第八話 無謀なのはわかってる
僕はその時はただただ憂鬱だった。
だってなりたくもない鍛冶屋の工房に行ったところで得られるものなんてまずない。
そんなのまず無意味だ。
母さんは何か得られるかもしれないと言っているがそうとは思えない。
そして僕は鍛冶屋の工房に行く。
行く手段は歩いていくがその時はただただ何もなく歩いていた。
別に足が重いというわけではないが別に足が軽いわけでもない。
どうでもよいが一番近いのだろうか。
そして行く途中にもほかの同級生たちの声が聞こえてくる。
「あのデネン・ブレンの工房にいけるんだぞ。むっちゃ楽しみだな。」
「そうだよな!だってデネン・ブレンと言えば剣を作った剣士全員がキングオブサクリファイスの称号を手に入れた名工だよな。」
その言葉を聞いて僕はどうだろうと思った。
だってそんなのごく一部どころかデネン・ブレンさん一人以外一生出てこないではないかと思っているからだ。
だって本物の鍛冶屋の世界はとてつもなく厳しい。
鍛冶屋の学校をものすごい努力の上、受験をして受かるのは1パーセントでしかもその先の卒業まで行けるのもその1パーセントの中の1割だ。
そんなことを考えていると工房についた。
その工房はそこまで大きくなかった。
僕のイメージだと様々なキングオブサクリファイスを支えた伝説の鍛冶屋の工房と聞くとやはりちゃんと設備がとてつもなく整っていて大きな工房なのだろうなと想像していたが実際は、一階建ての家一つ分ではあるが家にしても小さいぐらいだった。
そしてそこにいたのは明らかに木の定規一つ分ぐらいの長さのひげがある仙人みたいなお爺さんだった。
その人は私たちにまず話した。
「こんにちは。私がここの工房の持ち主のデネン・ブランと言う。よろしく。」
僕たちはその挨拶にこたえた。
「よろしくお願いします。」
そして工房の中に入っていく。
そこには大きなかまどや金づちなどもあった。
そして僕らは鍛冶屋の職人技を見せてもらった。
その様子を見たみんなはまさに尊敬のまなざしをしていた。
しかし僕は違った。
僕にとってはそれは当たり前だと思った。
だってこのような人々は毎日努力を惜しまないのを何十年も続けたその先の今だと考えているからだ。
その領域に達するためには何年たつのかわからない。
その領域までの努力を僕は果たして続けることができるのか。
そしてその様子を見た後に工房を見学させてもらうことになった。
僕はいろんなところを見てみたがあるものがないことに気づいた。
それは自分が作った剣を置いていないことだ。
普通の鍛冶屋は剣をつくったらそれを置いていてもよいものだがこの工房にはそれが一切なかった。
その様子を見て察したのだろうかデネンさんは僕に話してきた。
「剣はないよ。」
「なんでですか?」
その言葉にデネンさんは答えた。
「私は鍛冶屋だ。私は常に剣士のために良いものを作るのではなく常に剣士にあった最高のものを作りそしてそのものを超えるものを作る必要がある。たった一度作った名作の剣を飾ってたらそれはいつしか傲慢を生み怠ってしまう。さっきも言ったが鍛冶屋は常に最高の作品を更新し続けなければならない。たとえ一時は名作だとしてもそれは未来でみれば名作ではない。そんな剣を私は置いとくわけにはいけないのだ。そしてその永遠に続くであろう真価は私が死ぬときにはじめて終わるものなのだ。」
その言葉を聞いて僕は思った。
かっこいい。
まさにこういう人が鍛冶屋にふさわしい人間なんだろうな。
こういう一度の名作に縛られないストイックな所はまさに職人の鑑ともいえる。
剣士のために最高の剣をつくろうとする姿勢や死ぬまで成長しようとするその努力を惜しまないまさに頂点のない努力を最悪永遠に続くのにそれを永遠に続けようとする感じだ。
僕も思っていたがまさかここまでのことを思っていたまでは予想もできなかった。
その様子を見て僕は思った。
かっこいいと。
そして僕は今まで一度もなりたいと思ったことのない鍛冶屋というものにあこがれを覚えた。
でも僕はまだ鍛冶屋になりたいとまでは思わなかった。
そして僕はデネンさんに聞いた。
「すいません。なんで鍛冶屋になろうと思ったのですか?」
「どういうことだい?」
「鍛冶屋という職業は簡単に言ったらとってもなるのが難しい職業です。さらにその中でも鍛錬を永遠に続けなければならない職業です。それなのになぜなろうと思ったのですか?」
「うーん。そうだな。」
そうしてしばらくするとデネンさんは答えた。
「そうだね。確かにそう思われるのも無理はない。でも言わせてもらうと私は剣士を支えたいんだ。そして私が支えた剣士がキングオブサクリファイスになった時、とてもうれしかった。なんというのかなあの時は誰にも分らないかもしれないけど有頂天になれるんだ。そしてそのタイミングはやはりそれ以上の幸福はないと思う。僕はその幸福を見たいからこそ頑張れるんだ。そして剣士もそれにこたえて頑張る。そうなるとやはり剣士を支えている。この職業というのは僕にはそんな魅力があると思うんだ。」
その言葉を聞いた後、僕はしばらく何も考えられなかった。
そして家に帰った後、僕はこう言った。
「僕は世界一の剣士の鍛冶屋になりたい。」