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最強剣士ナヴァザ

 フォンッ! と、空気を裂いて間合いを狭めるナヴァザ。

 チョップがそれを捉えようとするが、敵の姿は蜃気楼のようにかき消え、放った手刀は空を斬った。


「それは残像」


 チョップは真後ろから現れたナヴァザの斬撃を側転でかわすが、それも陽炎のように揺らめき消える。


「それも残像」

「えっ!?」


 なぜか両サイドから迫り来る、二人のナヴァザをジャンプで()けるが。


「それもそれも残像。こっちが本命」


 ドガアッ!


 真上から降りてくるナヴァザの剣撃を、チョップは手刀で受け止める。だが、無造作に振り下ろしただけの一撃にも関わらず、全身に響くほどの重みがあった。


「ぐっ……!」


 空中で強烈な重力加速度を加えられたが、チョップはかろうじて着地を成功させる。ナヴァザのさらなる追撃をマントを翻しながらバックステップでかわした。


「いい身のこなししてんな、そうこなくっちゃ。さすがに『分身の術』にゃあ面食らってたようだけど」

「分身の術……?」

「まるで、黄金の国の『忍者』みたい……」


 思わず漏れたマルガリータの台詞を聞きつけ、ナヴァザは船尾の彼女をビシィと指差す。


「そうそう、それ! 君よく知ってんなあ。俺はその忍者にすげえ憧れてるんだ」


 黄金の国かぶれを遠慮なく晒し、ナヴァザはマルガリータに話しかける。


「もしかして、君も黄金の国マニアかい?」

「え? はい、まあ……」

「いやー、まさかこんなところで同志に出会えるとは思わなかったなあ。しかも、めちゃくちゃ可愛いし。良かったら今度デートでもしながら黄金の国について熱く語り合わないか?」

「謹んで、お断りしますわ」


 馴れ馴れしいナヴァザのお誘いをすげなく切り捨て、あかんべえを繰り出すマルガリータ。

 見た目は清楚なお姫様の御侠(おきゃん)な姿にナヴァザが意表を突かれていると、そのスキを見たチョップは手刀を構え、熱風を孕みながら攻めかかる! 


「うおわっ!」


 ナヴァザは慌てて、チョップの攻撃を受ける。

 チョップの手刀は太刀筋の表裏がないので、両刃剣のように間断ない攻めが利く。さらに右と左の双手刀を繰り出し、剣舞のような激しい斬擊を仕掛けるチョップ。


「うわわわわわ……っと、『()(しゅ)()(れん)(ざん)』!!」


 一瞬、手数で押し切られるかのように見えたナヴァザだったが、三面六臂の阿修羅神よろしく腕が何本にも見えるほどに加速すると、チョップの技を全て受け切り、最後に鋭い突きを返す!


 ビシッ!


 頭部を狙う一撃をチョップはギリギリでかわすが、僅かに頬の皮が裂かれ、そこから一条の血が流れた。


「きゃあ! チョップくんのイケメンが!」


 声を上げるマルガリータを尻目に、チョップは頬の血を拭いながらナヴァザを見据える。


「速い……!」

「もういっちょ行くぜ、おらおらおらぁーっ!」


 さらに、ナヴァザが繰り出す連撃。速さもさることながら、その一撃一撃すべてに必殺の破壊力が込められている。

 チョップはそれらをうまく受け流しながら、反撃の機を伺うが。


「言っとくが、瞬間的に出せる力はこんなもんじゃないぜ……、『(こん)(ごう)(りき)』!」


 一瞬、両腕の筋肉がゴリラのように膨れ上がり、刀を両手持ちに持ち替えたナヴァザが、縦一閃の斬擊を叩きつける。


「まずいっ!」


 チョップは瞬間的に受け止める事は不可能と判断。素早く選択した回避行動を取ると、彼が元いた位置を『渦村正』が襲う!


 ゾオンッ!


 圧倒的な力は無駄な破壊を起こさず、甲板を穿つ。(しゃく)(こう)を放つ刀の周辺からは、ぶすぶすと煙が上がっている。

 それは、チョップの判断が正しかった事の証明。

 まともに受ければ、おそらく腕ごと全身を叩き潰されていた事だろう。

 大技の後の硬直時間を抜け目なく狙い、チョップはナヴァザを手刀で横薙ぎにするが、くねんっと身を曲げて(かわ)されると、隙間を縫うような()(とつ)が返ってくる。


 シュランッ!


