔剣と精神勝負していたレイミィが、へたりとその場に座りこむ
どうやら、勝負が着いたらしい
「終わった様ですね。では、監視に戻ります。…いいですね?もう馬鹿げた事はしないでくださいね」
店主の後ろにいた女性が、警告すると同時に居なくなる
「いや~…監視の目が~鋭いですね~」
店主は冷や汗をたらしつつ、レイミィに視線を向けた…
……はぁ…はぁ…
これの何処が大人しいんですかー!!
危うくこっちが負ける所だったよぅー!!
やっとこさ…大人しくなったよ…。…あれ?この魔剣こんな形だったっけ?
ぼくが持たされた時は…普通の魔銀製の長剣だったような…?
あれー?銀色のレイピアになってるんだけどー!?
まぁ、ぼくは刺突に特化した狼王細剣術しか使えないから丁度良いんだけどね
「おめでとう~ございます~。」
目の前で店主が、ぼくにパチパチと拍手してる
「見事に~従えましたね~。こちらは~その剣の~鞘です~」
店主は笑顔でレイピアの鞘を取り出すと、ぼくに手渡す
ぼくは鞘を受け取り、レイピアを鞘にしまう
「では~、そちらは~差し上げます~。」
…え?
「…あれ?」
ぼくが顔を上げると、さっきまで居た店主のサキュバスの姿がすでに見えない
…どういう事ー?
…そう言えば、ドミニカ様はどこ行ったのかな…?
周りの露店を見渡しても、ドミニカ様の姿は無い。
…もう出発しちゃったのかなー?
ぼくに一言もなく行くなんて…ドミニカ様らしくないねぇ
もう少ししたら、ぼくも行こうっとー
「一応~、保険は~必要です~から~ね~。」
小さな露店から離れるレイミィを、遠くから店主が眺めつつ呟いた…




