プロローグ 命夜 紅蓮の自由
──夜の新宿の路地裏に、音が響く。雨音と、複数の走る音。そして──
──暗闇の中で、光が爆ぜる轟音。
その様子はまるで魔法のよう、否、実際に魔法なのだ。7歳の少年が起こした、地球ではありえない超常現象。その中でも最大威力のそれを、なんの躊躇いも無く人に向かって撃っていく少年。
そんな事をしたら路地裏が潰れると思うが、まるで何もないかのように家屋はたたずんでいる。
代わりに少年の視界に写ったのは──
「化け、物、め……」
少年を化け物と呼び、息絶える国の特殊部隊だった。
国の特殊部隊──つまり、少年は国に目を付けられているのである。ただ、今も少年がいつも通りそれを屠った事から、かなり手を焼いている事が分かる。
何故、自分だけが理不尽を背負わされるのか──そう思った少年は、過去に思いを馳せ始めた──
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その少年──命夜 紅蓮は、何の変哲も無い、ごく一般的な家庭に生まれた。普通に育ち、普通に友達と遊びながら、幼稚園では子供達のリーダーのような存在になっていた。
そんな紅蓮は、5歳のある日、人生が変わる──変わってしまった。
子供達にたいへん人気の料理を作る、食堂のお婆さんが火傷を負ってしまい、給食が作れないという事態になったのだ。
悲しむ子供達と、苦しむお婆さん。
紅蓮は、強く、願った。この子達の涙は見たくない。お婆さんが苦しむ姿も見たくない。──火傷を治せれば。
結果としては、お婆さんの火傷は治った。しかし、その代償は、あまりにも大きすぎた。
紅蓮は、魔法を発動させてしまったのだ。大人達にどうしたのか聞かれると、魔法が出来た──そう言ってしまった。その言葉のせいで──
──紅蓮の人生が狂うとも知らずに。
その後は、急転直下どころではなく、フリーフォールばりの角度で人生が落ちていった。
まず、国に目を付けられた。そして、指名手配のようなものを受け、完全にお尋ね者になってしまった。
次に、両親がいなくなった。こんな化け物と一緒にいれば、命がいくつあっても足らないと判断したのだろう。薄情だが、賢明な判断だった。強い怒りを覚えながら、当時の紅蓮はそう思わざるを得なかった。
最後に──紅蓮が狂った。両親も含め、誰からも『信頼』を得られなかったからだ。そして、狂った末に辿り着いた結論は──
──俺の人生を邪魔するなら、全員爆ぜろ。
という、5歳の少年には重すぎる決断だった。
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あれからは、さらに狂ったように魔法の研究を始めた。本屋から広辞苑を盗んで日本語を大人顔負けになるまで勉強し、その知識と魔法の効果を照らし合わせて魔法文字の解読を必至に行った。
魔法の使い過ぎか知らないが、魔力が体に常に循環するようになり、髪は茶色く染まり、瞳はどこまでも紅くなり──挙げ句、右目は金色に光り出した。
泊まる場所は無く、見つかれば即通報。食べるものも少なく、やはり盗むしかなかった。
通報されたら、即実験の開始。成功すれば手札が増えて、失敗すれば最悪死に至るという極限状態で、紅蓮の心は更に壊れていった──
数ヶ月後、遂に総理大臣に降伏宣言をさせ、紅蓮に自由な生活を保証させた。紅蓮に、流石に関係ない人までは巻き込まない程の良心は残っていたのが日本の救いだ。
しかし、二年間の雪辱を果たした紅蓮の心情は──
(……)
冷め切っていた。
それもそのはず、今までの紅蓮の行動原理は、「邪魔する奴を全員殺す」という物だけだったのだ。とうに心が壊れた紅蓮には、行動原理を失ったのと同時に、生きる意味を失ったのと同じだった。
それでも、紅蓮は生きようとしていた。何かする事は、自分に幸福を与えてくれる物は──そうやって自分を探し回った結果は。
紅蓮を、さらなる残酷の道へと進めた。
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そうして、ただひたすら魔法を研究する日々。月日は、紅蓮が勝利してから既に5年が経っていた。
変わらないままの周囲の心。増えていく一方の知識。一時暇だからと買ったテレビも、今やただの実験道具と化していた。
実験道具というのは、紅蓮がその技術を魔法で再現するために使っているのである。そして今も、紅蓮は電波を魔力に変え、情報を魔力のスクリーンに写す──といった事をしていた。
しかしこの日、紅蓮が見たのは──
「……何だこれは」
──明らかに平面で描かれているはずなのに、人が動いて立体感を出す。絵が喋っているかのように声が聞こえ、その掌からは火球が飛び出す。
──異世界物のアニメーション。
この日を境に、紅蓮に笑みが戻っていった。
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そして現在、紅蓮が勝利したあの日から実に──
「10年……か」
今、現世の魔法使いがチートする異世界冒険、始まる──かも?
初投稿です。読んでくれた方は、感想や評価などをしてくれれば嬉しいです。また、初心者なので、誤字、脱字などがあれば、是非教えてください。待っています。