 チョップはそれを紙一重で避け、もう一度黒い剣士に手刀を叩き込む。

 肉を切らせて骨を断ち、死中に活を求めるかのような、一撃必殺のカウンターを執拗に狙う。

 が、彼が斬り裂いたのはただの残影。と、同時に現れる背後からの敵影!

 暗黒剣士は、猫科の猛獣のようにしなやかな動きで、獲物(チョップ)に襲いかかる。


「くっ!」


 チョップは素早くロープを頭上に放り、マストの上に移動して態勢を整えようとする、が。


「逃がすかよ! 『()()(てん)疾走(ドライブ)』!」


 フォンッ!


 ナヴァザはダッシュをかけると、一瞬で最高速に達し、マストを垂直に駆け上がる!


「えええっ!?」


 完全に重力を無視したチートな身体能力にチョップは目を疑い、二人は同時に帆桁に飛び乗る。

 ナヴァザはレイピアのように刀を持ち替え、鋭く突きを繰り出し、チョップはそれを二本の手刀で凌ぐ。

 カンカン、カキン、シャリンと金属音が鳴り響く。


「ははっ! 俺はこういうマストの上の闘いって奴に憧れてたんだ。楽しいなあ! なあ、君も楽しいだろう! なあ!」

「あなたは、本当に、よく、しゃべりますね!」

「口さがねえのが、俺の性分なんでな!」


 二刀流とはいえ、あくまでチョップは素手での戦い。刀を持つナヴァザとはリーチで劣り、雑談を交えながら打ちかかるナヴァザの虚実取りまぜた奔放な剣術に翻弄される。


「そらそらそらそらっ!」


 弾幕のような突きがチョップに迫る。チョップは逃げ場の無い帆桁から飛び降りると、隣のマストにロープを絡みつけ、ターザンのように宙を舞った。


「おいおい、せっかくの憧れシチュエーションなのに、もっと楽しませてくれよなー!」


 肩透かしを食らったナヴァザは、口を尖らせながらマストに縦横に張り巡らされたロープをタタタンと蹴って、チョップに軽く追いすがる。


「『(くう)()(ざん)』!」


 チョップは宙空で振り向き様に手刀を空撃ちし、真空の刃がナヴァザの不意を突く。自由の効かない空中では避ける事はかなわないはず、だが。


「しゃらあっ!」


 ナヴァザは反射的に刀を一振りし、空刃を霧散させる。

 そして、宙返りしながら体勢を立て直して着地。

 すると、右腕に青白いオーラを纏わせたチョップが空から降って来た!


「『雷撃の剣(カラドボルグ)』……、『船割り』っ!!」


 ドッ……、ゴオオオオオーーーーーンッ!!


 ガレオン船をも両断する、超必殺技『船割り』が暗黒剣士に炸裂した。だが。


「ぐおおおおーーーっ! 『金剛力』ーっ!!」

「なっ……!?」


 腕の筋肉を巨大化(パンプアップ)させて、それをナヴァザは日本刀で受け止めた!


「どっせーいっ!」

「うわあっ!?」


 ナヴァザが刀を払いのけると、振り飛ばされるチョップ。

 恐るべくは、古の名匠が鍛えし妖刀『(うず)(むら)(まさ)』の頑強さ。あるいは『南海の黒豹』の実力か。

 バク転をしながら態勢を整えたが、チョップは苦い顔をしながら剣士を睨む。


「『雷撃の剣(カラドボルグ)』が止められるなんて……?」


 対してナヴァザは、受けた衝撃で痺れた手をぷらぷらさせながら、楽しそうに笑顔を見せる。


「とんでもねえ技を使うもんだなあ。マジで死ぬかと思ったぜ」


 ナヴァザは逆手持ちに渦村正を構えると、刃に漆黒のオーラを渦巻かせる。


「ほんじゃあ、俺も()せてやるよ。殺魔(さつま)次元流じげんりゅう()(のん)(ほう)』っ!!」


 グバアッ!


 ナヴァザが地を這うような軌道から剣を振り抜くと、巨大な暗黒の刃が迫り来る。とっさにかわそうとするチョップ。


「!」


 だが、目を配ると背後には、船尾にいるマルガリータたちの姿が。


「くっ! 『雷撃の剣(カラドボルグ)』!!」


 彼女らを庇い、チョップはほとんどタメの時間が無い不完全な状態で必殺の剣を放つ。かろうじてその黒刃をかき消したが。


 バヂィ!


