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水兵チョップ海を割る ~西の島国の英雄譚~  作者: マックロウXK
第四章 神話再来

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世界の黄昏

 突如、海底から地響きが轟く。

 大地が揺らぎ、水兵団員たちは大きくバランスを崩し、それぞれ防波堤などにしがみつく。


『うわーっ!?』

『何だっ!?』

『地震か!?』

『海底火山が噴火したのか!?』


 度重なる事態の急変に、団員たちに緊張が走る。


『あれは、何だ!?』


 誰からともない叫びに、皆が東の水平線を見ると、海面が巨大な半球形のドーム状に膨れ上がっている。

 そして……。


 ドゴオオオオオオオオオオッ!!

 ドゴオオオオオオオオオオッ!!


『!!』


 ドゴオオオオオッ!! ドゴオオオオオッ!!

 ドゴオオオオオッ!! ドゴオオオオオッ!!

 ドゴオオオオオッ!! ドゴオオオオオッ!!


『!!!』


 間欠泉のごとく海を撒きながら、蒼天を貫く八本の巨柱が立ち上がり、発達した積乱雲のように黒い胴体が海面から爆発的に浮上する。

 遠目からでも分かる、島はおろか大陸かと見紛う、海洋を覆い尽くさんばかりの巨大な()()


 それは八つの首を持ちし、狂竜!


 複数の巨首は禍々しい瘴気を吐きながら、一つ一つが意思を持った生き物のように、ぐねぐねぐねぐねと(うごめ)き始める。


 ギッッ、シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッ!!

 キョオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッ!!


 ゴオオォォウッッ!!


『うわあああああーーーーーっ!?』


 精神に爪立てて引き裂くような咆哮とともに、爆風が砲撃のように東の港を襲う。

 その(そう)(おん)たるや、屈強な水兵団員ですら恐慌をきたし、嘔吐する者や気を失う者まで現れる。


 何もかもが規格外の(かい)(ぶつ)の出現に、サン・カリブ王国勢は逃げる事すら忘れて立ち(すく)む。


「ありえねえ……。何なんだっ、あのバカデケえ野郎は!?」

「ありゃあ……、もしかしたら魔導海賊(ケツアゴ)とちゃいますか?」

「何……だと?」


 ドラゴンが浮上した場所はバルバドスが墜落した場所とほぼ同一。

 さらにオーラを読む事ができるチャカは、竜の正体を気配で悟る。

 なにより、八つの竜の(あぎと)は、全てがケツのように割れていた。


「あれが、あの魔導海賊バルバドス……!?」

「八つ首の竜など聞いた事も無いぞ……?」

「ヤマタノオロチ……」


 父王の疑問に、マルガリータ姫は呟くように応える。


「何っ! 知っているのか、雷電(マルガリータ)!?」

「うむ。『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』、極東の黄金の国に伝わる神話の中の凶竜よ。だけど、あんなに()()きいものだなんて……」

『団長! 連合艦隊の第一陣が未確認生物と接触! 交戦を始めました!』

「何だとっ?」

「ああっ!? 無茶すぎんだろっ!!」


 ドンッ……! パンパンッ……!

 ドゴンッ……! ゴガッ……!


 乾いた砲音が遠くの海上から響く。

 かねてからサン・カリブ王国に迫っていた艦隊が、突然現れた山のような巨竜に進路を阻まれた事に憤り、無謀にも攻撃を始めた様子が伺える。

 だが。


 カアッッッ……!!

 ドゴオオオオオオオオオオオオーーーーーッ!!

 

『!!』


 東の海を()ぐような光線が放たれ、閃光の後に爆音が轟く。

 五千隻を超える(いなご)のように海上を埋め尽くしていた艦隊が、一瞬で消え去り炎に包まれる。

 (ふね)だけでなく海さえも赤く燃え上がり、東の空が赫銅(しゃくどう)色に染まった。


『連合艦隊が、ほぼ壊滅! 敵の大旗艦デストルクシオンも撃砕された模様です!!』

「たったの一撃で……!」

「バカ野郎どもが……ッ!」


 バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーッッ!!


 天に向け、勝ち誇るように()()るヤマタノオロチ。

 人間への復讐(うらみ)を晴らさんとするその姿、世界の破滅を果たさんとするその叫び声は、全ての終焉への序曲のように感じられた。


 狂竜ヤマタノオロチは、宇宙の大樹ユグドラシルの枝を想起させる八つの首と、赤色恒星のように(ほの)(ぐら)く輝く十六の(まなこ)を一斉に西の方角へと向ける。

 燃える赫い海と空を背景に、ぐねぐねと波を掻き分けながらサン・カリブ王国へ迫ってくる。


『未確認生物が転進! こちらに向かって来ております!』

「見りゃ分かんだよ、そんな(こた)ぁっ!!」


 焦りを隠せず、報告をする団員に怒鳴るトーマス副隊長。

 ジョン兵団長は自らの大弓に矢をつがえると、ギリギリギリと弓を引き絞る。

 だが、なぜか首を振りながら、スッと弓を下ろした。


「団長! 何を……?」

「……こんな豆鉄砲では、奴を倒すどころか傷一つ付けられまい」

「ええっ!? じゃ、じゃあエルアルコンの主砲『ミョルニル』なら!」

「あの巨体だ、仮にミョルニルを二、三発ぶちこんだところで進撃は止まらないだろう。いたずらに刺激するだけで、ただ刻限(リミット)を縮めるだけだ」

「そ、そんな……。だとしても!」

「とは言え、延命策を施したとしても、どっちにしろ西海洋が滅ぶのは時間の問題か……。西海洋はおろか、あんな怪物が暴れ出したら世界とて一ヶ月も持つまい。それこそ、奇跡でも起きない限りな」

