第5話 力の片鱗
短いです
時流魔法 月読は、使用者の魔力を消費し、その分自分を除く物の時間を止める魔法だ。空間魔法や生命魔法はより正確な魔力操作が求められるのに対し、この魔法は純粋な魔力量が求められる。だが──
(ソウルカードには俺の『魔力』が8271とあったが、少し違うな。俺の魔力量は実質無限だから、月読も無限に使える)
種明かしをすると、土魔法の『極み』に位置する《魔力魔法》のおかげで、魔力を無限に作れる──吸収と言った方が正しいが。
(この世界の生物には必ず魔力が宿っている。自分の魔力が無くても周りの魔力がある。使える物は使わないとな)
もう自重なんてしない。手加減をしたせいで仲間が──水奈が危険なのだ。こんな事を言ったら親友だと言っているような物なのだが、俺も水奈の事は認めてはいる。だから助ける。それだけだ。
(まずは固定魔法で水奈達の前の錠前だけを残して時間を固定。次に物質魔法で錠前を破壊。最後に腹いせに衛兵を思いっきり蹴る)
時間魔法は物の動きも止まるため、派生の固定魔法で一部の時間を固定する事が出来ないとなかなか不便なのだ。ただし、それを利用して一瞬でありえない量のエネルギーを与える事も出来るが。「ゼ○ダの伝説」のビタロックみたいな感じだ。
(というかどうやって水奈達を閉じ込めたんだ?……魔道具を見落としてた。これを破壊した方が早かったな)
ちなみに俺はゲームでいう「効率厨」と呼ばれる者に似ている。前はとにかく早く行動する事が大事だったからな。
(破壊して、月読解除)
瞬間、周りの目には、紅蓮が一瞬で鉄格子の中に移動し、絨毯がずれ、勇者達を閉じ込めている鉄格子の錠前と魔道具が破壊され、近くの衛兵が吹っ飛んだ──という事が同時に起こっただろう。数秒経ってロード国王が口をあんぐりと開けている。良いアホ面だ。
「貴様!何をした!」
「別に。俺が出来ることをやっただけだ」
「嘘だ!人間にこんな事出来る訳無い!」
「……人間辞めた奴に何を言っているんだよ」
「!?」
実際自分でもやってる途中「これ人間辞めてんなぁ」とか思ったりもしたが、水奈達を助けるためなのでしょうがない。というか地味に龍馬も捕まえられていたが、おそらくロード国王に告発してそのまま捕まったというところだろうか。
「そうか……貴様さては魔人族だな……?」
「違うね。ただの化け物だよ」
「そうか!貴様は化け物か!ならば殺さねばならんなぁ!」
……疑ったり脅したりでこの人も大変だなぁ。とりあえず、こちらに向かってくる近衛兵は全員光魔法の『極み』の《精神魔法》で木偶の坊にしておく。
「な、何をした!」
「ちょっと兵士の精神を」
「な……化け物め!」
……久しぶりにその呼び方をされたな。まあ、今さら関係無いのだが。
とりあえず、今考えた事をロードにふっかけてみる。
「さっきからそう言っているじゃないか。それでさ──少し取引をしないか?」
「……取引、だと?」
「そう。取引内容は2つ──1つ、俺が何をしても許すこと」
「ふざけるなっ!」
「何も分からない内に襲われたんだぞ?かなーり譲歩してるんだけどなぁ」
そう言って、《爆炎魔法》と《嵐魔法》の複合魔法をちらつかせる。すると、すぐにOKしてくれた。とても憎々しげに睨んできたが。
「2つ目は、俺と俺の仲間に手を出さないこと。これを守れば、あんたらには手を出さない。これでどうだ?」
「くそっ……良いだろう」
「なら決まりだな!それじゃ時間だし、皆で夕食を食べようか!」
そう言って、俺達はいつも通り夕食を食べに行った。
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「くそっくそっくそっ!」
「こ、国王様……一旦落ち着いてください……」
「これが落ち着けると思うか!あの化け物に計画をぶち壊された上に、もうチャンスが無いんだぞっ!」
私は化け物が王室から出ていった後、心を憤怒に染めていた。その時、王家専用の扉が開いた。
「お父様、どうしたの?」
「……フロートっ……」
「ねえ、どうし──」
「うるさい!お前さえいなければ!お前がいなければあの化け物を取り込むチャンスがまだあったのに!」
「ばけものってだれ?」
「お前に言い寄ってたあのグレンとかいう奴だよっ!」
「──グレンをいじめちゃだめ!」
何なのだ、こいつは。何故王である私に反抗しているのだ。
そもそもだ。フロートがグレンと一緒にいなければリョウマ殿が告発する事も無かったはずなのに。そうすればまだ考えられたのに。
「──親子喧嘩は良いけど、あんたはもう親じゃ無いな」
「──!?」
「グレン!」
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何かうるさかったので王室にこっそり入ってみたら、このざまだ。もうこいつに王の資格は似合わない気がするな。
とりあえず抱きついてくるセルルカを受け止めつつ、俺はロードに聞きたかった事を言ってみた。
「──何故俺を捕らえようとした?」
「貴様!どこから──」
「『取引』を忘れたか?」
「くっ……」
そう。『取引』は既に成立しているのだ、もうシースルー王国では俺が何をやっても許されるのである。もちろん犯罪はしないが、犯罪紛いの真似はするかもしれない。そう思っての取引だ。これを忘れられたら困る。
「それで?どうなんだ?」
「……我が国では兵力が足りない。そのために──」
「戦争をしているというのは聞いた事が無いぞ?備えあれば憂いなし?友好的なのに?ただ自慢のために俺を欲しがったんじゃないのか?勇者を手駒にしているのはなかなかなアドバンテージだからな」
「──くそっ!」
お尋ね者時代には、どうやって殺すかの『策略』の戦いだったのだ。こんな推理どうって事無い。
「黙れ。手を出す相手を間違えたな。そんじゃ、聞きたい事は聞けたし、また夕食食ってくるよ」
「グレン!私も行く!」
「そうか。じゃあセルルカは預かっておくよ──親の役目位は果たせよ」
俺は今、セルルカに親近感を抱いていた。似ているのだ、今のセルルカは、親に捨てられた頃の俺の境遇に。ただ1つだけ違うのが──
「後で『あーん』して!」
「……はいはい」
──自分を助けてくれる人がいるかいないかだ。
後で水奈に怒られそうな予感を感じつつ、俺は食堂へ向かった。
主観しか書いてない事に気付いた。