収穫祭
「ローテ、そろそろ出るぞ」
とうさんに声を掛けられ、家族三人で畑へと向かう。秋も深まってきた今日は年に一度の収穫の日だ。この日ばかりは村人総出で作物の収穫に向かう。もちろん、子供も全員参加だ。この収穫量によって、今後蓄える食料の量が決まるのでみんな目は真剣。
「では、今年も皆の働きと神々に感謝を」
畑の前にみんなが集まったことを確認した村長の声で、全員が胸の前で腕を交差させて、片膝をつき、頭を垂れる。この世界では神様が国を作って、その神様の声を聴いて王族が国を運営しているらしい。だから収穫とかも全部神様のおかげってことになるらしいんだけど、僕はかあさん達の努力のおかげじゃね?と密かに思っている。まぁ、誰にもそんなこと言ってないけどね。
「では、収穫に入る。皆、丁寧に作業するように!」
村長の掛け声でそれぞれの持ち場へと散っていく。女衆は畑の収穫へ。男衆は収穫物を分けるための場所や運ぶための道具を点検に。そして、僕たち子供はというと、女衆が収穫したものを男衆へと渡すため畑の側で待機だ。
「よう、ローテ。今年は留守番って言われなかったのな」
「あ、お兄ちゃんたち」
やる気満々で待機していた僕に話しかけてきたのはカルロ達三兄弟。実は今この村には子供が僕たちしかいない。なぜならみんな学校に行っているからだ。学校に通っている子供は長期休みの期間以外は村に帰ってこないので、毎年収穫祭の時期には子供がいない。つまり、僕たちがいなくても何にも問題はないってことだ。
「僕だって日々大きくなってるんですー」
「まだまだ小っこいくせして何言ってるんだよ」
「うわっ、もー!頭わしゃわしゃしないで!」
「キース。それぐらいで止めとけ」
サビク兄ちゃんが間に入ってくれたおかげで、やっと解放された。キース兄ちゃんは毎回人に会うたびに頭をぐしゃぐしゃにするから、あんまり好きじゃないんだよね。サビク兄ちゃんがいないと全然止めてくれないし。
「あんた達、しっかり働きなさい!」
「「「「はーい」」」」
おばさんからの叱責で僕たちも動き始める。うわっ、ちょっとの間で結構収穫物が溜まってる。これは急いで運ばなきゃ。両手いっぱいに抱えてっと。
「あんまり無茶するなよ。自分のペースで運んで倒れないようにしろ」
「ありがとう、カルロ」
歩き出す前にカルロが横から落ちそうだったジャガイモをもって運んでいってくれた。やばいよ、あれがさりげない紳士ってやつだね。僕も見習って素敵カッコいい紳士になるんだ!まずは自分にできる量を測るところから始めよう。まずはこの量で倉庫まで一往復だ。
それからはみんな黙々と自分の仕事をこなしていった。まぁ、キース兄ちゃんだけは僕にちょっかいを出して、サビク兄ちゃんやおばさんたちに怒られていたけどね。僕は何もしてないけど、ちょっとだけすっきりした気分。
「今年はこんなもんか・・・」
「この後の狩りに影響するな・・・」
収穫も終わり、倉庫でも男衆の仕分け作業が終わったみたいだ。なんだかみんな顔色が少し暗い。今年は冷夏だったせいかな?例年より収穫量が少ないんだって。冬の間は必ず雪が降るし、ちょっとだけ心配だな。
「さぁ、収穫は終わった。貴族街へ向かうものはここへ」
「はい!」
村中の人々が集まったのを見て、村長が声を上げる。そしてそんな中4人の男衆が村長の前へと進み出る。この4人は村でトップの実力を誇る男達だ。貴族街へ行くにももちろん森を通らなければならないので、強さは必須。僕が憧れる村の英雄なのである!その中には僕のとうさんもいる。
「今年も献上品を頼むぞ」
「お任せください」
村長にそれぞれ声を掛けられる。村長と話してる時のとうさんはいつもより何倍もカッコいい。家でもそういう態度でいてくれたら僕も素直に目標にできるのになあ。僕がそんなことを考えている間に出発の準備が整い、村の門までみんなで移動する。
「では、くれぐれも油断なきよう。エルマレーベの神の加護がありますように」
「ありがとうございます。じゃあ、いってきます!」
みんなの歓声に見送られ、4人は出発していった。行き帰りで一月ほどはかかる。
「ローテ、帰りましょう」
「うん」
門が閉じる最後まで見送ってからかあさんと家に帰った。少し寂しそうなかあさんの横顔を見て、決意を新たにする。とうさんがいない間、僕がかあさんを守るんだ!
今回からちょっと1話が長くなるかもしれません。ゆっくり書いていきます。