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水兵チョップ海を割る ~西の島国の英雄譚~  作者: マックロウXK
第四章 神話再来

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光速の決戦!

「何ぃ!?」

「うおおおおおーーーーーっ!!」


 ドンッ!


 チョップは大地を蹴ると、勝負を駆けてバルバドスに突撃する。

 だが、踏ん張りが効かない砂の上、しかもダメージを負った身体では、もどかしいほど、加速が足りない。


「『光の盾(エスクドデルス)』!」


 ヴヴヴゥンッ!


 魔導海賊が右手を前方にかざすと、チョップの目の前に光の壁が展開される。

 すかさずチョップは手刀で切り裂き、前進する。

 だが、それは一枚にとどまらず、光の盾は多重に張り巡らされていた!

 チョップは鋭い連続斬りでガードを斬り砕くも。


(まずい!)


 ほんのわずかな空白の時間(タイムラグ)

 だが、光の速度にそのわずかは致命的な刹那。

 光の壁を粉砕し、チョップはさらに前に出るも、すでに魔導海賊は巨大な光の球を頭上に(つく)り上げていた。

 その姿は天球を掲げ持つ、古に伝わる巨神アトラスを彷彿とさせた。


「二人まとめて、仲良くあの世にお逝きなさい! 『太陽の光魔弾(ソルバラデルス)』ッ!!」


 キュドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ……!


 光球から一斉に放たれた、無数の光弾!

 襲いくる弾丸を次々と手刀で斬り落とすチョップ。だが、とうてい左手一本では受けきれるものではない。

 そう判断したチョップは、脳から身体に伝える電気信号を、稲妻のオーラで加速する!


 ズバババッ、ズバババッ!

 ズバババババババババババババババババババッ!


「ぐおおおおおおおおおおーーーーーッ!」


 鷹の羽ばたきのように、チョップは常人には見えない高速で腕を振るう。

 だが。


「バアアアアアッ!!」


 奇怪な掛け声と共に、バルバドスの攻撃は一層の勢いを増す。

 視界を全て覆うような、光の弾幕。

 一つでも斬り損じれば、自分はもとよりマルガリータが……!

 背後に伝わる、胸を締め付けられそうな不安の感情。

 チョップは、子猫のように怯えているマルガリータの気配を背中で感じた。


 護るっ!!


「うおおおおおおおおッ! 『(しん)(よう)(がん)』ッ!!」


 バチバチバチッ!!


 チョップの左の瞳が火花を散らし、燃えるように青白く輝くと、迫る光弾が次第にゆるやかに、さらには停止()まって、見える、ように、なる。


 『(しん)(よう)(がん)』。

 眼球に稲妻のオーラで特大の負荷をかけることで、見えぬ存在(もの)すら視界につかむ神の技。

 そして使えば、二度とその()に光を映す事あたわなくなる、諸刃の()()


「おおおおおおおおおおおおおおーーーーーっ!」

「バアアアアアアアアアアアアアーーーーーッ!」


 キュドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!

 ズバババババババババババババババババババッ!


 果てることなく続く光の暴乱。

 一歩も引かず、息もつかずに迎撃するチョップ。

 だが、切断された右腕と胸の傷からブシュウッ! と血が噴出し、みるみる体力が奪われていく。


(頼む! 持ってくれ、僕の身体っ!)


 限界を迎え、いや、とうに限界を越えながら、それでもチョップは最後の力を振り絞る。

 全てを出し切り、徹底して抗う!


「死ねええええええええええーーーーーっ!!」

「だあああああああああああーーーーーっ!!」


 キュドドドドドドドドドドドドドドッ…………!

 ズバババババババババババババババッ…………!


 ガカアッ!!


 目もくらむ程のまぶしい閃光が、海底空間を白一色に染めた……。


 次第に光が収まり、マルガリータはゆっくりと瞳を開く。

 彼女が最初に見た光景は、血だまりの上に立ち、自分をかばって立ちはだかる少年の背中だった。



「ゼエッ、ゼエッ……、嘘でしょ……? あれを全部凌いだっていうの……、左手一本で?」


 アゴのケツが外れんばかりに驚愕する魔導海賊。

 網膜と視神経を焼き尽くし、左目の視力を喪ったチョップはふらっと身体を傾がせる。


「チョップくん!?」


 だが、それは攻撃に移る予備動作。チョップはドンッと地面を蹴ると、一気にバルバドスとの距離を詰める!


「ちっ!」


 赤いコートを翻しながら、すかさずバックステップを踏むバルバドス。だが、チョップはグンッと加速し海賊提督に迫る。


「くっ! 『光移動(ムーバ)』!」


 光の速度でフェイントをかけるバルバドスだったが、チョップはそのスピードをさらに超えて、雷の速度で追随する。


「ひいっ!?」


 チョップが放つ青白い手刀がバルバドスの喉元に突き立つ、まさにその時!


『そこまでだっ!』

「!?」


 シュルルルルルッ! シュルルルルルッ!

 シュルパッ! シュルパッ!