「ぐうぅっ!」


 一瞬の判断後れが影響したか、衝撃までは相殺出来ず、弾かれたチョップは甲板の上をもんどり打って叩きつけられた。


「チョップ!」

「チョップくん!」

「大丈夫です……、ほんのかすり傷ですから……」

『!』


 船尾のサン・カリブ陣営から声が上がるが、すぐにチョップは立ち上がる。だが、その胸には一条の裂傷が刻まれていた。


「チョップくん、そのケガ……」

「心配しないで。切れたのは服と皮一枚だけだから」


 マルガリータに心配をかけぬよう優しくそう言うと、チョップはけして浅くない傷を抱えながら前を向いた。


「強い……」

「本当にすげえな。ここまで俺と互角に渡り合える奴は初めてだ。しかも()()でだろ? 大したもんだよ。君の名前を聞いてもいいか?」

「……王国水兵団、水兵チョップ」

「チョップか。『斬擊』を意味する言葉だな。君にピッタリの良い名前だ」

「変な名前と言われる事のほうが多いんですけどね。名前を誉めてもらえたのは、あなたで二人目です」


 少年水兵と暗黒の剣士は不敵にニヤリと笑い合う。


「だが、君は俺には絶対に勝てない」

「……それはどうしてですか?」

「そうだな、例えば……」


 ナヴァザは、船尾で不安そうに見守っているマルガリータを指差し。


「君は、その女の子の事が好きだろ?」

「なっ!?」


 急に話の矛先を変えられ、困惑するチョップにナヴァザはニコニコしながら言葉を続ける。


「いや、さっき俺の攻撃から彼女達を必死で守ってたし。あと、俺がその娘にナンパしてたら、ちょっとイラつきながら仕掛けて来たし」

「えっと、いや、それは……」

「おおっと、分かってるから皆まで言うな。彼女可愛いもんなあ。胸も大きいし、おっぱいも大きいし」

「なんで同じ事二回言うんですか。というか、あなたにそんなこと関係ないでしょう」


 うんうん、と勝手に納得しながらうなずくナヴァザに、チョップは怒りと照れを滲ませながらツッコむ。


「いんや、関係なら大アリだ」

「え……?」

「なぜなら、お兄さんは恋バナが大好物だからだ!」

「はあ?」

「いやあ、青春って感じでいいよな。お兄さんそういう甘酸っぱい話は、居酒屋で飲みながら語り合いたかったなあ」

「本当になんなんだよ、この人……」


 一瞬も気が抜けない真剣勝負の真っ只中で、のけのけと与太話を繰り広げるナヴァザに、呆れ果てるチョップだったが。


「ま、それはさておき。つまり、俺は刃を交える事で戦う相手の人となりを視る事ができるって訳だ。そして、俺の見立てじゃあ……」


 先ほどまでのチャラけた調子からガラッと表情を変え、ナヴァザはチョップに通告する。


「君は、早く()()()()()()()んじゃないのか?」


 赤道直下に位置する常夏の熱帯地方、西海洋(マオエステ)。その海上にありながら、船内に冷たい空気が立ち込める。


「君の闘いぶりからは、生への執着が薄いように感じた。危ういっていうか、頭のネジが外れてるっていうのかな? 自分では気付いてないかも知れないが、君は死に場所を探してるように見えた」

「……」

「それに、君はこの期に及んで人を手にかける事を恐れている。それが君が俺に勝てない理由だ」

「……」

「おそらく、君は幼少の頃に人の(いき)(しに)に関わる大きなトラウマを抱えているようだな。近しい人を(うしな)ったり、殺人の現場を目の当たりにしたりとか」

「……」

「あるいは、君自身が……」

「言うなあっ!!」


 逆上したチョップは()()(しゃ)()に斬りかかるが、そこにナヴァザは存在しない。

 上か!? 後ろか!? チョップが剣士の姿を完全に見失っていると。


「闘いの最中に、冷静さを欠くのは致命的だぜ」


 床に映る影から染み出るように、寝そべった状態のナヴァザがチョップの真下から現れると、鳩尾(みぞおち)を目掛けて跳ね上げるような蹴りを放つ!


「ぐはっ!!」


 チョップはそれをまともに食らい、苦しい息を吐きながら宙へと打ち上げられる。しかも上空には、それを待ち構えて『渦村正』を大きく振りかぶるナヴァザの姿が!


「殺魔次元流、(こん)(ごう)(りき)……『(あやめ)』!!」


 ドキャァッ!!

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