AО
痺れるような全身の痛みが少しずつ消えていく。
もう目を開けよう――もし此処がいつもと変わらない景色であったとしても。
目を開けようとして、ふと匂いがした。
灰色の匂いだった。
救い難い予感が頭をよぎる。
もう恐れるのはやめよう――翳む目を精一杯見開いて変わらない絶望があったとしても。
僕の目に映った世界は……灰色だった。
黒い大地と白い瓦礫の山。
今までの現実と変わらない灰色の景色が広がっていた。
『諦め』という、いつもの感情に支配されていく。
そんな自分の身体を覆うように一陣の風が吹いた。
その風は灰色の匂いを吹き飛ばし、倒れたままの僕を荒らしく持ち上げた。
僕は風に引っ張られるように起き上がり、その覚束ない足元を必死に踏ん張り、雄叫びを上げて天を仰いだ。
そこには空があった。
そこには灰色ではない景色あった。
そこには初めて見えた世界があった。
僕は知らなかった……それでも直感で理解した。
これが、これが――青い――空。
こんなにも深く雄大で、光は爽やかで清々しく、全身の肌で直に感じる風は冷たくもそれでいて暖かい。
この世界で初めて見た空は、想像していたよりもずっと美しかった。
それでも、この空の青は本当の色でないのだろう。
1つの夢を叶えた僕は、すぐに新たな夢を得た。
本当の空を見よう。
この青よりももっと濃く鮮やかで吸い込まれそうな青を見よう。
僕の名前の意味を、その意味を見ることができる今の僕の眼で確かめよう。
そうだ、そのために新しい僕に名前を付けよう。
同じ名前でもいいかもしれない、でも新しく生まれ変わった僕は以前の僕ではないだろう。
新たな夢を叶えるという決意を込めて僕自身が名付けよう。
僕が名前を決めた時、吹き続けていた風は近くの瓦礫を崩した。
いや、風だけのせいではないようだ。
その瓦礫の隙間から人の声と、伸ばす肌色の腕が見える。
新しい世界の新しい自分が出会う最初の人。
新しい全てに挨拶をしよう。
そして始めよう、冒険を!
きっと全てが刺激的で感動的な出会いになるだろう!
僕はその手を掴み、力一杯引き寄せた。
「初めまして! 僕の名前は――AO――。これから大地を目指して塔を下り、蒼天を見上げるために雲を払う――僕はここの全てにそう誓うよ」
プロローグ アオイソラ