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水兵チョップ海を割る ~西の島国の英雄譚~  作者: マックロウXK
第五章 名も無き英雄

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真の王

「何っ!?」

「チョップくん!?」

「サン・カリブ王国では国内での殺人は最大の禁忌。僕は罪を犯しておきながら、それを今までずっと隠していました」


『なんだと……!』

『あの、戦えないポンコツ水兵が?』

『まさか!?』


 先ほどまでの和やかな祝賀ムードから一転、ざわざわざわと場内騒然となる。


「そのうえ、前科者には水兵団員になる資格など無いのに、僕は過去を偽って水兵団に入団しました」

『えっ!?』


 整列している水兵団員たちからも、驚きの声が上がる。


「僕は国のみんなを(あざむ)いた罪を償うため、この戦いで命を捨てるつもりでしたが、とうとう死ぬことができませんでした。もし、今回の事で恩賞をいただけるのであれば、僕は『死』を賜りたいと思います」

「なんと……!」


 その昔、聖者カリブに救われた奴隷たちは無人島からサン・カリブ王国を興した際に、『人を殺せば死刑。人を傷つければ処罰。物を盗めば処罰』という簡易的な三つの法を制定した。


 これは、王に至るまで全ての民に処されるもの。いわば、サン・カリブ王国の『平等』の象徴である。


 もちろん、法については後から条項を増やしてはいるが、最初期に定められた基本の三条は単純明快だったためか、サン・カリブ王国民はこれを良く守り、建国からの五百年の間に凶悪な犯罪はほとんど起こっていない。


「国王様、王国内の殺人は、水兵団の防衛行為などの一部例外を除いて『死刑』が通例ですぞ」

「うむむ……。しかしだな……」


 (しゅん)(じゅん)するマルティニク王に、執事長のケイマンはあくまで感情を入れず進言する。


「待って!」


 ひざまづいて罰を乞うチョップの前に、薄桃色のドレスをひらめかせ、両手を広げた少女が立ちふさがる。


「マルガリータ?」

「チョップくんは悪くないの! 七年前のあの時、わたしが誘拐犯から襲われそうに……、ぶっちゃけ強姦(レイプ)されそうになったところをチョップくんが救けてくれたの!」

「なんですと!?」


 マルガリータ姫の発言に驚く国王。しかし、それより先に執事のケイマンが声を上げる。


「それで、お前は……、その……」

「わたしは大丈夫! 何もされてないわ」

「そ、そうであったか……」

「そうだったのか…………。良かった……」


 ほっと胸を撫で下ろすマルティニク王。執事長の目には涙すら浮かんでいる。


「チョップくんが身を挺して護ってくれたから、今のわたしがここにいるの! だから、チョップくんを罰するのなら、わたしも同じ罰を受けます!」


 青い瞳に涙をためて、必死に無罪を訴えるマルガリータ。

 だが。


「むむむ……。しかし、それを聞いてますます彼に手心を加える訳にはいかなくなった。王族のためだったからと言って罪を減ずるような事をすれば、『全ての命は平等たるべし』を第一義とする王国自体が成り立たなくなる」

「そんな!?」

「お待ち下さい」


 彼らの元に、ジョン水兵団長が歩み出る。


「おじ……いや、団長……?」

「国王様、七年前のその事件、私はすでに犯人がチョップだと分かっていました」

「何っ!」


 ザワッ、とさらに観客たちに動揺が走る。


「幼い頃から、戦闘において優れた素質を持っていた彼が、犯人たちを(たお)したのだろうと容易に想像できました。ですが、その時チョップはまだ年端もいかない子供。私には罪を問う事は出来ませんでした」

「団長……」

「チョップ、今まで黙っていて悪かった。だが、前にも言ったが、悪党の命までお前が背負う必要は無い」


 ジョン=ロンカドル兵団長はチョップに微笑みかけ、国王に向き直ると。


「全てを分かっていながら見過ごした、私にこそ罪はあります。刑を処するならば、どうか私を」

『ちょーっと、待ったー!!』


 すかさず手を上げ、声を上げるのは水兵団員のトーマス副隊長とチャカ。


「もし、チョップや団長に重い処分を下されるのなら、団員の罪は俺たちの罪。我々も刑罰を負います」

「オレら水兵団、死ぬ時は一緒でっせ! なあ、みんな!」

『『『元よりっ(シーセニョール)!!』』』


 スワン副団長以下、セーラー服のマッチョメンは一致団結して連帯責任を負おうとする。


「いや、さすがに水兵団全員を処分する訳には……」

「話は聞かせていただいたわ!」

「まだいるのか!?」


 国王が驚愕の顔で声の方を向くと、そこに現れたのは十代から四十代まで揃った、メイドさん四天王!