 飛来する二条のロープがバルバドスの胴体に巻き付き、がんじがらめにする。


「チョップ、王からのお達しだ。魔導海賊を殺してはならん」

「神妙にお縄を頂戴しやがれっ!」

「へっへーっ、お前にばっかりええカッコはさせへんで!」

「団長……、みんな……」


 チョップに制止をかけたのは、ジョン=ロンカドル水兵団長。

 ロープを放ったのはトーマス副隊長とチャカ。

 ぞくぞくと顔を見せる水兵団員たち。

 そして、モブ水兵団員八人がかりで砂浜を曳かれる馬車が現れ、サン・カリブ王国国王マルティニク=グアドループが降り立った。


「国王様……」

「そやつの身柄はワシが預かる。国際会議の証人台に乗せるためにな」

「国際会議……?」

「さよう、海賊を使って他国を襲わせるなど国家としてあるまじき行為。この度の悪事を明るみにすれば、帝国と交流があった国もこぞって国交を断絶するはず。さすがの帝国もまったくの孤立無援となれば、そのうち国政が立ち行かなくなるだろう。バミューダ帝国もこれで終わりだ!」


 マルティニク王はもっちりとした顔に、にっこりと微笑みを湛え。


「チョップ君、ここから先は政治(ワシ)の仕事だ。そんなになるまでよくやってくれた。君の戦いもこれで終わりだ」

「これで、終わり……」


 チョップは脱力したように、バルバドスから手刀の切っ先を外す。

 あと1ミリまで迫った死の気配に、バルバドスは冷や汗をたらしながら。


「貴方の剣は、光すら切り裂くって言うの……?」

「二発です」

「何……?」


 チョップは、左手の二本の指を立てながら。


「あと二発攻撃されていたら、僕もマルガリータもこの場にいなかったかもしれません」

「……まさか!?」


 敗因として考えられるのは、先にマルガリータを捕らえるために放っていた光魔法。

 バルバドスはバッとマルガリータの方を見ると、おてんば姫様も二本の指を立てていた。


「ぶいっ!」

「『ぶい』じゃないわよ」


 ドカッ!


「ぎゃんっ!」

「ケツアゴのくせにガタガタうっさいわ、ボケ! とっととキリキリ歩かんかい!」

「分かったわよ! 歩けばいいんでしょ、歩けば!」


 バルバドスは悪態をつきながら、チャカに蹴られてしぶしぶ西に向かって歩きだす。


「チョップくん……!」


 マルガリータは瞳いっぱいに涙を浮かべて、チョップを見る。

 自分のために喪った右腕。二度ともう開かない左目。

 姫君は自分を救った、(はく)(はつ)の英雄に駆け寄ろうとする。

 しかし。


「来ちゃダメだ」

「えっ?」

「僕は汚れた人間だ。僕は君に触れてはいけない」

「えっ……? でも、さっきチョップくんは『僕は(バケ)(モノ)じゃない』って……」

「違うんだ……、たとえ君が僕を許してくれても、僕は君と一緒にいる資格はない。僕はまだ誰にも何も許されちゃいない。何も(ゆる)されちゃいないんだ……」

「チョップくん……」


 そう言って、マルガリータに背を向けて歩き出そうとするチョップ。


 ドサッ……!


 だが戦いのダメージは深く、チョップはその場に崩れ落ちた。


『チョップ!』


 水兵団員たちが走り寄る。身体中の血液をほとんど失い、青白い顔のチョップ。


「いかん! すぐに医者に見せなければ」

「分かりました、俺がこいつを運びます」


 ジョン兵団長に応え、弛緩したチョップの身体を担ぎ上げるトーマス副隊長。


「頼んだぞ。チャカは突き刺さってるチョップの右腕を地面から抜いて、新聞にくるんで持って帰ってくれ」

「また、そんな大根みたいに」

「切り口が鋭いから、うまい事やったらまたくっつくかもしれない」

「また、そんなプラモみたいに」



 *



 ゲシゲシッ!


「ほれほれ、シャキシャキ歩かんかい!」

「あー、もう! そんな、いちいち蹴らないで欲しいものだわ!」


 ぎゃあぎゃあ言いながら、チャカに引っ立てられて歩くバルバドス。

 ジョン兵団長、チョップを肩に担ぐトーマス、心配そうにチョップを見ながらその横を歩くマルガリータ姫。

 そして、モブ団員に牽かれる馬車がその後に続く。


「チョップ、もうすぐ港だ。死ぬなよ? もう少しの辛抱だぞ」


 マタギに捕まった獲物のようにぐったりと目を閉じて、担がれるままのチョップに、トーマスは語りかける。

 それを見たチャカは、恐ろしいモノでも見たかのように。


「お……、鬼の副隊長にしちゃあ、ずいぶんお優しいでんなあ」

「あ? 俺はいつもお優しいだろうが。まあ、後輩っつうのは弟みたいなもんだからな」

「うわ、恥っず! どの口がそないな事言うてんです?」


 パカン!


「あいたあ! 後輩は弟! 可愛い弟でっせ!?」

「弟にも可愛いのとそうでないのがいるからな」


 なんでやねーん! と口をとんがらかすチャカ。チョップの容態が気になる中、ちょっとだけ場が和む。

 さらに東の港が見えて、ようやくほっと一息つく面々。

 しかし。


「団長! 報告いたします!」


 東の港に待機していたモブ団員の一人が、危急を知らせようと(いき)()き切って現れた。


「どうした、何かあったのか?」

「東方より、帝国の物と見られる船団が!」

『何っ!?』


 ジョン兵団長たちは慌てて東の港に戻ると、東の海上に目を向ける。

 そこには、海を埋め尽くすような黒影。

 帝国海軍の大船団が、蜃気楼のように揺らめきながら、その偉容を現した。


「なんてえ数だ……」

「この数は一体……?」


 おそらく、帝国が持つ海軍戦力の全てを投入しているのだろう、異様な数の船団を率いて中央にはばかるのは一際巨大な黒い戦艦。

 その正体は。


「あれは、まさか……?」

「ああ、間違いない。帝国皇帝アンドレス=バミューダが乗る大旗艦、『破壊神(デストルクシオン)』だ……!」

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