百一 キマイラ戦決着
山羊を斬り捨てた恵は、一息入れず私の所にやってくる
…もしかして、右手の傷見られた?
いやいや、そんな事無いよね。うん
「やっぱり、元に戻ってる」
私の顔を手で掴み、両目をじっ…と見て恵は呟く
うん、戻ってるよー。恵ぅー
「…お気楽」
にへらと笑うお気楽な私を見て、恵は呆れてる
その後、
恵は、私の体の状態を全身くまなく確認しはじめた。
…私の体中、ジロジロと見られてます。恥ずかしいね
っと、この手は見られると非常に不味い。恵が絶対怒る
私は、そっと右手を背中へ隠
「…………右手」
はい、バレました。
恵ちゃん、私の右手しっかり広げて確認してます
あはは…
「…姉さん、これ…どうしたの?」
亀裂…いや、縫われた様な傷痕だね。とりあえず、このまま笑って誤魔化そう
「あはは…」
「あはは…じゃない!!」
恵ちゃん…激おこ。…誤魔化せないかぁ
でも、私もわざと違う。そして、理由も分からんのです
私、恵にどう答えるか考え中…
「……」
「ひゃっわぁ!?」
恵が、いきなり指で傷痕を撫でた。びっくり+くすぐったい
「め、恵ちゃん?」
いきなり、なにすんのー?びっくりしたよーもー
「………」
「ちょっ、止め…ひゃっ」
いや、だから…無言で傷痕を撫でないでーくすぐったいからー
……さては、恵め満足するまで撫でる気か!?
「……この傷…まるで、中から裂けてる…?」
あ、傷の確認してたのね…?嫌がらせかとおも…
……ん?…中から?
確かに、何ともない所が急に裂けたけれども…
………って、だからいつまで撫でてるのーくすぐったいんだってばー
もうっ、止めないのなら…
少し強引に、恵から右手を取り返す!
「あっ…」
恵ぅ、名残惜しそうにするなやぁー
それに、私の事よりも…
「所で、恵の刀さっき光ってたよね?青くうっすら」
私は、恵の黒刀へと視線を向ける。今は鞘に仕舞われてるけども
「そう?気にしてなかった」
恵ちゃん、黒刀を抜いて確認する。
しかし、黒い魔力も、うっすら青く光ってた様子も、残念ながら無くなってる
今は、ただの黒い刀。
「変わってる様子はない。」
恵は黒刀を一目だけ見て、かちゃんと鞘に戻す。
あれー?本当に、うっすら青く光ってたんだけどなー?
「まだ戦闘中なのですよー?怠けちゃだめなのですー」
ラフィーが、タンッ。と空中から勢いよく着地すると、二回ほど跳ねてから私の横にやってくる。
…いや、
勢いが止まりきらなかったみたい。勢い殺しきれずに、少し跳ねて通り過ぎてった。トトッントーンって感じで
「行き過ぎちゃったのですー」
慌てて戻ってくるラフィー
おや?ラフィーの持ってる剣が纏ってた魔力?無くなってる
ただの鉄屑に戻っちゃってるね。ボロボロの鉄剣、と杖っぽい鉄の鞘
…三回使ったっけ?二回だよね?あれー?
「二回振ったら、元にもどったのですよー」
私が剣を見てる事に、ラフィーが気が付き説明しながら剣を私へと渡す
…二回?三回じゃなかったの?
ああっ!もしかして、最初の移動が含まれてるのか
なら、たしかに三回だね
勝手に納得する私。そうとしか、判断できないもんね
そして、キマイラはと言うと…
正直、私達要らないよね。
残る部分は、獅子だけだし。
あの大鎌の子が、軽ーく相手してるんだもん
「加勢は必要ない。正直、私達邪魔」
恵も、同意見。
「なのですー?」
ラフィーはやや反対みたいだけども
加勢に行こうとはしない。
いや、ねえ…
あの子、大鎌の刃を地面からひっこ抜いてから
常に、優勢で遊んでるんだもん
獅子が引っ掻く
それに合わせて、鎌を引っ掻けて爪をへし折る
獅子、怯む
怯んだ隙に、獅子の鼻にパンチ
獅子、怒る
勢い良く噛みつこうとする
それに合わせて、石突きを牙に当ててへし折る
獅子、また怯む
……
これ、加勢要らないよね?
