第8話 魔法の仕組み
魔王国の手先を拷問したところ、意外と有益な情報が得られた。
まず、魔王国が俺を狙っている事。これはさっき気づいた。龍馬に化けたのは、俺を潰そうとしていたからだろう。いくら生命魔法で探知しているといっても、そこまで細かくは探知していないのだ。それこそ、人間族と魔人族を見分けられないぐらいには。
次に、龍馬の居場所だが──あいつは魔王国に捕らえられているらしい。いや、正確にはまだ移動中なのだが。ちなみに魔王国はシースルー王国から東に数百キロメートル離れた場所にあるらしく、早馬でも二週間はかかるそうだ。その距離だと俺も半日くらいはかかりそうだ。転移は出来なくとも補助魔法や時流魔法があるが、エネルギーを消費する事に変わりは無い。それに、精神的な安らぎも必要だ。
そして、今回で一番の成果が──
「ま、魔王国、は、異種族の、隷属化を目指して、いる。我が神、の封印を解く、ために、だ」
──魔王国の目的。これはかなり貴重な情報だ。これで一応強硬突破という択が取れる。最悪俺達が勝てなかったとしても、神とやらの封印を解かさないために、全種族を保護すれば良いのだから。
……そういえば俺達の保護や帰還についてはどうなっているのだろう。ロード王からはまだ一度もその類の話は聞いていない。うちのクラスはお人好しが多いため、何かノリでやってる雰囲気があるが、そろそろ疑問を抱く奴がいてもおかしく無い。後で少し募ってみよう。
ちなみに、拷問した魔人族は後でしっかり殺っておいた。情報源を絶つのは、情報戦の基本だからな。
……さっきから何か冷ややかな視線が刺さるが、俺は元々殺しには慣れているのだ。情をかけていればすぐに捕らえられるような状況だったからな、慣れるのも仕方ない、仕方ない。
こうして、騒がしい朝食は、血の匂いを残して幕を閉じた。
場所は変わって、俺達は訓練所──といっても森だが──に来ていた。目的はもちろん訓練だが、俺としてはもう一つある。それは──
(この世界の魔法はどのような原理なのか。それがわかれば戦況はかなり変わるはずだ)
一応俺が使う魔法について説明すると、要は『魔力』という『エネルギー』を、『術式』や『魔法陣』で別のエネルギーに変えているだけなのだ。ただ、変えるエネルギーが『破壊』や『亜空間を動かすためのエネルギー』など、ちょっと変わっているだけで。ちなみに、術式や詠唱はあくまでエネルギーの変換を助けるためで、エネルギーの変換効率も悪くなるので、実はそんなにいらない。
ともかく、昨日の訓練の際、水奈などが使う魔法に少し違和感を覚えたのだ。そのため、今は訓練をしている様子を見ているというわけだ。
ちなみに龍馬に関しては、別に放置でも良いだろうという結論が出された。俺が時間に関係無く追いつけるというのもあるし、龍馬が自力で戻ってくる事も十分に有り得るのだ。脳筋だからな、HAHAHA。
「──おっと、水奈の番だ」
今回の観察対象は水奈だ。もちろんサンプルは多いに越した事は無いが、いかんせん俺達は地球人のため、魔法の素質がある者が少ないのだ。中には水奈のように潜在的な素質を持っている者も何名かいるが。
とりあえず水奈が魔法を行使するところを見ていると──
「……んん?」
おかしいのだ。水奈は詠唱こそしていたが、原理自体は俺のと同じだった。なのに、明らかに使う『魔力』の量が俺の比じゃないのだ。
(最近は詠唱なんてしていないから一概には比べられないが──それでも多すぎる。しかも変換のロスが大きい。こんなのじゃ、勝てるものも勝てないぞ)
使う魔力が多いという事は、それだけ魔力の枯渇が起きやすいのだ。魔力枯渇は命に影響こそ無いが、筋肉などを補助する魔力──強化魔法や弱体魔法はこの魔力に影響する──すら無くなるため、急に動きづらくなり、戦地では本気で死にかねないのだ。
それに、変換ロスも大きい。俺なら詠唱でもおそらくロスは10%程度に抑えられるが、今の水奈は見た感じエネルギーの40%は無駄にしているのだ。
(まさか、昔の俺もあんなんだったのか?これは──相当訓練してもらわないとな)
俺が戦力として期待出来るのは、俺の強さを基準に約60%程度の強さだ。今の水奈だと少し申し訳ないが、ちょっとした魔力のスタックぐらいにしかならないだろう。
「──あっ!紅蓮君、どうだった!?」
「あー…えっと……うん、すごく良かったと思うぞ」
実際、水奈の魔法はクラスでも優秀な部類なのだ。まあ魔法に関しては俺が一番だが。
ただ、これが『優秀』かと言われると、少し悩む──そういえばソウルカードの『技術』は魔法の扱いも含むと書いてあったな。確認するか。
「なあ、水奈の『技術』はどれくらいなんだ?」
「私?私は──170くらいだったよ!すごいでしょ!」
「あー、うん、そうだな。すごいすごい」
「……何か馬鹿にしてない?」
「気のせいだ。俺は──」
確か俺の『技術』は429だった気がするのだが、一応こっちも確認するか。ソウルカードを取り出し、軽く念じる。
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命夜 紅蓮
《スキル》
筋力 273 ・四元魔法 ・魔法文字解読
俊敏 292 ・光闇魔法 ・魔法合成
魔力 8284〔8284〕 ・生命魔法 ・魔法創成
魔攻 5506 ・物質魔法 ・魔力化
魔防 5972 ・時流魔法 ・言語理解
技術 442 ・空間魔法 ・精霊の愛
・補助魔法 〔四元・派〕
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……うん、知ってた。ただ、いくら分かっていても、やはり酷いと思う。
とりあえず俺の『技術』は──
「……220だな」
「442って書いてあるけど?」
「いや、俺の『技術』は220だ。良いな?」
「う、うん。……嘘つき」
よし、ごまかせた。最後水奈が何か言っていたが、気にしない、気にしない。
それにしても、170か。低いな。せめて俺の半分は欲しかったのだが。
「……水奈、後で俺の部屋に来い」
「へ?何で?」
「少しやりたい事があるんだ。2人きりの方がやりやすい──あっ、バレないように天空魔法で音を遮断しとこう。これはちょっと人に話せないからな。……って水奈?」
「えっと……ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いします!」
「水奈?」
俺がやりたいのはちょっとした特訓なのだが──まあ、来てくれるというのならちゃんとやるが。
──水奈──
(ぐ、紅蓮君、あんな事──昼間から、その、そんな事しちゃうの!?)
先程紅蓮君から「部屋に来い」と言われたが、文面から何かとんでもないお願いをされた気がする。
だって!2人きりで「音を遮断しよう」とか完全に何かヤろうとしてるよね!別に紅蓮君なら良いけど!
(と、とりあえず水浴びして、それから、下着?どこ、だったけ?──!?)
とてつもなく混乱しているその時、目に入ったのは──
(──寝間着用の、ネグリジェ)
私は、そのネグリジェを持って、水浴び場に急行した。
ヒーリア「ネグリジェ……水浴び場……はっ!グレン様の部屋に!」
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