「そんな美少年を死なせるのは国家の損失。私たちのガーターベルトに免じて赦していただけないでしょうか?」


 あっは~んとしなを作って、国王に色仕掛けをするメイドさんたち。


「いやいや、あんたらまで来ると話がややこしなるから、引っ込んどってえな」

「えっ? えっ! ちょっと待って!? 私たちの出番はこれだけ!?」


 残念ながら、四天王はまとめてチャカに舞台の袖に追いやられる。

 そして、執事長のケイマンも前に進み出る。


「あの……、私からもお願いいたします。彼に何とぞ寛大なご処置を。場合によっては私が身代わりになっても構いません」

「ケイマン、お主までも……」


 これが、チョップの人徳がなせる業なのか。

 観客の中からも「俺が代わりに罰をうける!」「俺も」「俺も」「じゃあ俺が」『どうぞどうぞ』と、会場にはもう許してやってもいんじゃねという空気が流れる。


『待って下さいっ!!!』


 だが、その雰囲気を薙ぎ払い、チョップが雷鳴のように声を上げた。


「気持ちは大変ありがたいのですが、これは僕が犯した大罪。皆さんにご迷惑をかける訳にはいきません。国王様、どうか僕に公正なお裁きをお願いいたします」


 一人甘んじて断罪を受ける覚悟のチョップに、会場の全員が押し黙る。

 壇上のサン・カリブ王国国王マルティニクはしばらく瞑目したあと、ゆっくりと口を開く。


「わかった……、判決を言い渡す」



 水を打ったように静まりかえる場内。全ての人間が固唾を飲んで見守る。


「王国内での殺人は、平等の名の元にいかなる理由をもってしても刑を免れる事は無い。よって、水兵チョップを『死刑』とする」

「ありがとうございます」

「そんな……!」


 潔く礼を告げるチョップと、口を押さえて信じられないとわななくマルガリータ。

 ザワザワザワと水兵団からも観衆からも、不満の声が漏れ聞こえる。


「だがっ!」


 間髪入れず、マルティニク王は言葉を繋ぐ。


「彼がいなければ、サン・カリブ王国は間違いなく滅んでおった。彼が王国を救ったのは紛れもない事実。よって、殺人の罪も国を守った功も全て棒引きし、一切何も無かった事とする!!」

「えっ??」

『ということは……?』


 チョップは英雄として遇される事は無くなったが、同時に犯罪者として扱われる事も無くなる。

 すなわち、事実上の無罪放免!

 ウオオオオオオオオオオーーーーーッ!! と観衆から一斉に凱歌が上がり、パチパチパチパチと終わりの無い拍手の音が響き渡った。


『さっすが王様、話が分かるー!』

『大岡越前も真っ青!』

『マルティニク国王、ばんざーい!!』

「あ、あの……」


 言いかけるチョップを、ジョン兵団長は制し。


「寛大なるご英断、ありがとうございます」

「うむ」

「良かったね、チョップくん!」

「う、うん……」

「どうやら、不満のようじゃのう」


 マルティニクはチョップにずずいと歩み寄り。


「これで物足りないのならば、もう一つ条件を加えてやろう。『自ら命を絶とうとするな』」

「え……?」

「こうでも言わなければ、お主は一人で死ぬつもりであったのだろう? じゃが、ワシはお主のような男を死なせたくはない。生きてサン・カリブ王国のために尽くせ。そして、これ以上の抗論は許さぬ。分かったな?」

「…………はい。承知しました」

「よし。この件に関しては、これにて本当に手打ちじゃ」


 ようやく一件落着を迎え、マルティニク王は満足げに笑う。

 再び和やかなムードが戻った会場。

 だが、観衆はまたしても驚きの光景を見る事となる。


「では、そろそろ本題に入るとするか」


 やにわに国王はチョップの元にひざまづき、誰もが耳を疑う口上を述べた。


「五百年の間、御帰還をお待ちしておりました。我らが王」

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