「……」


 サン・カリブ王国水兵団長、ジョン=ロンカドルの事実上の終戦宣言。

 だが、それに抗論する者は誰もおらず、鬼の副隊長『赤獅子』トーマスさえも何も言うことは出来なかった。

 黄金の国の神話を遥かに超えた、猛り狂う八つ首竜の圧倒的な暴虐を目の当たりにし、そこにいる者達は全てを悟る。


 世界の終わりだ、と。



 本当に世界は終わっちゃうの……?


 サン・カリブ王国の姫、マルガリータは黄昏時のように変わり果てた東の空の色を見つめ、瞳を潤ませる。


 どうして、こんなことになっちゃったの……?

 みんなはただ、幸せに暮らしていただけなのに……。

 サン・カリブ島も、西海洋(マオエステ)も、わたしの故郷(ふるさと)が全部壊れて無くなっちゃうの……?

 綺麗な青い空も海も、チョップくんとの思い出も、全部ぜんぶ消えてしまうの……?


 涙で歪んでゆく景色に、マルガリータは胸元の桜のネックレスをぎゅっと握りしめる。


 そうだわ……。

 どうせ死ぬなら、チョップくんのそばで、チョップくんと一緒に……。


 マルガリータ姫は視線を巡らせ、愛しの少年の姿を探し求める。


「チョップ……くん?」


 その時、チョップは真上の空を見上げていた。


 (あか)く毒々しく染まる東の空と、青く美しい西の空が交わる、夜明け時にも似た紫色の空の彼方。


 水兵チョップはただ、空を見ていた。



 *



 断片的な記憶が、走馬灯のように甦る。



 公園の片隅のベンチに並んで座る、サン・カリブ島に来たばかりの幼い頃の僕とマルガリータ。


「なんで、ぼくのおとうさんとおかあさんは死んじゃったんだろう……」


 両親を失ったばかりの僕は、いつもシクシク泣いていた。


「もし、ぼくがいなかったら、おとうさんたちは死なずにすんだのかな……」


 悲しみに暮れる僕の様子を見かねて、マルガリータは僕の頭をぎゅーっと胸に抱きしめてくれる。


「そんな悲しいこと言わないで。わたしのおかあさまも、わたしが赤ちゃんの時に死んじゃったんだって」

「え?」

「でも、わたしはさみしくないよ? おとうさまもおじいさまもいるし、今はチョップくんもいるから。チョップくんもわたしがずーっとそばにいてあげるから泣かないで、ね?」

「うん……。ありがとう……」


 寂しい時はいつも優しく温かく包み込んでくれる。

 お母さんのような、お姉さんのようなマルガリータ……。



「チョップくん、一緒にあぶないところに行こうよー」

「いやだよ。ぼく、わざわざあぶないところには行きたくないよ」

「えー。一人じゃこわいよ、ムチャするもんなあ」

「んっ? 誰がムチャするの?」

「わたしー」

「ムチャしてる自覚はあったんだね……」

「えへへっ」


 けっきょく心配だから、いつも付き合うハメになる。

 子供のような、妹のようなマルガリータ……。



「ねえ、チョップくん。ちゅーってしようよ」


 どこで見知った知識なのか、マルガリータは僕に顔を近づけてキスをせまる。

 僕は恥ずかしかったので。


「えー、だめだよ。そういうのは大人の人がするものだよ?」

「えー、いいじゃん。減るもんじゃなしー」


 僕にすげなく断られ、マルガリータは口を尖らせる。


「じゃあー……、大きくなったら絶対ちゅーしようよ。わたしは一番最初にチョップくんとちゅーしたいから、チョップくんも一番はじめはわたしとちゅーしてね?」

「うん、分かった。大きくなったらだね」

「約束だよ!」


 満面の笑顔を咲かせる、幼なじみで一番の友達で。

 そして、恋人のようなマルガリータ……。



 とある雨の日。

 コンコン、と家の玄関をノックする音が聞こえる。

 ドアを開けると、マルガリータがひとり外に佇んでいた。


「えっ、マルガリータ!? どうしたの、風邪ひいちゃうよ?」


 するとマルガリータは、くしゃくしゃの泣き顔を見せて。


「チョップくん……。おじい様が、おじい様が……。うわあああああーーーーーんっ!!」


 雨でずぶ濡れになりながら、胸に飛び込んでくるマルガリータを僕は大事に抱きとめる……。



 マルガリータは僕がずっとそばにいて、護ってあげるって心に決めていた。

 僕はマルガリータのためなら、なんだってできる!

 だから、僕はマルガリータの笑顔のそばにずっといられるって、そう信じていたんだ……。

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