しまいには、髭引っ張って煽ってるもん
……しばらく、獅子で遊んでいた大鎌の子
「ベル、飽きちゃったぁ」
急に、大鎌を獅子の首へと大振りで振るう。
「ギャッ…」
獅子の首が、跳ねられる。ぽーんと飛ぶ獅子の頭
そして、力なく崩れるように倒れるキマイラ。
いきなり、大鎌で獅子の首を狩り取っちゃったよ…。
いやいや、飽きたって……
オモチャ見たいに、弄んで…悪魔みたい…。…って、見た目そのままだった
「さて、っとぉ。これで、お仕事終わりだよねぇ?アスモちゃーん」
大鎌の子が、何もない位置に向かって手を振ってる
…誰か見てるの?
……おわぁ!?足下が光っ…魔方陣!?!?
これって転―――
神界、とある部屋――
恵達がキマイラと戦い始めてすぐ――
この部屋には、フレア・リードが作る天使の素体が並べられている。通称、フレアのお部屋。
フレア本人以外は、フレア・リードに認められた存在しか入ることが出来ない特別なお部屋。
ここで、フレア・リードはクッションの様な椅子に寛ぎつつ、双子の様子を見ていた…。
「…キマイラね」
特に気にする様子もなく、だらけた感じで呟く
テーブルの上にある、ポテチを一掴み…
「……視線感じるわ」
…違和感を感じたフレア・リードは、ポテチを頬張りつつ、雑に置かれていた物を手に取る。
「細工…されてるわね」
フレア・リードの手の中にあるのは、以前ルーファによって取られた恵の片眼
本来なら、すでに機能するはずのない瞳が何故かフレア・リードをジーっと捉えているのだ
「…このままじゃ不便ね」
フレア・リードが恵の片眼に魔力を纏わせる
…白い光に包まれると、眼だった物は小さな人形へと姿を変える
小さな人形、まるで光を模した様な形のお人形。
「ふむふむ、これは私に適した形ですね。」
まるで、生きてるかのように動き出す人形
金色の瞳で手足を確認すると、軽く歩いたりして確かめている
「…で、何か?」
痺れを切らしたフレア・リードは、目の前で体の確認してる人形に声をかける
「おっと、忘れるところでした。さて…」
フレア・リードの前に人形が座ると
真剣な表情へ変わる
「聞きたい事は、あれですよ。あれ」
人形が指を差す
その先には、透明な板に映像の様な感じでキマイラが写っている。
…そのキマイラ…いや、あの黒い蠢く…
「……なんとなく分かってるのでしょう?」
フレア・リードは答えを言わない
その様子を見て、人形は少し考える…。
「…やはり、堕ち神ですか?」
「ええ。まぁあれは、欠片でしょうけど」
人形の答えに、フレア・リードは頷き答える
「それに…この世界のでは無いわ」
フレア・リードが、キマイラをチラッと見る
すると、まるで黒い蠢く塊がこちらを見てるかのように蠢く
「他の世界から、侵入されてると言うことですか…?」
「まぁ、多少なら潰せるから問題無いの。堕ち神と言っても下級のだし。あの位なら、使いの子達でも何とか出来るから」
フレア・リードは、キマイラから視線を離すと、近くの新しい天使の素体を弄り始める
「ですが、あれが仮に世界中に」
「問題ないわ。あれ位なら、今までも侵入されてきたのだから。…確かに、あれは世界を滅ぼす…いや、惑星を死滅させるほどの存在よ。けど、それは抑え切れない位に増えたら…。の話」
「………」
「あれの話は終わり。後処理は……そうねぇ…。ヴェルエ居るかしら?」
「お呼びですか?フレア様」
空間が裂け、女性が現れる
髪は青白く、青いロングスカートで腰に丸い時計を身に付けている女性
両目は深く閉じていて、瞳は見えない。
「ええ、呼んだわ。あれの後処理頼める?」
キマイラを指差す
そのキマイラを見たヴェルエは、首を傾げる
「フレア様、すでにシャールが居るようですが…」
映像が変わり、シャールとデューナが映る
二人は、キマイラの戦いを違う場所から見ているらしい
「シャールは少し抜けてるから…。もし、処理仕切れてなかったらお願いね」
フレア・リードの答えで、ヴェルエは納得する
「なるほど…分かりました。では、失礼します」
丁寧なお辞儀をして去ろうとするヴェルエ
その様子を、見てた人形がスッと立ち上がる
「さて、私も戻らないと…っとぉ!?」
光の様子をちらっと見た人形は、真面目な表情へと変わる
「あらら、長く居すぎましたか…」
人形の視線の先…透明な板には、剣に力を注いでる様子が映ってる。
「あらら、無茶するわね。あの体、神力には耐えられないわよ?」
その様子を見たフレア・リードも呟く
「…そうねぇ」
その後、少し考える素振りを見せるフレア・リード
「ヴェルエ、あなたの神力少し借りるわね」
「…?構いませんが…」
ヴェルエ、少し疑問に思いつつも素直に渡す
そして、その神力を人形へと注ぐ
「一時的に、時を止められるわ。その間に、光ちゃんの亀裂を塞ぎなさい」
トンッと指で人形の額をつつく。
すると、人形がパタリと倒れ
その瞳の金色の光が弱まり、次第に無くなる
動かなくなった光を模した人形。瞳の色は両目共に青い
その動かなくなった人形を拾いあげるフレア・リード
そして、見覚えのある天使の素体の側に置く
「……さて、と」
背伸びをして、再び天使の素体を弄り始める。
と、同時に…
「ねぇ、フレアー?」
空間に亀裂が入り、ルーファが部屋に入ってきた
「…っ!?…ね、ねぇ望。私のお部屋に無断で入るのは駄目」
慌てて、透明の板の映像を消す。…が
…一歩遅かった。ルーファの視線が板の映像を捉えてしまった
「………」
無言で、何も写してない透明な板を見てるルーファ
「の、望?」
ゆっくりと、天使の素体を置き
ルーファから、距離を取るフレア
…大丈夫。望も、ここで暴れちゃ駄目なのは理解してるはず…
そう、自分に言い聞かせるフレア・リード
「…………フレア」
あっ…
これは駄目なやつ
「望おち」
ルーファの体からドス黒い霧が放出される
「フレアァァァァァァァァ!!!!」
「まって、望!?ここで貴女の神力放出させないでぇぇぇぇぇ」
黒い霧に触れた物が次々と消滅し
勢い良く飲み込んでいく。
「と、取りあえず抑えるしかないわっ!!」
即座に、障壁を張る
あの黒い神力を抑えるには、囲んで相殺するしかない
つまり、全力で障壁を張り続けるしかないのだ
黒い霧に触れた障壁がバチッンと弾け、衝撃波が起きる。黒い霧が広がる前に、再び障壁を展開する
「うわぁぁぁん…お部屋がぁぁぁぁぁ」
衝撃波により滅茶苦茶になるフレアのお部屋。
その様子に、涙目になりながら障壁を張り続けるフレア・リード
少しでも緩めれば、部屋の中はこれ以上に悲惨な事になる
「…望様に、怒るからと伝えなかったフレア様がいけないのです」
影に隠れていたヴェルエが、そんなフレアの様子を呆れた表情で眺めていた…




